
今回は、不動産の売買契約書のチェックです。ケーススタディーを用意しましたので、一緒にその内容をチェックしてみましょう。
売買契約書のチェック
早速、一般的な建物やその敷地の売買契約書を見てみましょう。
不動産売買契約書 売主 甲田太郎(以下「甲」という)と買主 山次郎(以下「乙」という)は、甲所有の後記建物およびその敷地(以下「本物件」という)について本日、以下の通り売買契約を締結した。 売買代金の支払い方法 第◯条 乙は前条の売買代金を次の通り甲に支払う。なお、手付金は残代金支払時に売買代金の一部に充当し、手付金には利息を付さない。 手付金(現金)金◯◯円也 本契約締結時 売買対象面積 第◯条 本物件のうち敷地については、境界確定後の実浪1面積によるものとし、これが登記記録記載の面積と相違した場合は1㎡当たり金円◯◯也で残代金支払時に精算する。 2:建物については実際の構造または面積が登記記録の記載と相違しても、甲、乙互いに異議を申し出ず売買代金の増減を請求しない。 危険負担 第◯条 本契約締結後、本物件の引き渡し前に甲、乙いずれの責めにも帰すことのできない事由により、本物件の全部もしくは一部が火災、流失、陥没その他により滅失もしくは毀損した場合は、甲の負担とし、甲は本契約を解除することができる。 この解除の場合は、甲は、速やかに受領した金銭を無利息で乙に返還しなければならない。 2:前項にかかわらず、毀損の程度が少なく修復可能な場合は、甲はその負担で修復し、乙に引き渡す。 瑕疵担保責任 第◯条 本物件に隠れるf隈疵がある場合、甲は引き渡し後6カ月以内に限りその負担で瑕疵の修復を行う。なお、乙は修復以外に損害賠償の請求など一切の請求を行わない。 |
では、上記について順を追って見ていくことにしましょう。
不動産売買契約書 売主 甲田太郎(以下「甲」という)と買主 山次郎(以下「乙」という)は、甲所有の後記建物およびその敷地(以下「本物件」という)について本日、以下の通り売買契約を締結した。
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上記までのところで押さえておきたいポイント
登記には公信力がない、だからより慎重に行動する必用がある。
所有者を確認する場合は、不動産登記記録の権利部[甲区欄]の名義人を確認します。
しかし、登記記録上の所有者と真の所有者とが異なる場合もあるので注意してほしい。
例えば、書類を偽造して登記された場合、まったく事情を知らずに、取引をしても、善意の第二者は保護されません。
なぜなら、そもそも登記には公信力がないからです。
ですから、少しでも違和感を感じるような場合は、固定資産課税台帳や固定資産税の納税者を確認するなどしてより慎重に行動したほうがいいでしょう。
未成年者が自己の不動産を処分する場合は?
未成年者が自己の財産を処分する場合は、原則として法定代理人の同意が必要です。
法定代理人の同意を得ない財産処分については、本人または法定代理人は、これを取り消すことができます。
なお、法定代理人とは未成年者の父母のことです。
したがって、未成年者が所有している、あるいは共有者となっている財産を処分する場合は、父母の同意を得るか、父母の代理によって行われたものでなければなりません。
相続した不動産の場合は?
遺産分割前の場合は、その不動産は相続人全員の共有になります。
ですから、相続人全員との売買契約ということになります。
ですから、本来であれば遺産分割をして所有者が確定し、相続登記が済んだ時点で売買するのが望ましいです。
その代理人に権限があるか?
代理人との間で売買契約を締結することも可能です。
この場合、権限を与えられた代理人との取引については、その効果は直接、本人に及ぶことになります。
したがって、その代理人に代理権があるのかどうか、またその範囲も確認する必要があります。
本人にその事実を確認するとともに、その証として実印を押印した本人の委任状と印鑑証明書を取得しておくといいでしょう。
売買代金の支払方法の取り決め
売買代金の支払い方法 第◯条 乙は前条の売買代金を次の通り甲に支払う。なお、手付金は残代金支払時に売買代金の一部に充当し、手付金には利息を付さない。 手付金(現金)金◯◯円也 本契約締結時 |
ここで押さえておきたいポイント
手付金とは一定の目的のために授受される金銭のことです。
手付金 | 証約手付 | 契約成立の証 | |
解約手付(自分) | 契約解除を留保する | ||
解約手付(相手) | 履行に着手した | 契約解除できない | |
履行に着手してない | 契約解除できる | ||
違約手付 | 契約違反の場合に違約罰として没収される |
売買契約においては、上記のようなカタチで買主から売主に対して手付金が渡されます。
民法は、手付金が交付された場合は解約手付と推定しています。
ですから、解約手付が交付された場合は、相手方が契約の履行に着手するまでは、
- 買主は交付した手付金を放棄して、契約を解除することができる。
- 売主の場合は、手付金の倍額を償還すれば解約することができる。
※手付により契約が解除される場合は、特約がない限り損害賠償の請求はできない。
履行の着手とは?
- 売主:登記や引き渡し。
- 買主:代金の提供。
ですから、履行の準備は、着手したことにはなりません。
例えば、代金支払いのための借入申し込みなどです。
また、契約書にもあるとおり、手付金は通常、契約が履行される場合は、代金の一部に充当されます。
代金の2割をこえる手付金は違反行為
【宅地建物取引業法】
宅地建物取引業者が自ら売主となる場合は、代金の2割をこえる手付金を受領してはならない。また、手付金は、その手付金がいかなる性格のものとしても、解約手付としての性格は失わない(ただし買主は宅地建物取引業者ではない場合同法39条)。
売買対象面積のチェック
売買対象面積 第◯条 本物件のうち敷地については、境界確定後の実測面積によるものとし、これが登記記録記載の面積と相違した場合は1㎡当たり金円◯◯也で残代金支払時に精算する。 2:建物については実際の構造または面積が登記記録の記載と相違しても、甲、乙互いに異議を申し出ず売買代金の増減を請求しない。 |
- 土地の面積については登記記録面積を対象とするのか?
- 実測面積を対象とするのか?
登記記録面積で売買する場合
後日、実測を行い実測面積が登記記録面積と相違していたとしても売買代金の増減清算は行いません。
実測面積で売買する場合
契約時に実測面積が判明していれば、売買代金の清算の必要はありません。
売買契約から引き渡しまでの間に土地の実測を行う場合
登記記録面積をもとに売買代金を取り決め、後日、登記記録面積と実測面積が相違したときは、その面積の差につき売買代金を増減して清算します。
建物の場合
登記記録面積と実際の面積が相違しても、通常、売買代金は増減しません。
建物の登記記録面積は壁芯計算による面積です。
ただし、マンションの専有部分の登記記録面積については、内法計算による面積で表示されます。
※壁芯面積:壁の中心線による面積。
※内法計算:壁の内側を基準にして測ること。
危険担保をチェック
危険負担 第◯条 本契約締結後、本物件の引き渡し前に甲、乙いずれの責めにも帰すことのできない事由により、本物件の全部もしくは一部が火災、流失、陥没その他により滅失もしくは毀損した場合は、甲の負担とし、甲は本契約を解除することができる。 この解除の場合は、甲は、速やかに受領した金銭を無利息で乙に返還しなければならない。 2:前項にかかわらず、毀損の程度が少なく修復可能な場合は、甲はその負担で修復し、乙に引き渡す。 |
それでは、契約後、引き渡し前に建物が焼失した場合はどうでしょうか?
つまり、売主は買主に建物を引き渡すことができないケースです。
この場合、買主は売買代金全額を支払わなければならないかどうかという問題です。
民法では、買主は、売買代金全額を支払い、建物が焼失した敷地を引き取ることとなります(民法534条)。
これは、売主の責任でも、買主の責任でもない場合の話です。
ですから、売主が火事を出してしまった場合は、売主の債務不履行と解釈されます。
民法の定めは任意規定になるので通常は上記の条文のように、特約により危険負担は売主が負うものとしています。
また、売り主には契約解除権というものがあり、修復が可能で売り主負担で修復が可能なときは契約を継続するものとしています。
瑕疵担保(かしたんぽ)責任のチェック
瑕疵担保責任 第◯条 本物件に隠れるf隈疵がある場合、甲は引き渡し後6カ月以内に限りその負担で瑕疵の修復を行う。なお、乙は修復以外に損害賠償の請求など一切の請求を行わない。 |
目的物に通常の注意を払っても、欠陥(瑕疵)が発見できなかった場合はどうでしょうか?
例えば、引き渡後に雨漏りがしたり、シロアリの被害で基礎部分が相当傷んでいたような場合です。
瑕疵担保責任の視点から視た場合、売主は、その瑕疵について無過失であったとしても責任を負わなければなりません。
また、こうした物的なことだけではなく、法律的な欠陥も隠れた瑕疵に含まれます。
例えば、都市計画道路用地として決定されている土地で、住宅を建築することができない場合などがこれに該当します。
また、買主が瑕疵を知ったときから1年以内に権利を行使する必要があります。
契約を解除する
買主は、契約の目的を達することができないときは、契約を解除することができます。
損害賠償を請求する
契約解除に至らない場合には、損害賠償を請求することができます。
また、暇疵担保責任は任意規定なので、特約により売主の責任を免除したり、内容を変更したりすることが可能になっています。
例えば、上記の条文では、損害賠償に代えて瑕疵の修復のみとし、その期間も引き渡し後6カ月以内としています。
宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地または建物の売買契約の場合
民法の規定より買主に不利となる特約をすることはできないことになっています。
因みに買主が権利行使できる期間を、物件の引渡日から2年以上とする特約も可能です。
しかし、買主が宅地建物取引業者ではない場合に限定されます(宅地建物取引業法40条)。
さいごに
さいごに請負契約のケースです。
自分の希望する建物を建設業者になどと契約して建ててもらう場合です。
目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求したり、瑕疵の修補に代えて、またはその修補とともに、損害賠償の請求をすることができます。(民法634条)。
目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、原則として契約を解除することができます。しかし、建物その他の土地の工作物の請負契約は解除できません(民法635条)。
したがって、建物が完成した後は、重大な瑕疵があったとしても、契約を解除し、建物の除去などを求めることはできません。
一方、請負人が仕事を完成しない間は、いつでも請負契約を解除することができます。
この場合、請負人の損害は補ってあげないといけません。(民法641条)。
次回はもめごとのきっかけとなりかねない境界や相隣関係について解説したいと思います。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。