

今回は、宅地評価の具体的な例、固定資産税評価額、課税台帳の閲覧制度など相続税法上の不動産評価についてです。
相続税法・財産評価
相続税法による財産評価については同法第22条で「相続、遺贈または贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による」と抽象的に評価の原則を規定しており、具体的な評価方法に関しては地上権、永小作権など、特定の財産の評価方法を定めているにすぎない。
国税庁では、財産評価基本通達において各種財産の具体的な評価方法を定め公表している。
この財産評価基本通達に定める土地などの評価を中心に説明する。
時価の意義
相続、贈与および地価税における時価とは、課税時期(評価時点)においてそれぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいう。
すなわち、時価とはその価額ならばいつでも正常な状態で他の財貨と交換できる客観的な交換価値を示す価額で、この価額を形式的、画一的に定めたものが財産評価基本通達の価額である。
相続税法における財産評価の仕組み
土地などの評価上の分類
土地、土地の上に存する権利の評価は次表の区分によって行われるが、この場合の地目などは登記記録上の地目にかかわらず課税時期における土地の現況によって判定される。
図表4‐4
財産の種類 | 地目などによる分類 | 評価上の分類 |
土地など | 宅地 | 自用宅地、貸宅地、貸家建付地 |
農地(田、畑) | 純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地 | |
山林 | 純山林、中間山地、市街地山林 | |
原野、牧場、池沼 | ||
鉱泉地 | 鉱泉地、温泉権、引湯権 | |
雑種地 | ||
借地権 | 借地権、貸家建付借地権、転貸借地権、転借権 | |
定期借地権など | 定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権、一時使用目的の借地権 | |
永小作権、耕作権 | ||
地上権、区分地上権、区分地上権に準ずる地役権、賃借権、占有権 | 宅地、山林、原野、牧場、池沼、雑種地の地上権など |
土地などの評価
①評価方式による分類
土地などの価額は、地目別に、 a)路線価方式、b)倍率方式、 c)宅地比準方式のいずれかの評価方式によって評価する。
ア)宅地、借地権……路線価方式または倍率方式
イ)農地(耕作権を含む)、山林、原野、牧場、池沼、雑種地……倍率方式または宅地比準方式
②宅地の評価
宅地の価額は、1画地の宅地ごとに評価する。1画地とは利用の単位となっている1区画の宅地をいう。
a)路線価方式による評価
路線価方式は、評価対象の宅地の面する路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう)に付された路線価をもととして、その宅地の形状などに応じた価額の調整を行った金額により評価する方式である。
図表4‐5 評価手順
①利用単位の確立 |
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②地積の決定 |
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③路線価の確定 |
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④地区区分の確保 |
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⑤各地の調整率の確定 画地計算 |
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⑥相続税評価額 |
評価しようとする宅地が路線に接している状況や形状などに応じて以下の画地調整を加えて計算する。
図表4‐6
項目 | 内容 | |
補正 |
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加算 |
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宅地評価の具体例
路線価方式による宅地評価の具体例を図表4-7に示す。
これにより図表4-6の各種補正率、加算率の適用方法が理解できる。
図表4‐7‐1、 一方のみが路線に接する宅地(普通商業・併用住宅地区)
路線価×奥行35mに応ずる奥行価格補正率×地積
50万円×0.98×700㎡
評価額:3億4,300万円
図表4-7-2、角地の場合(普通商業・併用住宅地区)
(正面路線価×正面路線からの奥行距離に応ずる奥行価格補正率+側方路線価×側方路線からの奥行距離に応ずる奥行価格補正率×側方路線影響加算率)×地積
(50万円 × 1.00 + 40万円× 1.00 × 0.08)×750㎡
評価額:3億9,900万円
図表4-7-3、準角地の場合(普通住宅地区)
(正面路線価×奥行40mに応ずる奥行価格補正率+側方路線価×奥行15mに応ずる奥行価格補正率×側方路線影響加算)×地積
(45万円 × 0.92 + 37万円× 1.00 × 0.02)×600㎡
評価額:2億5,284万円
図表4-7-4、正面と裏面に路線がある場合(普通住宅地区)
(正面路線価×正面路線からの奥行距離に応ずる奥行価格補正率+裏面路線価×裏面路線からの奥行距離に応ずる奥行価格補正率×ニ方路線影響加算率)×地積
50万円×0.98+25万円×0.98×0.02×560㎡
評価額:2億7,714万4,000円
図表4-7-5、間口が狭小の場合(普通住宅地区)
路線価×奥行価格補正率×間口狭小補正率×地積
30万×0.97×0.94×45㎡
評価額:1,230万9,300円
図表4-7-6、奥行が長大な場合(普通住宅地区)
路線価×奥行価格補正率×奥行長大補正率×地積
※地形によっては、次のように間口狭小補正率も併用できる時がある
30万円×1.00×0.94×0.92×80㎡
評価額:2,075万5,200円
b)倍率方式による評価
倍率方式は、宅地の固定資産税評価額に国税局長が定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式。
この場合の固定資産税評価額は土地課税台帳または土地補充課税台帳に登録された基準年度の価格または比準価格をいい、地方税法の特例措置によって固定資産税の税額計算の基礎とされる課税標準額ではない。
評価手順
固定資産税評価額×国税局長が定める評価倍率(評価倍率表で確認)=相続税評価額
固定資産税評価
土地または家屋に対して課せられる固定資産税の課税標準は、市町村役場に備え付けられている土地課税台帳、または家屋課税台帳に登録されている価格を基礎として求められる。
この評価および決定は総務大臣が定めて告示した固定資産評価基準(固定資産の評価の基準並びに評価の実施方法および手続きを定めたもの)によって行われる。
以下のようにして改訂がなされる。
評価の改訂
- 原則:3年ごと(基準年度)に評価替え(3年間据え置き)
- 例外:第2年度および第3年度において土地の地目変更や家屋の改築などが行われ、据え置くことが不適当であるかまたは課税上著しく均衡を失すると認められた場合⇒第2年度および第3年度においても評価替えを実施
- 基準年度とは、昭和33(1958)年度から起算して3の倍数の年度を経過したごとの年度をいう。基準年度の翌年度を第2年度、その翌年度を第3年度という。
- 例外の場合の課税標準は、その土地または家屋に類似する土地または家屋の基準年度の価格に比準する価格(比準価格)で土地課税台帳または家屋課税台帳に登録された価格をいう。
固定加算課税台帳の縦覧と不服申し立て
土地面格など縦覧帳簿および家屋価格など縦覧帳簿の作成
市町村長は、毎年3月31日までに、固定資産税を課することができる土地および家屋について、次に掲げる事項を記載した帳簿を作成しなければならない。
- 土地価格など縦覧帳簿:所在、地番、地日、地積、価格
- 家屋価格など縦覧帳簿:所在、家屋番号、種類、構造、床面積、価格
上記帳簿の縦覧
市町村長は納税者が、その納付すべきその年度の固定資産税にかかる土地または家屋について土地課税台帳などまたは家屋課税台帳などに登録された価格と、その土地または家屋が所在する市町村内の他の土地または家屋の価格と比較することができるように、毎年4月1日から4月20日またはその年度の最初の納期限の日のいずれか遅い日以後までの間、上記帳簿を納税者の縦覧に供しなければならない。
固定資産の1画格などの決定期限
固定資産の価格などの決定期限は3月31日である。
固定資慶評価審査委員会への審査申し出期間
固定資産評価審査委員会に対する審査申し出期間は、固定資産の価格などのすべてを登録した旨を公示した日から納税通知書の交付を受けた日後60日までの間である。
課税台帳の閲覧制度
課税台帳の闘覧制度など
市町村長は納税義務者などの求めに応じ、固定資産課税台帳のうちこれらの者にかかる固定資産について記載されている部分を閲覧に供しなければならない。
図表4‐11
閲覧を求めることができるもの | 閲覧対象となる固定資産 |
固定資産税の納税義務者 | 当該納税義務に係る固定資産 |
土地について賃借権その他の使用または収益を目的とする権利を有する者 | 当該権利の目的である土地 |
家屋について賃借権その他の使用または収益を目的とする権利を有する者 | 当該権利の目的である家屋およびその敷地である土地 |
固定資産を処分する権利を有する一定の者 | 当該権利の目的である固定資産 |
固定資産課税台帳記載事項の証明制度
市町村長は、納税義務者その他の者の請求があったときは、これらの者に係る固定資産に関して固定資産課税台帳に記載されている一定の事項についての証明書を発行しなければならない。
固定資産税の路線価などの公開
市町村長は、固定資産の価格などを決定した場合には、遅滞なく地域ごとの標準的な価格を記載した書面を一般の閲覧に供しなければならない。
図表4-12 公的土地価格のまとめ
価格の種類 | 決定期間 | 基準日 | 発表日 | 閲覧場所 | 目的 | 評価割合 |
公示価格 | 国土交通省土地鑑定委員会 | 毎年1月1日 | 3月下旬 | 市町村役場 | 売買の目安など | 100% |
基準地 標準価格 | 都道府県知事 | 毎年7月1日 | 9月下旬 | 所轄の市 町村役場 | 売買の目安など | 100% |
相続税 路線価 | 国税局長 | 毎年1月1日 | 7月1日頃 | 所轄の 税務署 | 相続税、贈与税、地価税を算出する際の基礎 | 80% |
固定資産税評価額 | 市町村長東京23区については東京都知事 | 原則として基準年度の前年の1月1日 | 3月1日基準年度は4月1日 | 所轄の市町村役場東京23区については都税事務所 | 固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税などの算出基礎 | 70% |
※固定資産税評価額以外は関連サイトでも閲覧可能
次回は、不動産の鑑定評価について解説しましょう。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。