

今回の不動産活用のガイダンスは、競売の概要と競売物件の調査、現地調査、法令上の制限の調査など競売手続きの流れ、競落人が引き受けなければならないことなどについてです。
競売とは?
競売とは債権者が債務不履行状態になった債権を回収するための法的手続きです。
債務者とは抵当権者などのことで、債務不履行とは債務の本旨に従った債務の履行をしないことを言います。
競売の概要
債権者の申し立てにより裁判所を通じて、以下の手順によって行われます。
- 担保の目的となっている不動産を強制的に処分(売却)。
- 債権者はその売却代金より弁済を受ける。
誰でも裁判所の定める方法によって競売不動産を買い受けることができます。
ただし、債務者は買受の申出はできません。
なぜなら、そもそも債務者にそれだけの資力があるのならば、弁済を優先すべきだからでです。
このことは民事執行法68条に定められています。
また、農地や採草放牧地などは、法令により不動産の取得が制限されています。
例えば、競売の対象不動産が農地である場合は、農地法の許可または届出が必要となります。
買受方法
最高額をつけた人に売却する期間入札と、期間入札によって落札されなかった場合に先着順で売却する特別売却とがあります。
- 裁判所が一定の期間を設けて封書による入札を受け付ける。
- 開札期日に入札参加者立ち会いのもとで開封を行う。
情報の入手方法
住宅情報誌や新聞、裁判所で直接物件の概要を閲覧することができます。
また、インターネットを使って情報を検索することも可能です。
競売手続きの流れ
- 公告
- 物件調査:書類の閲覧 ・現地調査 ・役所関係の調査
- 入札期間:保証金の払い込み ・入札
- 開札:落札 ・売却許可の決定
- 代金納付期限の通知
- 代金納付:所有者の取得 ・現金一括納付
- 所有権移転登記:代金納付と所有権移転登記との関係
- 占有者排除:引渡命令 ・明渡訴訟
- 不動産の引き渡し
それでは、上記の流れについて一つ一つ見てくことにしましょう。
広告に関しては特筆すべき点はないので、2番目の「物件調査からはじめたいと思います。
競売物件の調査
書類の閲覧
競売不動産の調査には、競売申請されている事件番号ごとに備え付けられている資料を閲覧するという方法があります。
なお、資料を閲覧するには裁判所の資料閲覧室におもむく必要があります
ただし、作成後から閲覧期間までの時間の経過によって、滞納管理費の額や占有者の氏名などが変動している場合もあります。
これは、資料作成の時点で調査を行った執行官がその調査結果をもとに作成しているため、どうしてもそのような時間的な差異は避けられません。
これらを承知した上で以下の資料を参考にしましょう。
物件明細書
競売不動産についての裁判所の調査結果が記載されています。
評価書
競売不動産の評価額が記載されているので、売却基準価額の根拠となります。
また、対象物件の利用状況や都市計画法上の規制などを読み取ることもできます。
現況調査報告書
執行官が現地調査を行い、その調査した方法・経過が記述されていて、その内容に関する執行官の意見も付されているものです。
現地調査
通常の不動産を購入する場合と何も変わりません。
対象物件の外見はもちろんのこと、建築基準法上の接道を満たすか、件外物件の存在、境界の調査(越境などを含む)、占有関係の調査などを行います。
マンションの場合には管理組合などへのヒアリングも必要でしょう。
権利関係
権利関係の調査は、法務局や出張所で行うことになります。
法令上の制限の調査
法令上の制限の調査は主に市町村役場にて行うことになります。
調査の範囲などは、最低限、不動産売買時に仲介業者が行う重要事項説明書の内容は調査しておく必要があります。
公共設備の調査
上下水道・ガス配管状況などの公共設備の整備状態の調査を行います。
物件によっては、不明確な部分もありますから、買い受け後に負うリスクを軽減する上でも細かく調査しておいた方がいいでしょう。
しかし、実際問題として、入札予定者は物件内に立ち入って調査を行うことができません。
つまり、そのリスクは買受人が負わぎるを得ないということになります。
入札
入札に参加するには、裁判所が定める額および方法による保証の提供が必要です。
保証の額は売却基準価額の20%相当額程度です。
入札は裁判所へ持参しても、郵送でも行うことができますが、所定の書類によって行う必要があります。
代金納付
売却決定期日に売却許可決定がされ売却許可決定がなされ、執行抗告がなければ売却許可が確定します。
確定したら、裁判所から交付される代金納付通知に記載された期日までに代金を納付します。
所有権移転登記
管轄の裁判所によって異なりますが、代金納付が完了すると、裁判所は法務局に嘱託登記を依頼し、管轄法務局は所有権の移転と抵当権や抹消すべき賃借権の抹消登記を行います。
移転登記などが完了したら、登記識別情報が買受人の手元に送付されます。
占有者排除
占有者がいる物件で、物件の明け渡しを進める手段には次のような方法があります。
任意交渉
当事者の合意が成立すれば問題がありませんが、交渉が成立しなければ、明け渡しはできません。
引渡命令
引渡命令とは、短期間に明け渡しを可能とする手続き方法です。
引渡命令の発令を受ければ占有者に対し明け渡しの強制執行ができます。
通常の明渡訴訟よりも簡便な方法なので、買受人の負担を軽減できるというメリットがあります。
【引渡命令の対象となる相手方】
- 債務者または所有者(これらの相続人なども含む)
- 買受人に対抗できる占有権限を有していると認められない者。
引渡命令の対象となる占有者か否かについては物件明細書などで確認する必要があります。
明渡訴訟
買受人が占有者に対して明け渡しを求める裁判(明渡訴訟)を起こして、訴訟で勝訴判決を得た上、占有者に対して明け渡しの強制執行をするという方法です。
ただし、訴訟手続きは費用と手間がかかるので、買受人には相当程度の負担があります。
競落人が引き受けなければならないこと
賃貸借期間が満了しても法定更新されることにより、買受人は賃借人に対し更新を拒絶するには正当事由を要することとされています。
先順位賃借権
これは、先順位賃借権は借地借家法の適用があるためです。
つまり、先順位賃借権とは、抵当権設定登記前に設定された賃借権のことで、賃借権付不動産の購入に該当するということです。
また、抵当権の設定登記と賃借権の設定の前後は、各々の対抗要件の具備の前後によります。
※先順位賃借権は競売による買受人に対抗できる。
では、抵当権設定登記後の賃借権の場合はどうでしょうか?
抵当権設定登記後の賃借権の場合
抵当権設定登記後の賃借権は、期間の長短にかかわらず、すべて抵当権者に対抗できないことになっています。
ただし、利用関係の調整が必要なケースも有るので、次のような対策を講じています。
建物明渡し猶予期間の設定
競売手続き開始前から建物を使用している賃借人は、買受から6カ月間は明け渡しが猶予されます。
この場合、明け渡しを猶予するための調整なので、買受人は貸主の地位を承継するということではありません。
したがって、敷金返還義務は負いません。
また、土地に関してはこのような調整はできません。
では、抵当権設定の後の賃借権についてはどうでしょうか?
抵当権者の同意した賃借権
たとえば、収益物件などで抵当権者に対抗できないとなるとどうなるでしょうか?
賃借が敬遠され収益物件としての価値が減少することになります。
そうしたことを避けるために配慮する必要があります。
つまり、抵当権設定に後れる賃借権だったとしても、先順位抵当権者がすべて同意している、という登記がなされている場合は、抵当権者や競売の買受人に対抗できないとまずいわけです。
では、管理費が発生するマンションの場合はどうでしょうか?
管理費などの支払い義務
区分所有者がマンションの管理費や修繕積立金を滞納していた場合は、マンションの買主(特定承継人)が支払い義務を負うことになります。
これは、「建物の区分所有などに関する法律8条」に明記されています。
つまり、競売マンションに滞納管理費などがある場合は、買受人もその支払い義務を負うことになるということです。
仮処分の登記がある場合
仮処分の登記とは、具体的には、消滅する担保権や、差押えまたは仮差押えに優先する処分禁上の登記がなされている場合のことです。
このような場合には、その後に設定された抵当権は仮処分債権者に対しては無効となります。
したがって、その後に競落した買受人も仮処分債権者に所有権の取得を対抗できないという困った状況になります。
ですから、そのような事態にならないように十分留意する必要があります。
留置権には要注意
もしも、その物件の占有者がその物に関して修繕費などを支出した場合、その修繕費の支払いを受けるまで、その物件を占有することができます。
これを「留置権」と呼んでいます。
このような場合、買受人はその修繕費を支払わない限り物件の明け渡しを受けることができないので要注意です。
土地や建物の一方にだけ抵当権が設定される場合
土地と建物は法律上別々の不動産とされています。
したがって、土地や建物の一方にだけ抵当権が設定される場合、その一方だけが売却されるというケースがあります。
例えば、法定地上権が成立する場合などがそれに該当します。
このようなかたちで競売の対象になっていない物件のことを「件外物件」と呼んでいます。
競売不動産の特徴
不動産の売買は通常、仲介業者などを介して行います。
この場合、重要事項の説明が義務づけられているので、買主はその物件の権利・義務、法令上の制限などの内容を知ることができます。
しかし、競売不動産の場合は、購入前の権利・義務の調査および内容の把握、法令上の制限、買い受け後の問題まで、あらゆることが買受人の責任になります。
こうした問題を相談する場としては、競売不動産購入専門のコンサルティング会社などがあります。
事前調査から競売不動産の留意点、占有者排除の方法についてのコンサルティングも行っているようです。
格安だけど厄介な問題を抱えることも有る
競売不動産は、通常の市場で流通している不動産よりも格安の物件が多いことは確かです。
しかし、通常の不動産売買に比べると手続きが複雑で、資金手当てが必要であり、ケースによっては占有者排除などの課題を抱えてしまう場合もあります。
こうした問題に対処できるのであれば、かなり魅力的な物件ですが、価格の割安感がどの理由に起因するかを見極めた上で、買い受けを検討していく必要があるでしょう。
代金が納付できないと保証は返還されない
不動産競売では買受けの申し出に際し、売却基準価額の20%相当額の保証を提供する必要があります。
もしも、買受人が期限までに落札した物件の代金を納付できない場合は、買受人の地位を失うだけではなく、納付した保証も返還されません。
これは、不動産競売に際して、ひやかしの参加を防止するのが目的です。
次回は不動産の関連法などについて解説してみたいとおもいます。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。