
保険商品や保障設計を考える際の出発点でもあるリスクマネジメントの基本とその応用について解説する。
今日はその基本中の基本、リスク・コントロールとリスク・ファイナンシングについてだ。
不確実性を含んでいるもの、そこには必ずリスクが伴う。
ということで、当然ながら未来には多くのリスクがある。
したがって、ファイナンシャル分野に限らず、あらゆる分野においてリスク・コントロールは欠かせない。
特に、キャッシュフローにおいてリスク対策が重要なことは言うまでもないだろう。
何がリスクなのかを確り把握し、あらかじめ備えておくことは価値と利益を守る上で極めて重要だ。
では、リスクとはなんだろう?
2つのリスクと3つのリスク領域
リスクをあえて分類するとするなら、大きく経済的リスクとそれ以外のリスクに分かれる。
損失リスクは「価値の減少」と置き換えることもできるだろう。
ところで、経済的な価値以外に何が考えられるだろうか?
そこには社会的、文化的、政治的な価値も含まれるだろう。
また、その中には測定が可能なリスクと不可能なものがある。
測定が可能なリスク
過去のデータを観察することによって確率が経験的に求められたものなどが該当する。
例えば、サイコロの出目のように統計的にもとめられものもそれに該当する。
測定が不可能なもの
発生頻度が少なく、不確実性要素が極めて高いものが該当する。
例えば、自然災害などがそれにあたる。
一方、それが投機的リスクなのか、純粋リスクなのかという見方もある。
投機的リスク
投機的リスクは、損失・利得の両方が発生する可能性がある。
純粋リスク
損失のみが発生する可能性のものが純粋リスクに該当する。
経済面、測定面、投機的か純粋か?
これらを組み合わせてマネジメント方法をあてがっていく必要があるだろう。
ではここで身近な分野についてちょっと考えてみよう。
例えば、保険の場合はどうだろうか?
保険はどの種のリスクをカバーしているのだろう。
理解しやすいように、以下にリスク領域を図にしてみた。
一般的に保険は、純粋リスクに対するマネジメント手法を用いるのでA領域に属する。
一方、Bの領域のリスクを対象とする保険商品もある。
その商品は、同時に投機的リスクにも該当するわけだ。
典型的な商品には変額保険などがある。
上記の図からも保険でカバーできるリスクは、ほんの一部分であることも見て取れるだろう。
また、保険商品にもいろいろあって、その特性によって抱えるリスク種が異なることも理解しておいてほしい。
2つのリスクマネジメント手法
リスクの対処法は、コントロールとファイナンシングの2つの手法に大分できる。
リスクコントロールは、損害頻度や損害規模自体を軽減させる、もしくは予知能力を高め不確実性を低減させる試みだ。
一方、リスクファイナンシングは、リスクそのものに着手するのではなく、保険などで損失を軽減する試みだ。
図にすると以下の様なイメージになる。
リスクコントロール
リスクコントロールには5つの技術があると言われている。
回避、制御、結合、分離(分散)、移転の5つだ。
では、そのひとつひとつを見てみよう。
リスク回避
潜在的な損失を発生させない方法だ。
つまり、リスクを生じさせない、あるいは既に起こっているリスクを完全に消滅させる方法だ。
しかし、すべてのリスクを回避することは不可能だ。
例えば、自動車事故がそれに該当する。
自動車の運行には、事故リスクが常につきまとっている。
それを回避するために運転をやめたとしても、事故リスクが完全になくなったとは言えないだろう。
他社の自動車に同乗することもあるだろうし、他人から被害を被ることもあり得るかただ。
では、地震についてはどうだろうか?
例えば、大地震の発生が高まったから他県へ引っ越しをするという方法もある。
しかし、地震のない国に引っ越さない限り回避できないだろう。
リスク制御
潜在的な発生頻度を軽減する損失防止、それから損失規模そのものを軽減する損失軽減の方法の2つが考えられる。
例えば、家に消火器を備えることで損失頻度を軽減できるだろうか?
それは防災活動の一つであって、それで損失頻度が軽減できるわけではない。
しかし、使用することによって損失規模を軽減できる可能性はある。
他の損失頻度を軽減する方法としては、火災発生の原因となりそうな行為や物をあらかじめ抑制しておくことなどが考えられるだろう。
リスク結合
損失にさらされている危険単位の数を増やして、リスクに対する予知能力を高める方法だ。
本来であれば不確実であるものの数を増やせば確実性は向上する。
同などのリスクを増やすことで管理しやすくなるからだ。
例えば、タクシー会社や運送会社が保険に加入していないケースは多い。
多数の自動車を所有することによって、ある程度の精度で損害額の予想がつき易くなるからだ。
こうした場合、他者にリスクを移転(保険会社などと契約)するよりも有効なケースは多い。
リスク分離(分散)
投資分野でよく紹介される、ポートフォリオがリスク分離(分散)に該当する。
例えば、複数の収入源を所有する、複数の銀行に預金する、複数の保険会社と契約するといったこともリスクを分離したことになる。
ただし、同じリスク特性をもったもの同士で分散しても、あまり意味がないので注意してほしい。
つまり、リスクを分散させるには、相関関係にないもの同士を組み合わせる必要があるということだ。
リスク移転
これには2つの方法がある。
1つ目が、損失にさらされている対象を他の人や法人に移転させる方法だ。
例えば、所有しているビルを他に売却すれば火災リスクは移転できるだろう。
2つ目は、ある種の条約などによって移転させる方法だ。
例えば、建物の売買契約の際の瑕疵担保契約などがそれに該当する。
一定期間内にその建物に瑕疵があった場合、責任は売り手が負うという取り決めをすれば、買い手のリスクを売り手に移転したことになる。
リスクファイナンシング
大きく保有と移転の2つに分類される。
- 保有は経済的影響を自ら負担する方法。
- 移転は経済的影響を他に負担してもらう方法。
他には、保険契約と保険契約以外への移転にわけられる。
ただ、実際には、保有と移転が独立して行われるケースは少ない。
だから、この2つを組み合わせてプランニングするのが一般的だ。
損失にさらされている対象すべてを保険によって移転するかどうかはコストにもよる。
したがって、保険会社が適用する割増率(保険料)によって変動する。
もっとも契約者のリスクに対する態度によって変わるだろう。
もちろん、すべてを保険で賄うのが常にベストな方法とは限らない。
また、リスクを移転するとなると、その行為自体に生じるリスクも考えられる。
例えば、個人が経済的損失を回避するために生命保険を活用する。
この方法は日常行われている。
通常、保険契約期間は長期に及ぶ。
したがって、いざというときに本当にその保険会社が債務を履行できるかという問題も生じる
つまり、保険金をちゃんと約束通り払ってくれるのかといったリスクが発生するわけだ。
このようなリスクを信用リスクと呼んでいる。
保険会社が破綻し、保険金支払額が削減されてしまったというケースは過去にもあった。
大数の法則とやらで、損害率を確定的なものに近づける事はできる。
しかし、想定外のことはいつでも起こり得る。
場合によってはそれが原因で保険会社が破綻する可能性もある。
市場利回りが約定利回りを大きく下回ることによって保険会社が破綻した例もある。
保険会社が所有している株式の価格が下落した場合もこれと同じ状況が考えられるだろう。
私たちが保険商品を選択する際、商品だけでなくその保険会社も同時に選択している。
商品リスクだけではなく、そこに付随する信用リスクなども抱えていることを忘れてはならない。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。