
不動産の収支計画
不動産に限らず採算性の判定は極めて重要だ。
では、どのように採算性を判定すればいいのだろう?
そのためには、まず事業収支計画が必要になる。
- 投下資本
- 収益および費用のバランス
採算性は、上記によって決定される。
だから、これらを推定するための条件を整えるのがスタート地点となる。
ポイントは以下の2つだ。
- 投下資本:事業を開始する際の必要資金とその調達方法の検討。
- 収益と費用のバランス:毎期の収支予測であり、事業収支計画で最も重要。
また、誤りがちな解釈が収支と所得の関係だ。
収支と所得の違いがわからないと、先に行って混乱を招く、だからまずその違いについて解説する。
収支と所得は違う
収支はよく所得と勘違いされることがある。
しかし、両者はまったく異質のものだ。
収支とは、キャッシュフローのことで、現金主義を基本とし、収入-支出で計算する。
これに対して所得は、発生主義を基本とし、収入-必要経費で計算する。
このように全く違う。
これが法人税法上だと、益金-損金になる。
当たり前だが、所得が発生すれば、当然税金も発生する。
だから、支払うべき税金も支出として予測しておかないと、資金ショートが起こる可能性もある。
どういうことかというと、収支計画を作成する時の原理が次の手順になるからだ。
- 税法の規定に基づいて所得計算を行う。
- 所得に対する税額計算を行う。
- 納税額を含めた収支計算を行う。
では、具体的に両者の計算方法の違いを見ていくことにしよう。
所得計算の算式と収支計算の算式の違い
所得計算上の収入金額
- 家賃や地代収入。
- 返済しなくていい一時金(礼金や権利金)。
- 返済しなくてはいけない一時金(敷金や保証金)のうち返済不要が確定した部分。
所得計算上の必要経費
- 支出を伴うもの
- 支出を伴わないもの(減価償却費など)
収支計算上の収入金額
- 家賃や地代収入。
- 返済しなくていい一時金(礼金や権利金)。
- 建設資金に充当する借入金額
- 返済を要する一時金
収支計算上の支出金額
- 支出を伴うもの
- 支出を伴わないもの(減価償却費など)
- 借入金の元金返済額
- 一時金の返済額
つまり一時金の特別な取り扱いを除けば、税引前の所得計算と収支計算の関係は・・・
- 不動産所得(所得計算)+減価償却費-借入金元金返済額=余剰金(収支計算)。
- 所得に対する税金は所得計算上の必要経費にはならないが、収支計算上は支出金額。
ということになる。
収支計画の作成
事業を開始するにあたって必要な資金総額を適切に見積もるために、まずは初期投資計画を作成する。
例えば、こんな感じのものだ。
なお、これはマインドマップ(フリーソフト)を使って作成している。
初期調達計画
初期投資計画により、総事業費を把握したら次に調達方法を検討する。
- 自己資金:事業主の手持ち資金(割合が高いほど資金繰りが容易)。
- 敷金・保証金:事業費に充当することで、借入金の負担を軽減。
- 借入金:上記の調達できない部分を調達。
収入の項目
1,経営的収入
現実の収入を伴うもので、所得計算と収支計算の両方に関係するもの。
家賃収入
賃料設定が適正に行われていることが重要だ。
賃料設定方法には、事業による期待利回りを元に算定する方法もあるが、実際には需給バランスによって定まる。
つまり、実際には近隣類似施設の賃貸条件などを調査して当該物件の賃料を算出、設定する。
なお、この近隣相場には、募集相場と成約相場があるが、参考にできるのは成約相場だ。
駐車場収入
建物に駐車場を併設すれば、駐車場収入の確保ができ、賃貸条件を有利にすることもできる。
礼金・更新料
礼金は返金を要しないものなので、賃料の前払い的意味があるが、最近では礼金を取らないケースが増えている。
更新料は賃貸契約の更新に伴って賃借人から支払われるお金だが、地域によっては授受しないところもある。
受取管理費
管理費または共栄費などの名目で建物を維持管理していくために賃借人から受け取るお金のこと。
2,保証金の償却など
保証金の一部を返却しない取り決めをする場合があるが、それを収益計上することを言う。
収益計上時期は、所得税基本通達や法人税基本通達に規定されている。
なお、保証金の償却は、収益計上時期において「収入を伴わない収益」となる場合もある。
支出(経費)の項目
1,経営的支出
事業を継続していく上で現実に支出される経費で、所得計算と収支計算の両方に関係する。
土地公租公課
- 土地に係る固定資産税や都市計画税のこと。
- 住宅用地の課税標準の特例や負担調整措置がある。
建物公租公課
- 建物に係る固定資産税や都市計画税のこと。
- 一定の住宅新築家屋などの固定資産税に減額の特例がある。
火災保険料
建物に対する火災保険料
維持修繕費
経済的価値を適正に維持していくための費用。
収支計画上は一定額を計上しておくのが一般的。
ただし、資本的支出となるものは、建物などの取得価額に加算して減価償却の対象とされる。
支払い管理費
建物の管理や共用部分の水道光熱費。
支払利息
事業資金を借り入れた場合に発生する。
その他
地代などの支払いがある場合
2,減価償却費
資産が有効に事業の用に供される期間の費用として按分し、税法上減価償却費として計上。
減価償却費は支出を伴わない費用なので所得計算のみに関係する。
3,借入金元金返済額
借入金の元金返済部分は必要経費とすることはできない。
つまり、費用にならない支出なので、収支計算のみに関係する。
収支計画のチェックポイント
収支計画を作成しただけでは、ほとんど意味がない。
どう作成するかも含め、作成した事業計画をどう読み取っていくのかが重要だ。
事業計画の設定条件
初期投資計画や資金調達計画にある程度の余裕を持たせているだろうか?
つまり、収入項目や支出項目は妥当な条件で設定されているかどうかだ。
これらの項目は時間の経過とともに変動していくので、変動率についてもある程度考慮しておく必要がある。
不動産所得【償却後利益】
個人の不動産賃貸による所得は、不動産所得に区分される。
したがって、不動産所得がマイナスの場合は、損益通算によって節税効果も生まれる。
また、収支計算とは別なので、所得がマイナスでも資金がショートするわけではない。
しかし、これが長期にわたる場合、事業資金の回収が困難になる可能性が高い。
余剰金
最終的に手元に残る金額のことだ。
不動産所得は総合課税扱いなので、他の所得金額によって適用税率が変わる。
また、税制改正によって税率が改定される可能性があることなどから、税引前でチェックする場合もある。
では、もしも余剰金がマイナスになった場合は?
資金ショートを回避するために、他の所得や短期借り入れなどによってカバーする必要がある。
つまり、事業収支の改善を図る必要がある、ということだ。
事業収支の改善策
一般的に事業の成否や採算性は3つの要素の組み合わせで決まる。
- 投下資本(事業に必要な資金)
- 収益(収益予想)
- 資本コスト(調達資金に係るコスト)
つまり、事業収支を改善するためには投下資本の引き下げ、収益の引き上げ、資本コストの引き下げを行う必要がある。
これを不動産事業にあてはめると、1、土地代や建築費の引き下げ、2、賃料の引き上げ、3、借入金利の引き下げということになるだろう。
例えば・・・
- 仕様の適正確認、ローコスト工法の採用を検討。
- ターゲットの見直し、付加価値の検討。
- 自己資金の追加、低利の融資活用を検討。
上記を単独、あるいは総合的に検討する必要がある。
次回は、「不動産投資の会計上利回りの欠点を見抜いて投資判断ミスをなくなくす」です。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。