今回は、正味現在価値、内部収益率、リアルオプションなどの考え方を個人のライフデザインに活用する方法とライフデザインを狂わせるバイアス(偏見・類似性)についてです。

人生設計に大きく影響していること!?

何かの計画を実行する過程において、個人の意思決定はとても重要です。

どこに就職するのか、結婚するのかしないのか、住宅は購入するのか賃貸なのかなど、人生は意思決定の連続だからです。

そして、合理的な意思決定を行うためには、正しい順序が必要です。

  1. まず意思決定を行うために目標設定します。
  2. その目標を達成するために情報収集を行います。
  3. 次に選択した情報のメリット・デメリット、リスク度合、リターンを分析します。
  4. 最も良いと思われるものを選択して実行します。
  5. 実行した結果に基づいて修正、改善を食い返します。

以上がごく一般的な合理的な意思決定プロセスですが、その意思決定を行うにあたって知っておいて欲しいことが幾つかあります。

まず、最初に正味現在価値という考え方です。

正味現在価値という考え方

個人が投資を決める際の意思決定の方法として利用できるのが、正味現在価値法です。

正味現在価値とは、将来キャッシュフローの現在価値と投資するお金そのものの現在価値の差異のことです。

これは、正味現在価値がプラスならば投資し、マイナスなら投資すべきではない、という考え方です。

例えば、大学に進学するか、就職するか、その意思決定を行う場合を考えてみましょう。

大学に進学して23歳から60歳まで働くことが前提です。

この場合、大学進学費用、4年間の教育費、4年間収入を得られない機会費用等を考慮し、大卒と高卒との労働市場での価値の差額とを対比します。

その結果、大学進学が有利となれば、大学へ進学をするという意思決定を行います。

内部収益率という考え方

内部収益率とは、将来キャッシュフローの現在価値と初期投資額が等しくなる収益率のことです。

言いかえれば、正味現在価値が0になる割引率のことです。

例えば、先ほどの大学進学のケースで考えてみましょう。

教育費用の割引現在価値が将来キャッシュフローの増加額の割引現在価値に等しくなるような内部収益率を求めます。

教育費用の割引現在価値×内部収益率=将来キャッシュフローの増加額の割引現在価値

それが市場利子率を超えていれば大学に進学する、未満であれば市場利子率を上回るものに投資する、という意思決定プロセスになります。

しかし、将来のキャッシュフローには不確定要素がたくさんあります。

つまり、計算上の選択と最良の選択はイコールではない、ということです。

不確定要素を軽減するには、やはり堅実な投資が必要です。

例えば、不確定要素の多い市場に投資するのではなく、自己能力の開発に投資する、といった方法が考えられます。

また、オプションの考え方を応用することで、リスクを軽減することができます。

リアルオプションという考え方

オプションとは、選択する権利のことです。

ファイナンス領域で云えば、一定期間内にあらかじめ決められた価格で金融資産などを売買する権利を意味します。

買う権利をコール・オプション、売る権利をプット・オプションと呼んでいます。

例えば、3ヵ月後にある企業の株式を売買する権利があるとします。

この権利を取得するために、ある一定の対価を支払います。

これをオプション・プレミアムと呼んでいます。

権利の買い手は、取引を実行するか否かの意思決定をする選択権を持っています。

つまり、一定のコストをかけることによって、意思決定を先延ばしにする権利を取得した事になります。

この考え方をビジネスに応用したプロジェクトや工場などの実物資産を原資産とするものを「リアル・オプション」といいます。

例えば、出版社が新しい雑誌を販売するにあたり、試験的に小額投資を行い、一定のエリアでテストマーケティングを行い、ある程度の見通しが付いてから創刊するとします。

これは、小額投資というプレミアムを支払う事によって、本格的に雑誌を販売するかどうかのオプションを取得したことになります。

このように、オプションはリスクヘッジとしての側面も持っているのです。

テスト(少額投資)という形で支出をコントロールし、将来の不確実性を減らして確実に収益を確保する。

それがオプションという考え方の応用によって、可能になってくるわけです。

個人のケースに置き換える

これを個人のケースに置き換えた場合、どのようになるでしょうか。

大学受験の場合

例えば、受験したい学校が複数あり、入試日がそれぞれ異なっているとします。

優先準備を既に決めていると仮定して、最初に合格した学校が本命ではなく、第3志望の学校だったとします。

とりあえず入学金(オプション・プレミアム)を支払って、入学する権利を予め手に入れておきます。

ただし、10日以内に授業料を支払わないと効力がなくなるという条件付きです。

つまり、この10日間が権利を行使できる期間です。

その3日後に第一志望の学校に見事合格することができました。

この時点で既に支払った入学金(オプション・プレミアム)は放棄する事になりますが、プレミアムを支払うことによって、よりよい選択ができたわけです。

マイホーム購入の場合

気に入ったマンションがあったので購入しようと思いましたが、ひょっとしたらもっといい物件が見つかるかもしれないという思いがよぎったとします。

そこで、とりあえず1割の手付金を支払って、マンションを購入する権利(コール・オプション)を手に入れます。

売買契約完了までにもっといい物件が見つかった場合は、手付金を放棄することによって、契約を解除することができます。

つまり、個人のライフプラン上のコール・オプション(買う権利)です。

保険契約の場合

保険契約も同じことです。

保険会社との保障契約を結ぶことで、契約上の事由が発生した時に保険金を受け取る、というオプションを取得したことになります。

もちろん、何もなければ保険料(プレミアム)は損失となりますが、保険料(プレミアム)を支払うことで、万が一の大きなリスクをカバーできるわけです。

このように、人生には、不確実性を伴うケースで、それを行使した場合は再び元の状態に戻れない状況下で、意思決定をくださなければならない時があります。

そのような時に、その意思決定を一定期間延長できる権利を得ることによって、リスクを軽減することができます。

ただし、オプションを実行する場合には、その約束ごとに留意する必要があります。

例えば、大学入学やマンションなどの原資産を得るために必要な資金、約束された一定期間、資産を売買する権利を得るたの諸費用、保険会社との約束事などのことです。

さまざまなオプション

リアル・オプションについて少し触れましたが、この他にもオプションには様々なものがあります。

例えば、

  • 将来の見通しが明確になってから意思決定するかどうかを判断する延長オプション。
  • 状況が悪化した時は、既に意思決定した行動から撤退する撤退 オプション。
  • とりあえず最小限の投資を実行し、将来の見通しが明確になった段階で本格的に投資する拡張オプション。
  • 将来の状況によっては、一旦決定した選択肢を他の目的に変容したり変更する転用・切り替えオプション。
  • いち早く意思決定し、参入する事によって他より優位に立つための成長オプション。

このようにオプションには様々なものがあり、1つの意思決定が新たな資産を生みだすこともあれば、逆に制約されたりもします。

ライフプラン上の全てのことに、リアルオプションを適用させることはできないでしょう。

しかし、オプションという考え方が理解できているかどうか、、、、

それは、キャッシュフローを最大化する視点から捉えた場合は大きな差です。

どんなに素晴らしいプランだったとしても、確定した揺るぎないものではないからです。

私たちが長い間信奉してきた概念も、すべて誰かが作り上げた固定点です。

ますます事実と乖離した不確性が増えてきた世界で、ライフプラン上の決定事項を柔軟に対応できるように準備しておく必要があります。

このオプションというの考え方を、自由に使いこなせるようにしておいてください。

ライフデザインを狂わせるもの!?

ファイナンス理論上の意思決定は本来合理的であるべきですが、その心理状態によっては、人はしばしば合理的とはいえない意思決定をします。

これは投資に限ったことではなく、貯蓄、消費、借り入れ、保険加入など、生活のさまざまなシーンで起こり得ることです。

そして、そこにはバイアスが大きく関与しています。

バイアスとは類似性、つまり、個人の体験や経験に基づいて形成された考え方の癖といったところでしょうか。

個人の意思決定におけるこうしたバイアスには、一定のパターンがあると仮定して分析し研究した結果導き出された理論があります。

それを行動ファイナンス理論と呼んでいます。

この理論は、合理的な意思決定が行えるように導いていく1つの手段として用いられています。

儲けるよりも損したくない

代表的なバイアスの一つが、収益に比べて損失を過度に嫌う「損失回避性」です。

参考▼

「人はそれぞれが持つ相対的な評価基準である参照点を基準として利得に対してよりも損失に対してより多く価値が減るという判断をする」とされるプロスペクト理論

このプロスペクト理論が行動ファイナンス理論の中核となっています。

現状維持を好む

環境が変化し、望ましくないアセットアロケーション(複数の異なった資産に配分して運用する)にもかかわらずそれを変更しようとしない。

また、身近に感じる日本株には多く投資するが、新興国はじめ馴染みのない他国の株式や債券にはあまり投資しようとしない。

そうしたカントリーバイアスなどを誘発するものを「現状維持バイアス」と呼んでいます。

未来の価値よりも目の前のことが大事

現在の小さな利益に目を奪われ、将来の中長期的な利益を逃してしまう。

現在の低いコストに目を奪われ、将来の高いコストを見逃す双曲割引的な考え方をしてしまう。

メリットがだんだん減少していき、メリットがなくなることがわかっているのに、思わず利用してしまう、これを「現状志向バイアス」と呼んでいます。

将来金利が高くなる段階型金利ローンなどが代表的なものです。

今は割引率が高くても将来に向け確実に割引率が低下することがわかっていても、どうしても選択せずにはいられないわけです。

意味もなく中間的なものを選んでしまう

人は与えられたものの中で、さしたる理由もなく中間的なものを選んでしまう傾向があります。

これはある意味、「極端性を回避する行動」ともいえます。

例えば、ハイリスク、ミドルリスク、ローリスクの金融商品を提案された場合、ミドルリスクの商品を選択するということです。

本質的な違いを吟味して選択したわけではなく、あくまでこの三種類の金融商品を比較した中での相対的評価のみで決めてしまうわけです。

それは、自分のリスク許容度や商品そのものの特性に基づくものではありません。

したがって、結果的に誤った選択をしてしまう可能性が高いです。

代表的なものに弱く、近道(ショートカット)が好き

何かを選択するときに、十分な分析をせずに特定の特徴や記憶をよりどころにして、簡単に判断してしまう傾向があります。

これを、ものごとの一部分を見て全体を判断してしまう「代表性バイアス」と呼んでいます。

また特定の状況を判断するときに関連の記憶を元に判断してしまう「近道選び」というバイアスもあいます。

根拠のないカテゴリーを作りたがる

家計の収支を食費、娯楽費といったように分類するように、お金に独自のカテゴリーを作って、その中で相対的に判断してしまう傾向があります。

上手く活用できると合理的ですが、これを間違えると悲惨です。

例えば、ギャン ブルなどで得たお金を、あぶく銭というカテゴリーに分類する人は多いと思います。

ですから、パッと使ってしまうわけです。

ところが、ギャンブルを職業にしている人はそうした行動はしません。

それを職業と認識しているので、むやみに浪費したりはしません。

このような独自分類性を「メンタル・アカウンティング」と呼んでいます。

フレーミングしたがる傾向がある

また、特定のフレームを作って、それで物事を判断する傾向もあります。

例えば、消費者金融のCMで「10万円を1ヶ月借りて、利息はわずか500円玉三枚」というキャッチフレーズを聞いたことがあるでしょう。

一見すると、とても安い利息に感じます。

なぜなら、10万円と1500円という「現金の価値」というフレームにとらわれてしまうからです。

これを実際に計算してみると「年利換算で18%」という極めて高い金利です。

こうしたバイアスが、自覚のないまま常に働いていることを認識しておいてください。

次回は「今やライフデザインの一部とも言える離婚をプランニングする」です。

ではまた。CFP® Masao Saiki

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