キャッシュフローデザイン 共分散
masa

前回は、ベーダ(β)の推定に関する事例研究について解説しました。

今回は、資本資産価格決定モデル(CAPM)の考え方とCAPMの考えに基づく運用成果評価手法について解説しましょう。

マネープラン研究:資本資産価格の決定モデル

前々回の投稿「ポートフォリオ理論、ポートフォリオのリスクと期待リターンの算出」では、ポートフォリオとしてのリスクとリターンの関係を解説しました。

いま新たに、リスクのない資産にも投資が可能であるとしましょう。

例えば、1年後に満期を迎える国債への投資は無リスクと考えた場合、無リスク資産のリターンは無リスク金利と同じことになります。

こうした条件において、リスクのある資産と無リスク資産からなるポートフォリオを考えて、最適な投資をすることを試みます。

今図表3-1によって考えてみよましょう。

資本市場線
図表3-1

上の図の縦軸は期待リターンで、横軸はリターンの標準偏差によるリスクを表したものです。

標準偏差とは、分散の正の平方根と定義で、データや確率変数の散らばり具合(ばらつき)を表す数値のひとつ。

無リスク金利をrfすると、そのリスクは0なので、上のグラフでは、縦軸上に位置していることになります。

このrf点から、効率的フロンティア(曲線の部分)への接線を描くことができます。

参考▼

※効率的フロンティアに関しては「ポートフォリオ理論、ポートフォリオのリスクと期待リターンの算出」の中で解説しているので参照ください

最も効率的なポートフォリオとは?

ということで、この直線上の点が、投資家にとって最も効率的なポートフォリオということになります。

なぜなら、もとの効率的フロンティアより、この直線は必ず上にあるからです。

そのため無リスク資産からなるポートフォリオと同じリスクと仮定した場合、期待リターンがより高くなるポートフォリオを組むことができるからです。

※接点の部分に限定して、無リスク資産からなるポートフォリオとリスクとリターンが一致

すなわち、接点では100%リスクがある資産へ投資していることを意味しています。

直線上を無リスク金利の点へ向かうに従って、無リスク資産への配分が高まいます。

したがって、無リスク金利の点上では、無リスク資産100%です。

そして、もう一つこの直線よりも上の領域への投資は不可能だということを意味しています。

ここで、市場では情報が瞬時に完全に行き渡り、すべての投資家の期待リターンが同だと仮定した場合、この接点及び直線の位置はすべての投資家にとって等しいものとなります。

この状態の直線を資本市場線(CML)と呼びます。

ただし、CML上のどの点を選択するかは投資家によって異なり、効率的ポートフォリオはCML上に位置します。(図表3-1参照)。

どういうことかというと、CML上の点のみを投資対象として検討すればいいとした場合、無リスク資産への投資比率と、接点の位置にあるポートフォリオへの投資比率の2つに分けて考えればよいことになります。

先程申し上げた通り、接点の位置にあるものは、リスクのある資産のみからなるポートフォリオになります。

そのポートフォリオ内に限定したときの投資比率を考えたとき、仮にすべての投資家の見通しが同じと仮定するなら、最終的にその投資比率はすべての投資家にとって共通の値になります。

異なるのは、前述の無リスク資産への投資と、リスクのある資産のみからなるポートフォリオ全体への投資、2つの間の比率のみです。

投資比率は同じになる

つまり、無リスク資産と、リスクのある株式投資を考えた場合、ハイリスク・ハイリターンを好む投資家も、ローリスク・ローリターンを好む投資家も、株式ポートフォリオの中のある個別銘柄の投資比率は同じになるということです。

すべての投資家にとって同じ投資比率であるなら、当然に市場全体も同じ比率になります。

すなわち、すべての投資家の株式の投資比率は市場全体の時価総額の比率と同一になることを意味します。

このような特徴から、この接点におけるポートフォリオを市場ポートフォリオと呼びます。

市場ポートフォリオの縱軸上の位置は、市場ポートフォリオの期待リターンであり、横軸上の位置は市場ポートフォリオのリスク0=シグマです。

例えば、東京証券取引所第1部に上場されている株式への投資を考えてみましょう。

すべての株式の期待リターンとリスク、及びその相関係数により、効率的なポートフォリオを選択するとすると、どのような投資家であっても、その各株式の保有比率は、東京証券取引所第1部の時価総額比率に一致します。

このような理論上の帰結があるため、市場ポートフォリオがベンチマークとして投資パフォーマンスの測定基準となっている場合が多いわけです。

この場合、市場ポートフォリオのリターンを市場リターンといい、あるポートフォリオのリターンが市場ポートフォリオを上回っている度合いを超過リターンと呼んでいます。

このことが市場インデックスへ追随することを目的に投資を行うという理論的な背景にもなっているわけです。

参考事例▼

例えば、投資家A、B、Cの3人が存在し、株式市場には証券1と証券2の2銘柄が上場され、無リスク資産が存在する仮想的な世界を考えると、図表3-2のような数値例となります。

       投資家A  投資家B  投資家C  合計(時価総額)万円
  株式
 証券1   金額 (万円)  60  300  840  1200
 投資比率   対株式  60%  60%  60%  60%
 対全資産  12%  30%  42%  
 証券2    金額 (万円)   40  200 560
 800
投資比率    対株式  40%  40%  40%  40%
 対全資産  8%  20%  28%  
 小計  金額 (万円)   100  500  1400  2000
投資比率
 対株式  100%  100%  100%  100%
 対全資産  20%  50%  70%  
無リスク資産 金額(万円) 400 500 600 1500
投資比率 80% 50% 30%  
合計 金額(万円) 500 1000 2000 3000

(※図表3-2 投資家の資産配分と市場全体の例)

この例のように、個々に資産配分はさまざまですが、株式ポートフォリオ全体に対する各証券への投資比率は、すべて同一です。

株式市場全体で考えた場合も、株式市場全体の時価総額と各銘柄の時価総額の比率に一致するということです。

上記の例でいうなら証券1は60%であり、証券2は40%です。

投資家と資本市場線
図表3-3

市場価格とは?

CML(資本市場線)の傾きをリスクの市場価格といいます。

具体的には、リスクを1単位多く保有するときの報酬としてのリターンのレベルのことです。

もっと具体的に云うなら、効率的ポートフォリオの期待リターンは、無リスク金利に、市場リスク1単位当たりの超過期待リターンにポートフォリオのリスク量を掛けたものを加えたものであるということです。

この関係を数式によっ定義すれば、

※1:{効率的ポートフォリオの期待リターン=無リスク金利+[市場リスク1単位あたりの超過期待リターン×ポートフォリオのリスク量]}

ということになります。

そうだとすると、リスクの市場価格は図表3-1のCMLの傾きですから次のように定義されます。

※2:リスク市場価格=市場ポートフォリオの期待リターン-無リスク金利/市場ポートフォリオのリスク量(標準偏差)

※1式の意味は、大きな期待リターン(左辺)を得るためには、それに見合ったリスク(右辺第2項)を負担しなくてはならない、逆にリスクを減らすためには超過リターンも減少することになるということです。

資本市場線は、効率的ポートフォリオのリターンを無リスク金利、リスクの市場価格、市場ポートフォリオのリスク量で示しています。

ただし、この直線は個別銘柄や非効率的ポートフォリオを評価することはできません。

なぜなら、個別証券や非効率的ポートフォリオは図表3-1で示されるように、同じ期待リターンの水準で比較したとき、資本市場線よりも下に位置しているからです。

つまり、下の式のように、右辺の方が大きくなるという関係になります。

注意点▼

証券iの期待リターン<無リスク金利+[市場リスク1単位あたりの超過期待リターン×証券iのリスク量]

個別銘柄である証券iを評価するためには、効率的ポートフォリオにおいて成り立ったように、証券iの期待リターンがその個別リスク(標準偏差)との関係で表すことができるのか、ということを再検討する必要があります。

masa

ここまでのところはよろしいでしょうか、ついてきてくれてますでしょうか?すこし難しいですが、難しいことを理解しようとするうちに思考が研かれますので、そう信じてこのままついてきてください。ファイナンス理論の知識を習得するよりも、実はそちらの目的の方が重用です。

証券のリスク評価
図表3-4

図表3-4に表されているように「証券i」は同水準の期待リターンを得ることのできる効率的ポートフォリオよりもリスクが大きくなっています。

当然、合理的で危険回避的な投資家は、同じ期待リターンが得られるのであれば、分散投資をしてリスクを減らそうとします。

つまり、この図のように証券iの個別銘柄に投資するのではなく、証券iを含むポートフォリオによる分散投資を行おうとします。

※ここでは、コストなどを無視した仮想的な市場を想定している。

その個別証券のポートフォリオの中での貢献度は?

合理的で危険回避的な投資家が必ず分散投資によってリスクを減らそうとすると仮定した場合は、証券iを市場ポートフォリオを構成する証券の1つとして、証券iがポートフォリオのなかでどのような貢献をしているかを評価すればいいでしょう。

ここで、証券iのリターンと市場ポートフォリオのリターンを関連づけるベーダの役割を思い出してください。

参考▼

※それについては、「慎重に投資銘柄を選んで分散投資しても避けられないリスクがある」の中のβの考え方を参照

ベーダは個別証券のリターンの変動が、市場リターンの変動にどの程度、またどのように感応するかを示す指標でした。

そこで、市場ポートフォリオに対する証券iのリスク量としての貢献分は次のように定義されます。

※3:証券iの市場ポートフォリオのリスク量に対する貢献分=証券iのリターンと市場リターンの共分散/市場リターンのリスク量

つまり、市場ポートフォリオのリスク1単位当たりの証券iと市場リターンの共分散性をリスク量の尺度として用います。

※共分散とは、2 種類のデータの関係を示す指標のこと、共分散を求めるには、2 つの変数の偏差の積の平均を計算する

このリスク量の尺度を証券iの個別リスク尺度の代わりに用いたとき、「証券iに関する資本資産価格決定モデル」を特にCAPM (Capital Asset Pricing Model)と云います。

この式は資本市場線の式に上の証券iのリスク尺度を代入したもので、次のような式として表されます。

※4:証券iの期待リターン=無理リスク金利+[市場リスク1単位あたりの超過期待リターン×証券iの市場ポートフォリオのリスク量に対する貢献]

また、この※4:式を変形したとき、※ri,t=αi+βirM,t+[誤差i,t]という式で定義した、市場ポートフォリオのリターンに対する証券iの感応度を示す尺度βiを用いて表現されます。

※5:証券iの期待リターン=無リスク金利+[市場収益率に対する証券iの感応度:β×市場ポートフォリオの超過リターン]

これまで定義した表記を用いると、証券iの期待リターンは次のようになります。

※6:E[ri]=rf+βi(E[rM]-ri

この※6:式について、ベーダと期待リターンの間の関係を示したのが図表3-5であり、この直線を証券市場線(SML)といいます。

そして、すべての個別証券はこの証券市場線上に位置することになります。

  1. リスクのある個別証券は無リスク金利から右上がりの直線上になければならない。
  2. ベーダで測られるリスク量分だけ高い期待リターンを報酬として受け取ることになる。
  3. ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの関係が成り立たなければならない。

図表3-5 証券市場線

証券市場選
図表3-5

次回は「市場において利用可能な情報を的確に反映して、価格は決定されているのか?」です。

ではまた。

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