
いま新たに、リスクのない資産にも投資が可能だとしよう。
無リスク資産のリターンは無リスク金利と同じことになる。
例えば、1年後に満期を迎える国債への投資は無リスクと考えられる。
まず最初に、リスクのある資産と無リスク資産の組み合わせ(ポートフォリオ)て、最適な投資ができないか考えてみよう。
次の図表3-1を見てほしい。

図表3-1
この図の縦軸は期待リターン、横軸はリターンの標準偏差によるリスクを表したものだ。
標準偏差とは、分散の正の平方根と定義で、データや確率変数の散らばり具合(ばらつき)を表す数値のひとつ。
だった。
そこで、無リスク金利をrfとすると、そのリスクは0だ。
上のグラフでは、縦軸上に位置していることになる。
このrf点から、効率的フロンティア(曲線の部分)への接線を描くことができる。
※効率的フロンティアに関しては「ポートフォリオ理論、ポートフォリオのリスクと期待リターンの算出」の中で解説しているので参考にしてほしい。
最も効率的なポートフォリオとは?
ということで、この直線上の点が、理論上は投資家にとって最も効率的なポートフォリオになる。
もとの効率的フロンティアより、この直線は必ず上にあるからだ。
無リスク資産のポートフォリオとリスクが同じと仮定した場合、期待リターンがより高くなるポートフォリオが可能になる。
※接点の部分に限定して、無リスク資産のポートフォリオとリスクとリターンが一致している。
つまり、接点では100%リスクがある資産へ投資していることを意味している。
直線上を無リスク金利の点へ向かうに従って、無リスク資産への配分が高まる。
無リスク金利の点上では、無リスク資産100%になる。
そしてもう一つ意味していることがある。
それは、この直線よりも上の領域への投資は不可能だということだ。
この接点および直線の位置が、すべての投資家にとってなどしいものとなる時がある。
情報が瞬時に完全に行き渡り、すべての投資家の期待リターンが同じだと仮定した場合だ。
この状態の直線を資本市場線(CML)と呼んでいる。
ただし、CML上のどの点を選択するかは投資家によって異なり、効率的ポートフォリオはCML上に位置する(図表3-1参照)。
つまり、CML上の点のみを投資対象として検討すればいいのであれば、無リスク資産への投資比率と、接点の位置にあるポートフォリオへの投資比率の2つに分けて考えればいいことになる。
また、接点の位置にあるものは、リスクのある資産のみからなるポートフォリオだ。
そのポートフォリオ内に限定して投資比率を考えた場合、すべての投資家の見通しが同じだと仮定すると、最終的にその投資比率はすべての投資家にとって共通の値になる。
異なるのは、前述の無リスク資産への投資と、リスクのある資産のみからなるポートフォリオ全体への投資、2つの間の比率のみということになる。
投資比率は同じ?
つまり、無リスク資産と、リスクのある株式投資を考えた場合、、、、、
ハイリスク・ハイリターンを好む投資家も、ローリスク・ローリターンを好む投資家も、株式ポートフォリオの中の個別銘柄の投資比率は同じになる。
すべての投資家にとって同じ投資比率なら、市場全体も同じ比率になる。
つまり、すべての投資家の株式の投資比率は市場全体の時価総額の比率と同一になる。
このような特徴から、この接点におけるポートフォリオを市場ポートフォリオと呼んでいる。
市場ポートフォリオの縱軸上の位置は、市場ポートフォリオの期待リターンであり、横軸上の位置は市場ポートフォリオのリスク0=シグマだ。
例えば、東京証券取引所第1部に上場されている株式への投資を考えてみよう。
具体的にはこういう選択だ。
すべての株式の期待リターンとリスク、およびその相関係数により、効率的なポートフォリオを選択する。
すると、どのような投資家であっても、その各株式の保有比率は、東京証券取引所第1部の時価総額比率に一致することになる。
市場ポートフォリオがベンチマークとして投資パフォーマンスの測定基準となっていることが多いのは、このような理論上の帰結があるためだ。
ちなみに市場ポートフォリオのリターンを市場リターンといい、
あるポートフォリオのリターンが市場ポートフォリオを上回っている度合いを超過リターンと呼んでいる。
市場インデックスを追随する投資がおこなわれる理論的な背景にもなっているわけだ。
この例のように、資産配分はさまざまなかたちで行われるが、株式ポートフォリオ全体に対する各証券への投資比率はすべて同一になる。
株式市場全体で考えた場合も、株式市場全体の時価総額と各銘柄の時価総額の比率に一致する。
上記の例でいうなら証券1は60%であり、証券2は40%になる。

図表3-3
市場価格とは?
CML(資本市場線)の傾きのことをリスクの市場価格と呼んでいる。
リスクを1単位多く保有するときの報酬としてのリターンのレベルとも言える。
具体的には、効率的ポートフォリオの期待リターンは、無リスク金利に、市場リスク1単位当たりの超過期待リターンにポートフォリオのリスク量を掛けたものを加えたものだ。
わかりずらいので、この関係を次のような数式によっ定義する。
※1:{効率的ポートフォリオの期待リターン=無リスク金利+[市場リスク1単位あたりの超過期待リターン×ポートフォリオのリスク量]}
そうだとすると、リスクの市場価格は図表3-1のCMLの傾きなので次のように定義できる。
※2:リスク市場価格=市場ポートフォリオの期待リターン-無リスク金利/市場ポートフォリオのリスク量(標準偏差)
※1式は、大きな期待リターン(左辺)を得るためには、それに見合ったリスク(右辺第2項)を負担しなくてはならない。
逆にリスクを減らすためには超過リターンも減少することを意味している。
資本市場線は、効率的ポートフォリオのリターンを無リスク金利、リスクの市場価格、市場ポートフォリオのリスク量で示す。
ただし、この直線は個別銘柄や非効率的ポートフォリオを評価することはできない。
なぜなら、個別証券や非効率的ポートフォリオは図表3-1で示すように、同じ期待リターンの水準で比較したとき、資本市場線よりも下に位置するからだ。
つまり、下の式のように、右辺の方が大きくなる。
では、個別銘柄の証券iを評価するにはどうしたらいいだろう。
証券iの期待リターンがその個別リスク(標準偏差)との関係で表すことができるのか?
それを再検討する必要がある。

図表3-4
今度は上記図表3-4を見てほしい。
「証券i」は同水準の期待リターンを得ることのできる効率的ポートフォリオよりもリスクが大きくなっている。
投資家は、同じ期待リターンならば、分散投資をしてリスクを減らそうとする。
つまり、この図のように証券iの個別銘柄に投資するのではなく、証券iを含むポートフォリオに投資しようとする。
ただし、コストなどを無視した仮想的な市場を想定した場合だ。
ポートフォリオの中での貢献度?
今度は、証券iがポートフォリオのなかでどのような貢献をしているか評価してみよう。
ここで、証券iのリターンと市場ポートフォリオのリターンを関連づけるベーダの役割を思い出してほしい。
※それについては、「慎重に投資銘柄を選んで分散投資しても避けられないリスクがある」の中のβの考え方を参照
ベーダは個別証券のリターンの変動が、市場リターンの変動にどの程度、またどのように感応するかを示す指標だった。
市場ポートフォリオに対する証券iのリスク量としての貢献分は次のように定義できる。
※3:証券iの市場ポートフォリオのリスク量に対する貢献分=証券iのリターンと市場リターンの共分散/市場リターンのリスク量。
つまり、市場ポートフォリオのリスク1単位当たりの証券iと、市場リターンの※共分散性をリスク量の尺度として用いる。
※共分散とは、2 種類のデータの関係を示す指標のこと、共分散を求めるには、2 つの変数の偏差の積の平均を計算する
このリスク量の尺度を証券iの個別リスク尺度の代わりに用いたとき、
つまり、「証券iに関する資本資産価格決定モデル」を特にCAPM (Capital Asset Pricing Model)と呼んでいる。
この式は資本市場線の式に上の証券iのリスク尺度を代入したもので、次のような式で表現する。
※4:証券iの期待リターン=無理リスク金利+[市場リスク1単位あたりの超過期待リターン×証券iの市場ポートフォリオのリスク量に対する貢献]
この※4式を変形したとき、※ri,t=αi+βirM,t+[誤差i,t]という式で定義した市場ポートフォリオのリターンに対する証券iの感応度を示す尺度βiを用いて表現する。
※5:証券iの期待リターン=無リスク金利+[市場収益率に対する証券iの感応度:β×市場ポートフォリオの超過リターン]
これまで定義した表記を用いると、証券iの期待リターンは次のようになる。
※6:E[ri]=rf+βi(E[rM]-ri
この※6式について、ベーダと期待リターンの間の関係を示したのが図表3-5であり、この直線を証券市場線(SML)と呼んでいる。
そして、すべての個別証券はこの証券市場線上に位置する。
図表3-5 証券市場線

図表3-5
注意!
- リスクのある個別証券は無リスク金利から右上がりの直線上になければならない。
- ベーダで測られるリスク量分だけ高い期待リターンを報酬として受け取れる可能性が高い。
- あくまでもハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの関係が成り立つ前提においてだ。
次回は「市場において利用可能な情報を的確に反映して、価格は決定されているのか?」です。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。