

前回、相関係数が+1未満の証券を組み合わせた場合に、個々の収益率の変動が相殺しあうことによって、ポートフォリオ全体のリスクが部分的に消去できることは話した。
しかし、分散投資によってすべてのリスクを消去できるわけではない。
また、分散投資によって消去できないリスクもある。
今回は、それらのことについてく詳しく見ていくことにしょう。
例えば、iという証券のリターンが次のようなプロセスになると仮定する。
rit=αi+βirM,t+[誤差i,t]
複雑な式に思えるかも知れないが、上の式の右辺第3項の誤差項を除けばシンプルになる。
y=a十bxというxの1次式でyを表した形になるからだ。
この場合、上式のαiが切片であるa、βiが直線の傾きを示すb、rMが右辺の変数であるxにあたる。
rはリターン、下つきの添え字iはi番目の証券、tは時期、Mは市場あるいはインデックス、つまり特定の指数のことだ。
つまり、要因(ファクター)を指し、aとβは定数、[誤差i,t]は証券iのt期リターンがaとβ、そして市場リターンでは説明しきれないものを説明する項となる。
また、rの文字にはティルダ、つまり変数の値が確率的に決まる確率変数が付帯しているものとする。
やや難解かもしれないが、しばらくの間辛抱してほしい。
根拠を示したいだけなので、そのことを分かってもらえればいい。
つまり、上式は不確実である証券iのリターンがある定数と市場リターンに対する比例関係だ。
また、これらでは説明しきれない誤差の3つの項に分解できるという単一(シングル)ファクターモデルということにもなる。


図S-1単一(シングル)ファクターモデル
個別証券のリターンは図表S-1のように単一ファクター(要因)である市場リターンとの関係で示すことができる。
また、上式の右辺を変形すると、次のように証券iのリターンを市場に関連するリターンと市場に関連しない証券i固有のリターンとに分離できる。
※ri,t=βirM,t+[αi+(誤差i,t)]
この場合、[誤差i,t]の期待値はゼロと仮定。
また、証券iの[誤差i,t]は他の証券のそれの変動とは独立し、市場リターンの変動とも独立していると仮定。
上記式の単一ファクターモデルのリスクについて考えた場合
証券iのリターンのリスクは、システマティック・リスクと非システマティック・リスクの和によって説明できる。
システマチック・リスクとは、組織的なリスクという意味だ。
具体的には、市場ポートフォリオのリターンのリスクと、それに対する証券iの感応度を示すβの積で表される。
非システマティック・リスクとは、非組織的なリスクのことだ。
市場リターンの変動では説明できない証券i固有の変動だ。
ここで、前にポートフォリオを構成する相関係数が+1未満の証券の数を増やした場合、リスクを低減できる分散効果があったことを思い出してほしい。
「横軸にポートフォリオ中の証券の銘柄(資産)数、縦軸にポートフォリオのリスク(標準偏差)をとり、ポートフォリオ中の銘柄を全くランダムに選んだときのポートフォリオの総リスクは、ある程度までは右下がりの曲線を描いてリスク低減効果を示す。」ということだった。
しかし、証券の銘柄数を10程度まで増やすと、それ以降銘柄数を増やしてもリスクは大きくは減少しない。
つまり、どんなに分散してもポートフォリオのリスクをすべて取り除くことはできないことを示している。
では、なぜか?
例えば、証券iの総リスクを構成する式をポートフォリオの総リスクとし、銘柄数kに同じ投資比率I/kで投資するポートフォリオの総リスクを示す式を表してみよう。
「2ポートフォリオの総リスク=ポートフォリオのシステマティック・リスク+(1/k)各銘柄の非システマティック・リスクの平均」
上式で示されるように非システマティック・リスクを示す右辺第2項は、銘柄数kを増加させることによって、その値をゼロに近づけることはできる。
しかし、一方で、右辺第1項のシステマティック・リスクは、ポートフォリオを構成する銘柄数kを大きくしても除去できないことがわかる。
つまり、分散投資を行い、十分に銘柄数kが大きいときに除去できるリスクは、非システマティック・リスクのみになる。
システマチック・リスク(ベータ)

図S-2 シングルファクターモデル2:FP協会CFPカリキュラムより抜粋
不鮮明で申し訳ないが、図表S-2は、証券iのリターンを市場リターンとの関係式である単一(シングル)ファクターモデルを表現したものだ。
このモデルの直線は何を基準にしているだろうか?
言い換えると、図において傾きとして表されたベーダ(β)と、切片としてのアルファ(α)はどのように算出されるか?になる。
まず、証券iの各期のリターンを図にプロット(ストーリーの要約)する。
この時点で図表に示されたような直線は当然特定できない。
次に、直線を先程の※ri,t=αi+βirM,t+[誤差i,t]という式で表されるモデルであると仮定。
そして、図表においてプロットされた各期tの収益率ri,tとモデル式から得られるリターンの^ri.tの差。
つまり、各期の実績値と直線とのリターンの差である[誤差i,t]の2乗の合計が最も小さくなるような直線の傾きベーダと切片アルファを求める。
ここで^は「ハット」と読み、モデル式による値で誤差を含んでいないリターンであることを示す。
ちなみに、この統計手法のことを最小2乗法と呼んでいる。
この手法を用いて単一ファクターモデルの直線を求めたとき、得られたベーダは次の意味を持つ。
※βi=証券iのリターンと市場リターンの関係の度合い(共分散)/市場リターンの散らばり
つまり、ベーダは市場リターンの分散1単位との証券iと市場リターンの共分散の比になる。
もし、証券iのリターンが市場リターンと常に同じ変動だと仮定した場合、分子・分母は同じだ。
要するにベーダは1になる。
つまり、この場合の市場感応度は1というこになる。
どういうことかというと、
- 証券iのリターンが期待値より大きな値をとるときに、市場リターンも期待値より大きな値をとるような傾向がある場合。
- 証券iのリターンが期待値より小さな値をとるときに、市場リターンも期待値より小さな値をとるような傾向がある場合。
上記2つの状態において、ベーダが正の値をとるための証券iのリターンと市場リターンの関係が成り立つということだ。
このとき、分子は同符号の掛け算で正の値をとり、分母は2乗であるため正の値をとる。
その結果としてベーダは正の値をとる。
逆に、市場リターンが期待値より大きくなり、証券iが期待値より小さくなる傾向がある場合。
もしくは、市場リターンが期待値より小さくなり、証券iが期待値より大きくなル場合。
分子はマイナスとプラスの掛け算となり、結果、ベーダはマイナスの値を持つ傾向がある。
このように、ベーダは、市場リターンと証券iのリターンとの関係を示す尺度にもなる。
この証券iのリターンと市場リターンの関係が意図するベーダの符号は、図S-3に示すとおりだ。

図表S-3 証券iのリターンと市場リターンの関係とベーダ:日本FP協会CFPカリキュラムより抜粋
ポートフォリオのベーダ
「分散投資によって、ポートフォリオを構成した場合、そのポートフォリオのベーダは、それを構成する個々の証券のベーダを(投資比率Wで)加重平均したものになどしい。」
例えば、k個の証券があると仮定した場合に次のように表現できる。
ポートフォリオのβ=[証券1の投資比率(w1)×証券1のベータ(β1)]+・・・・[証券kの資比率(wk)×証券kのベータ(βk)]
さらに、これを数学的な表記で置き換えてポートフォリオのベーダβpとしたとき、
βP=w1β1+w2β2+・・・wkβk
と表わすことができる。
この2つの証券に投資する場合に、ポートフォリオのβpは投資比率による加重平均となる。
つまり、証券1のβは-0.5であり、証券2のβは1.5で、ポートフォリオのベータ(βp)は、βP=w1β1+w2β2
ということだ。
では、どのような投資比率で投資を行えば、市場ベーダに近いポートフォリオベーダの値が得られるのだろう?
2式の連立方程式を解くことによって、最適な投資比率を求めることができる。
1(=βp) = ― 0.5w1 + 1.5w2
1=Wl+W2
この連立方程式を解くと、証券1への投資比率を25%、証券2への投資比率を75%、としたときが最適ポートフォリオであることがわかる。
非システマティック・リスクをどう考えるべきか?
ポートフォリオのリターンの変動に関するリスクは、2種類のリスクに分類できるということだった。
非システマティック・リスクは互いに完全相関しない証券の銘柄数を増やすことによって低減できることも見てきた。
「※2ポートフォリオの総リスク=ポートフォリオのシステマティック・リスク+(1/k)各銘柄の非システマティック・リスクの平均」
つまり、銘柄数をある程度まで増加させたとき、非システマティック・リスクは無視できる程度にまで小さくすることができることもわかった。
分散投資によってリスクを低減することは、資産のリスク管理を行う上で非常に重要なことも知っている。
では、さらに重用なことは何だっただろうか?
そのリスクを追う見返りとして、どの程度のリターンを得ることができるのか、だった。
もし、ポートフォリオの非システマティック・リスクを軽減できないとしたらどうなるか?
当然ポートフォリオの総リスクは分散投資を十分に行ったときよりも大きくなる。
しかし、このリスクに見合った高いリターンを得ることができるとしたら、そのリスク保有は同時にリスクプレミアムとして有効だと言えるだろう。
逆に、非システマティック・リスクが相当の付加的なリターンをもたらさないのであれば、そのリスクを保有する意味がなくなる。
リスク回避を好む投資家にとって満足度の得られい仕組みだからだ。
ということで、非システマティック・リスクが、リスクプレミアムを意味するかどうかを考える必要がある。
次回は、ベーダ(β)の推定に関する事例研究についてです。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。