生存中に蓄えた富の一部を社会に還元する!?

相続税額の計算

相続税額の計算のプロセスを通して、相続税全般の内容を見ていくことにしましょう。

今回は、そのプロセスの中でも特に以下のような事柄を中心に解説しましょう。

  • 納税義務者の種類による課税対象の違い。
  • 相続税の課税財産の範囲や財産の所在。
  • 生前贈与と贈与税額控除との関連。

相続税の2つ類型

まず、相続税には以下のように2つの類型があります。

  1. 遺産税
  2. 遺産取得税

遺産税について

生存中に蓄えた富の一部を社会に還元すべきであるという考え方に基づいて、人が死亡した場合にその遺産に対して課税するものを「遺産税」と呼んでいます。

これを別の視点から見た場合、富の集中を排除するためと解釈することもできます。

蓄積した資産は、被相続人の勤労力や経済的手腕によるところが大ですが、当然に社会や国から受けた利益も含まれています。

もしも、遺産に対して課税が行われなければ、一部の富豪とそれ以外の人の格差はますます大きくなってしまいます。

つまり、一度資産家になったその子孫は、さらに資産を増やし続ける一方だということです。

したがって、相続を機会としてこれを清算課税する必要があるというのがその根拠だということになります。

遺産取得税について

遺産は、相続という偶然の機会に取得した不労取得であるという考え方です。

これはヨーロッパ大陸諸国において採用されている解釈です。

ですから、ある意味、所得税の補完税と解釈することもできるでしょう。

日本では、創設時(明治38年)から遺産税の考え方を用いてきましたが、シャウプ勧告(昭和25年)によって遺産取得課税に移行したので、現在では遺産取得税に近いニュアンスになっています。

※シャウプ勧告:1949年コロンビア大学教授 C.シャウプを団長とする使節団が,日本の租税制度に関して行なった勧告。

遺産取得税は相続した財産の額に応じて税負担をすることから、遺産税よりも担税力に即した課税になっていると解釈したためです。

また、遺産取得税の方が富の集中排除の機能も発揮できるという理由からです。

しかし、厳密には現行の相続税は、完全な遺産取得税方式ではなく、遺産税の要素も含めて修正されているということを認識しておいてください。

現行では、各相続人が遺産をいくら相続したかに関係なく、法定相続分どおり相続したと仮定を算出し、これに現実の相続割合を乗じて各相続人の相続税額を計算することになっているからです。

相続税と贈与税

相続税は、相続または遺贈(死因贈与を含む)により財産を取得した場合に課税されます。

贈与税は個人からの贈与(死因贈与を含む)によリ財産を取得した場合に課税されます。

※相続税、贈与税とも果税価格が基礎控除額をこえなければ課税されない。

また、贈与税は「相統税の補完税」とも解釈されています。

贈与税は生前の贈与に対して課税することにより、相続税で課税されない部分を補完する性格をもっているからです。

仮に贈与することによって将来相続税の課税がなされないとすると、贈与をしない人に比べ税負担に不公平が生ずるというのがその理由です。

こうした特徴から贈与税の負担は相統税より重くなっていて、そのことが贈与税が抑制される一因になっていました。

つまり、市場にお金が流れず、資金の流通に支障が出ていたわけです。

こうした事態を打開するために平成15年度に相続時精算課税制度が創設され、さらに平成25年4月1日からの教育資金の贈与制度、平成27年4月1日からの結婚・子育て資金の贈与制度が創設されました。

これは高齢世代からの資産移転を促すなどの趣旨です。

したがって、課税の仕組も「相統税と贈与税の一体化」という従来にない特殊なものになっているわけです。

このように税制改革によって政府にとって都合のいい改定が、無限に行えるのです。

(「相続時精算課税制度」の詳細はこちら、「教育資金および結婚・子育て資金」の詳細はこちら)

続いて相続税の計算の流れについてです。

相続税を計算する前の段階、つまり、相統人の把握、相統分の確定、財産を評価するといった事は終わっている前提です。

相続税計算の流れについて

  1. 課税価格を計算する
  2. 相続税の総額の総額を計算する
  3. 各人ごとの納付税額を計算する

課税価格

相続・遺贈による財産価額+みなし相続・遺贈による財産価額ー非課税財産価額+相続時精算課税の贈与金額ー債務・葬式費用+相続開始前3年以内の贈与価額

相続時精算課税:相続時精算課税の特定贈与者(相続時精算課税に係る贈与者(親や祖父母)をいいます。)が死亡した場合には、相続時精算課税の適用者(受贈者)が特定贈与者から相続または遺贈により財産を取得しない場合であっても、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産は相続または遺贈により取得したものとみなされ、贈与の時の価額で相続税の課税価格に算入されることになります。

相続開始前3年以内の贈与価額:相続または遺贈により財産を取得した相続人などが、相続開始前3年以内にその被相続人からの暦年課税に係る贈与によって取得した財産の価額をいいます。

以上国税庁ホームページより抜粋

では、以下のケースについて実際に相続税の計算をしてみましょう。

相続税の計算事例

  • 法定相続人:妻と子ども2人
  • 課税対象財産:5億円
  • 財産取得予定:妻2億円、長男2億円、長女1億円
課税価格合計5億円
基礎控除4,800万円(3,000万円+600万円×3人)
基礎控除後の課税価格4億5,200万円
長男長女
法定相続分2億2,600万円
(4億5,200万円×1/2)
1億1,300万円
(4億5,200万円×1/4)
1億1,300万円
(4億5,200万円×1/4)
法定相続分に応じた税額7,470万円2,820万円2,820万円
相続税総額1億3,110万円
各人の課税価格5,244万円
(2億円/5億円=40%→1億3,110万円×40%)
5,244万円
(2億円/5億円=40%→1億3,110万円×40%)
2,622万円
(2億円/5億円=20%→1億3,110万円×20%)
税額控除5,244万円00
各人の納付税額05,244万円2,622万円

以上単純な例ですが相続税計算の流れをご紹介しました。

相続税と贈与税との違い

では、相続税と贈与税の違いはどこに有るのでしょうか?

個人から無償により取得された財産(財産の無償移転)に課されるという点では、相続税と贈与税は同じです。

しかし、相続税は被相続人の死亡によって取得した財産に課税されるという点が贈与税とは異なります。

参考▼

相続は死亡によって開始し(民法882)、原則として相続または遺贈により財産を取得した個人は相続税を納める義務がある(相法1の3)

また、財産の無償移転のパターンには、相続・遺贈の他に、死因贈与や特別縁故者への相続財産分与などもあります。

財産取得の時期は、通達により次のように定められている。

財産取得の時は、無制限納税義務者・制限納税義務者の区別(相法1の3、1の4)、相続税の納税義務の成立の時期(国税通則法15②四、五)などの基準となるので重要です。

「相続または遺贈による財産取得の時期は、相続開始の時(失踪の宣告を相続開始の原因とする相続については、民法31条に規定する期間満了の時または危機の去りたる時)とする_(相基通1の3・1の4共-8)

「停止条件付の遺贈でその条件が遺贈をした者の死亡後に成就するものである場合は、その条件が成就した時に取得したものとする」(相基通1の3・1の4共-9)

これらの通達の内容は、いずれも民法(民法127、民法882、民法896、民法909、民法985、民法990)の規定

ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。

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