リスクプレミアム

お金を増やす方法とファイナンシャルプランニング、№4

前回はファイナンス理論のベースでもある将来価値からの視点と現在価値からの視点などについて解説した。今回は、リスクの測定、バリュー・アット・リスク、そしてリスクとリスクプレミアムなどについて解説していく。

リターンの分布を知るために期待値(平均)の次に分散または標準偏差と呼ばれているもの使う。リスクの概念は多岐にわたるが、リスクをリターンのブレとして考えた場合には、分布または標準偏差が「リスク」として認識されることになる。

分散と標準偏差について

統計学において分散とは一般的に次のように定義されています。

分散=[(ある状態の値-分布の期待値)2×(その状態になる確率)]を起こりうるすべての状態について計算し合計したもの

したがって、分布を算出するためには期待値が必要になってきます。

※期待値については「ファイナンス理論!将来価値からの視点と現在価値からの視点」を参照してください。

また、(ある状態の値-分布の期待値)を偏差ともいい、期待値からの乖離を示したものです。

偏差が期待値よりも大きければプラス、小さければマイナスの値で表します。

※ただし、単純に[(ある状態の値-分布の期待値)2×(その状態になる確率)]を起こりうるすべての状態について計算し合計したものとして算出すると、分布の散らばり方によらず、必ず0になってしまうので、乖離の部分が常に0以上になるように2乗する。

当然、算出された分散は2乗したものの和になり、元の数値からは比較しにくい数値になるので、分散の平方根をとって標準偏差とします。

なお、標準偏差は統計学ではσ(シグマ)を用いて表記するのが通例です。

したがって、分散はσ2と表記されることになります。

これらの考え方をリターンに適用した場合、分散と標準偏差は次のようになります。

リターンの分散σ2=[(ある状態の値-分布の期待値)2×(その状態になる確率)]を起こりうるすべての状態について計算し合計したもの

リターンの標準偏差σ=√リターンの分散σ2

例えばリターンの分散と標準偏差を期待リターン=30%×0.2+10%×0.6+(-10%)×0.2=10%という条件で求めてみましょう。

リターンの分散σ2=(30-10)2×0.2+(10-10)2×0.6+(-10-10)2=160

リターンの標準偏差=√160=12.6%

分散と標準偏差を推計する

リターンの過去のデータが得られていて、過去と将来は同じ分布に従っていると仮定した場合、分散と標準偏差を推計する方法はいくつかありますが、その内の一つの計算式は次のようになります。

例えばリターンが、1%、7%、10%という値だったとしましょう。

この期待値は(1%+7%+10%)/3=6%で、分散は次のようになります。

リターンの分散=(1-6)2+(7-6)2+(10-6)2/3=14

したがって、リターンの標準偏差は√14=3.7%ということになります。

正規分布を分析に使う

正規分布
図1-4

もし、リターンの分布が正規分布という扱いやすい形に従っているとすると期待値と標準偏差がわかれば分布のかたちを決めることが出来ます。

期待値と標準偏差の意味からもわかりますが、図1-4のように期待値が大きくなると分布のかたちはそのまま右方向に移動し、標準偏差が大きくなると、分布の中心はそのままで拡がりが大きくなります。

このように正規分布は、分布のカタチの変化を期待値と標準偏差という2つのパラメータで表現できる特徴があります。

標準偏差
図1-5

さらに正規分布を分析に用いるメソットとして、図1-5のように期待値と標準偏差が様々であっても、その領域の確率は期待値と標準偏差に対応して求められるということがあります。

わたしたに馴染みのあるものとしては、教育現場で頻繁に使われる偏差値があり、期待値50、標準偏差10の分布になるように変換したものです。

このように正規分布にはメリットもありますが、ファイナンシャルプランナーあるいは投資家として利用する場合は注意が必要です。

現実のリターンの分布が正規分布に従っているとは限らないからです。

もし仮に、正規分布に従っていたとしても、その現象がタイミングよくその分布のカタチの通りになるという保障はどこにもありません。

例えば、サイコロを6回振って、各目が1回ずつ出る確率を考えてみたらわかると思います。

しかし、真の値がわからないからといって、自分勝手に、あるいは主観的に楽観的な値を設定するよりは、データに基いて客観的な分析をする方が安全であるに違いありません。

元本保証があるかないかでリスクを判斷している

リスクは分散あるいは、標準偏差で確かに測ることができます。

しかし、これらをリスクそのものと解釈してしまうのは些か抵抗感があります。

例えば、個人が投資した時にリスクがないものとそうでないものを区別する時の基準として「元本保証があるかどうか」を目安にしている人は多いと思います。

逆に、元本割れする可能性のある商品はリスクが大きいと感じる人が多いと思います。

言いかえれば、リスクというものを、資産時価が購入価格を下回っているか上回っているかで判断していることになります。

一方、分散や標準偏差は、将来最もあり得る数値である「期待リターン」を中心とした上下の変動を意味しています。

多くの投資家にとって期待リターンを上回ることもリスクの一部であるという認識は、やや理解しにくい解釈でしょう。

ただし、リターンが定期分布に従っているとしたなら、分布は左右対称であり、分散や標準偏差でリスクを表現するこができます。

また、ダウンサイドリスクといわれる損失方向へのブレのみにフォーカスするリスク尺度もあります。

バリュー・アット・リスク

リスク・バファー
図1-6

バリュー・アット・リスクとは、ある資産に投資して、1年後の時点において95%や99%などのような一定した信頼のおける水準の元で、いくら以上の損失が生じると考えるべきかとしたときのそのその損失額のことです。

この尺度は、金融機関のリスク管理では必須のもので、※リスク・バッファーとして準備している額以内に、バリュー・アット・リスクをコントロールする必要があります。

※リスクに対応して積み上げている自己資本等

ただし、この場合でもバリュー・アット・リスク(VaR)が発生する確率は(1-信頼水準)であり、バリュー・アット・リスクを上回る損失が発生する可能性はあります。

信頼水準を高めれば、バリュー・アット・リスクを上回る損失が発生する可能性低くなりますが、そのままの投資額ではVaRは大きくなり、準備可能なリスク・バッファーに耐えられなければ、リスクの大きい投資は減らすなどの工夫が必要になってきます。

例えば、保有期間1年、信頼水準を95%とした場合、1年後にVaRを上回る損失が発生する可能性は5%で、毎年これを繰り返していくと20年間に1回の頻度でVaRを上回る損失が発生することになります。

20年間、VaRの範囲内に収まる確率は0.9520=35.8%なので、20年間に3回以上損失がVaRを上回る確率も24.5%あります。

したがって、投資家としては、どこまでの損失に耐えうるのかを常に考慮しながら投資判断を行い、リスク管理を怠らないといったことが非常に重要です。

リスクとリスクプレミアム

前もってリターンが確定していたとしたら、当たり前の話ですが、そこにリスクは存在しません。

年利3%のリターンが約束されていたなら、リスクはありませんよね。

しかし、その考え方は現実的ではありません。

実際には様々なリスクが存在しているからです。

金融資産の運用設計において、ファイナンシャルプランナーが金融商品への投資アドバイスをする際には、その投資行為に伴う収益や損失の可能性について予測しうる限りのアドバイスを行わなければなりません。

そのためには、前回の投稿「ファイナンス理論!将来価値からの視点と現在価値からの視点」の内容や今回のリターンやリスクについての考え方が不可欠になってきます。

複数の証券を組み合わせることによって、そのリスクを軽減することは可能ですが、その組み合わせたポートフォリオによって期待しうるリターンを得られるかは不明です。

したがって、リターンの大きさだけではなく、リスクについて十分に顧客に示す必要があります。

リスクとリターンの関係

そこで浮上してくるのがリスクとリターンの関係です。

現実的には考えられないのですが、コントラストをつけるためにあえて飛躍した例を示します。

例えば、投資対象が無リスク、金利10%の預金と、同じ株価の株式Aと株式Bの2銘柄の内どちらかに投資するという状況を考えてみましょう。

株式Aの1年後の株価は1,200円とし、株式Bの株価が1年後に1,200円になる確率も800円になる確率も50%だと仮定したとします。(配当はない)

Aは100%の確率で1,200円になるとわかっているので、リスクがなく、収益率は20%ということになります。

Bは50%づつの確率で1,200円か800円になるのでリスクがあります。

そして、すべての投資家が高い期待リターンと同時に低いリスクを好むと仮定した場合には次のようなことが考えられます。

  • リスクが同じでリターンが異なる場合、期待リターンがより大きい方に投資する
  • 期待リターンが同じで、リスクが異なる場合、リスクがより小さい方に投資する
  • 期待リターンとリスクのいずれも異なる場合、投資家の類似性(経験や認知)によって異なる

この例でいえば、投資家は当然のごとく株式Aを選択します。

需要と供給のバランスによる

しかし、すべての投資家がAへの投資を選択した場合、需要が供給量を上回る結果となり、1,000円という株価は無リスク金利リターン10%に向け上昇し、すぐに「楽して稼げる」機会はなくなるでしょう。

一方、リスクのある株式Bは需要が少ないため株価が低下し、期待リターンは上昇します。

この例は極端な例ではありますが、リスクが小さい商品は低いリターンになり、リスクの大きい商品は期待リターンが高くなることがわかります。

つまり、株価のような資産価格は単にリターンだけではなく、そのリターンの不確実性が加味され価格に収束することが分かっていただけたと思います。

リスクとはなにか?

ここで、リスクについてもう少し掘り下げてみましょう。

先程の割高な株式Bの株価が市場において是正され、850円になったとしましょう。

株式Bはあくまでもリスクのある商品であり、将来1,200円になるか、800円になるかは不明です。

しかし、それが50%づつの確率であるとしたなら、期待リターンは18%になります。

※0.5(1200)+0.5(800)=1,000円 (1,000-850)÷850=0.18

この場合、無リスク商品のリターン10%に比して株式Bの期待リターンは18%になり、その差である8%が、リスクの代償として投資家に支払われる可能性があることを意味しています。

それでは、なぜ1,000円ではなく850円という株価になったのでしょうか?

そもそも、株式Bを購入しても期待株式価値である1,000円を1年後に得ることは出来ません。

なぜなら、1年後にBがとりうる価値は1,200円か800円だからです。

しかし、この期待株式価値1,000円はまったく意味のない値でもありません。

仮に株式Bと同じ分布で、1,200円になるか800円になるかランダムである株式が他にもあり、それらを保有したと仮定します。

するとそれらすべての株式の平均株価は1,000円に近づいていきます。

それでもなお、850円という株価をとるという考え方のほうが現実的です。

時間価値

第一に時間価値からそのことが言えます。

無リスク資産が10%のリターンを提供しているということは、時間価値としてリスク無しで10%の運用ができることを意味していす。

つまり、もし株式Bのリターンンが10%以下げあれば、リスクを好まない投資家は無リスク資産を購入するでしょう。

したがって、投資にとって魅力にかける株式Bの株価を更に引き下げる必要があります。

そこで、株式Bの上限株価Sは期待リターンが10%になるように計算されます。

※(1,000-S)÷S=0.1⇒S=909円

上記のように期待株価が1,000円である株式Bの期待リターンを最低10%にするためには現在の株価は909円以下でなければなりません。

リスクプレミアム

第2にリスクの代償であるリスクプレミアムを加味する必要があります。

もし投資家がリスクに対して無関心で期待値のみを考えるのであれば、リスクプレミアムを加味する必要はありませんが、通常はリスクをなるべく取りたくないと考えるので、リスクに対する代償を支払う必要があります。

仮にリスクプレミアムを59円とし、市場によって適正化された価格が850円なら、期待株価と実際の株価である850円との差は、「時間価値91円+リスクプレミアム59円+現在の株価」というようことになります。

さらにBよりもリスクが大きいいCがあったとします。

これまでと同様、期待株価よりも現在の株価は低くなりますが、同じ期待リターンであれば、よりリスクの小さい株式を選択するはずなので、Bと同じ価格で購入する投資家は存在しないと考えられます。

したがって、株式Cは株式Bよりも低い株価になります。

例えば、Cの株価が750円になっても時間価値は91円のまま変わらないので、リスクプレミアムは159円ということになります。

さいごに

このように投資家の行動の結果、リスクが大きい資産には大きなリスクプレミアムが与えられるので、リスクが大きい資産ほど期待リターンが高くなり、リスクが小さいものほど期待リターンが低くなります。

その結果、ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンといった関係が生じてきます。

ただし、あくまでもこれは期待リターンの話です。

例えば、株式Bは現時点で850円、将来時点で800円なら-5.9%。

株式Cは現時点で750円、将来時点が600円であれば、-20%というマイナスリターンになり、株式Cの方が下落幅が大きいということも投資の世界ではありえるからです。

次回はポートフォリオ理論、ポートフォリオのリスクと期待リターンの算出などについて解説します。

ではまた。

 

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