
今回は正味現在価値・内部収益率・リアルオプションなどを個人のライフデザインに活用する方法についてです。
計画を実行する過程において個人の意思決定はとても重要です。
どこに就職するのか、結婚するのかしないのか、住宅は購入するのか賃貸なのかなど、人生は意思決定の連続だからです。
そして、合理的な意思決定を行うためには、正しい順序が必要です。
- 意思決定を行うために目標設定。
- その目標を達成するために情報収集を行う。
- 選択した情報のメリット・デメリット、リスク度合、リターンを分析。
- 最も良いと思われるものを選択して実行。
- 実行した結果に基づいて修正、改善を繰り返す。
以上がごく一般的な合理的な意思決定プロセスです。
その意思決定を行うにあたって知っておいてほしいことがあります。
最初は正味現在価値という考え方です。
正味現在価値という視点!
個人が投資を決める際の意思決定方法として利用できるのが正味現在価値法です。
正味現在価値とは、将来キャッシュフローの現在価値と投資するお金の現在価値の差異のことです。
この正味現在価値がプラスならば投資、マイナスなら投資すべきではないという意思決定を行うとします。
例えば、大学に進学するか、就職するか、その意思決定を行う場合を考えてみましょう。
大学に進学して23歳から60歳まで働くことが前提です。
この場合、大学進学費用、4年間の教育費、4年間収入を得られない機会費用などを考慮し、大卒と高卒との労働市場での価値の差額とを対比します。
その結果、大学進学が有利となれば、大学へ進学をするという意思決定を行います。
内部収益率を把握する
内部収益率とは、将来キャッシュフローの現在価値と初期投資額がなどしくなる収益率のことです。
言いかえれば、正味現在価値が0になる割引率のことです。
例えば、先ほどの大学進学のケースで考えてみましょう。
教育費用の割引現在価値が将来キャッシュフローの増加額の割引現在価値になどしくなるような内部収益率を求めます。
教育費用の割引現在価値×内部収益率=将来キャッシュフローの増加額の割引現在価値
それが市場利子率をこえていれば大学に進学する。
未満であれば市場利子率を上回るものに投資する、という判断をおこないます。
また、将来のキャッシュフローには不確定要素がたくさんあります。
つまり、計算上の選択と最良の選択はイコールではないということです。
不確定要素を軽減するには、やはり堅実な考え方が不可欠です。
例えば、不確定要素の多い市場に投資するのではなく、自己能力の開発に投資するという方法も考えられるでしょう。
他に、オプションの考え方を応用してリスクを軽減することも可能です。
リアルオプションの仕組みをライフプランにも組み込む
オプションとは、選択する権利のことです。
ファイナンス領域で云えば、一定期間内にあらかじめ決められた価格で金融資産などを売買する権利を意味します。
買う権利をコール・オプション、売る権利をプット・オプションと呼んでいます。
例えば、3ヵ月後にある企業の株式を売買する権利があるとします。
この権利を取得するために、ある一定の対価を支払います。
これをオプション・プレミアムと呼んでいます。
権利の買い手は、取引を実行するか否かの意思決定をする選択権を持っています。
つまり、一定のコストをかけることによって、意思決定を先延ばしにする権利を取得した事になります。
この考え方をビジネスに応用してプロジェクトや工場などの実物資産を原資産とするものを「リアル・オプション」といいます。
例えば、出版社が新しい雑誌を販売するにあたり、試験的に小額投資を行い、一定のエリアでテストマーケティングを行い、ある程度の見通しが付いてから創刊するとします。
これは、小額投資というプレミアムを支払う事によって、本格的に雑誌を販売するかどうかのオプションを取得したことになります。
このように、オプションはリスクヘッジとしての側面も持っているのです。
テスト(少額投資)という形で支出をコントロールし、将来の不確実性を減らして確実に収益を確保する。
このようにオプションという考え方を応用することで、リスクを縮小することもできます。
オプションをパーソナルファイナンス分野に応用する
オプションの考え方を個人のケースに応用した場合はどうでしょうか?
大学受験の場合
例えば、受験したい学校が複数あり、入試日がそれぞれ異なっているとします。
優先準備を既に決めていると仮定して、最初に合格した学校が本命ではなく、第3志望の学校だったとします。
とりあえず入学金(オプション・プレミアム)を支払って、入学する権利をあらかじめ手に入れておきます。
ただし、10日以内に授業料を支払わないと効力がなくなるという条件付きです。
つまり、この10日間が権利を行使できる期間です。
その3日後に第一志望の学校に見事合格することができました。
この時点で既に支払った入学金(オプション・プレミアム)は放棄する事になりますが、プレミアムを支払うことによって、よりよい選択ができたわけです。
マイホーム購入の場合
気に入ったマンションがあったので購入しようと思いましたが、ひょっとしたらもっといい物件が見つかるかもしれないという思いがよぎったとします。
そこで、とりあえず1割の手付金を支払って、マンションを購入する権利(コール・オプション)を手に入れます。
売買契約完了までにもっといい物件が見つかった場合は、手付金を放棄することによって、契約を解除することができます。
つまり、個人のライフプラン上のコール・オプション(買う権利)です。
保険契約の場合
保険会社との保障契約を結ぶことで、契約上の事由が発生した時に保険金を受け取る、というオプションを取得したことになります。
もちろん、何もなければ保険料(プレミアム)は損失となりますが、保険料(プレミアム)を支払うことで、万が一の大きなリスクをカバーできるわけです。
このように不確実性に晒されるなかで、行使した場合は再び元の状態に戻れない状況下いおいて意思決定をくださなければならない時もあります。
そのような時に、オプション機能によってリスクを軽減することもできます。
ただし、オプションを実行する場合にはその約束ごとに留意する必要があります。
例えば、大学入学やマンションなどの原資産を得るために必要な資金、約束された一定期間、資産を売買する権利を得るたの諸費用、保険会社との約束事などのことです。
オプションにはさまざまなものがある
リアル・オプションについて少し触れましたが、この他にもオプションにはさまざまなものがあります。
例えば、
- 将来の見通しが明確になってから意思決定するかどうかを判断する延長オプション。
- 状況が悪化した時は、既に意思決定した行動から撤退する撤退 オプション。
- とりあえず最小限の投資を実行し、将来の見通しが明確になった段階で本格的に投資する拡張オプション。
- 将来の状況によっては、一旦決定した選択肢を他の目的に変容したり変更する転用・切り替えオプション。
- いち早く意思決定し、参入する事によって他より優位に立つための成長オプション。
このようにオプションにはさまざまなものがあり、1つの意思決定が新たな資産を生みだすこともあれば、逆に制約を生ずることもあります。
ライフプラン上の全てのことに、リアルオプションを適用できるわけではありませんが、オプションという考え方が理解できているかどうか。
それはキャッシュフローを最大化する視点から捉えた場合は大きな違が生じます。
どんなに素晴らしいプランでも、確定した揺るぎない未来を約束できるわけではないからです。
私たちが長い間信奉してきた概念も、すべて誰かが作り上げた固定点のひとつに過ぎません。
ますます事実と乖離(かいり)した不確性が増えてきた環境下において、さらなる柔軟性が求められています。
このオプションという考え方を、自由に使いこなせるようにしておいてください。
ではまた。