前回は「年代別ライフスタイルとライフプランにおける意思決定」でした。

認知バイアスとライフデザイン

今回のライフデザインガイダンスは、正味現在価値、内部収益率、リアルオプションなどの考え方を個人のライフデザインに置き換える試みと行動ファイナンスについてです。

正味現在価値という考え方

個人が投資を決める際の意思決定の方法として一般的なのが正味現在価値法です。

正味現在価値とは、将来キャッシュフローの現在価値と投資するお金そのものの現在価値の差異のことです。

すなわち、正味現在価値がプラスならば投資し、マイナスなら投資すべきではないとする考え方です。

例えば大学に進学するか、就職するかの意思決定を行う場合を考えてみましょう。

大学に進学して23歳から60歳まで働くとします。

この場合大学進学費用、それから4年間の教育費、4年間収入を得られない機会費用等を考慮し、大卒と高卒との労働市場での価値の差額とを対比します。

その結果大学進学が有利となれば大学に進学するということになります。

内部収益率という考え方

内部収益率とは将来キャッシュフローの現在価値と初期投資額が等しくなる収益率のことです。

言いかえれば、正味現在価値が0になる割引率のことです。

繰り返しになりますが、正味現在価値とは、将来キャッシュフローの現在価値と投資するお金そのものの現在価値の差異のことです。

例えば先ほどの大学進学のケースを考えてみましょう。

教育費用の割引現在価値が将来キャッシュフローの増加額の割引現在価値に等しくなるような内部収益率を求めます。

それが市場利子率を超えていれば大学に進学する、市場利子率未満であれば市場利子率以上のことに投資するという意思決定をします。

しかし、将来のキャッシュフローというのは確定している事ではなく、不確定要素がたくさんあるわけです。

つまり机上では最良の選択は簡単に出来るものではないということです。

すなわち、個人の生産性向上に常に投資していくことが、一番の解決策になるのではないでしょうか。

リアルオプションという考え方

オプションとは簡単に言えば選択する権利のことです。

ファイナンス領域で云えば、一定期間内にあらかじめ決められた価格で金融資産などを売買する権利を意味します。

そして、買う権利をコール・オプション、売る権利をプット・オプションといいます。

例えば3ヵ月後にある企業の株式を売買する権利があるとします。

そして、この権利を取得するためにはある一定の対価を支払わなければなりません。

これをオプション・プレミアムといいます。

権利の買い手は、取引を実行するか否かの意思決定をする選択権を持っています。

つまり、ある意味一定のコストをかけることによって意思決定を先延ばしにする権利を取得した事になります。

そして、この考え方をビジネスに応用したプロジェクトや工場などの実物資産を原資産とするものを「リアル・オプション」といいます。

参考事例▼

例えば、出版社が新しい雑誌を販売するにあたり、試験的に小額投資を行い、一定のエリアでテストマーケティングを行い、ある程度の見通しが付いてから創刊する方法を取るとすると、これは、小額投資というプレミアムを支払う事によって、本格的に雑誌を販売するかどうかのオプションと見て取る事ができます。

このようにオプションはリスクヘッジとしての側面を持っています。

大きな失敗を避けるために、テストという形で将来の不確実性を減らし、より確実に収益を確保するといったことが、オプションという考え方の応用によって可能になってくるわけです。

個人のケースに置き換える

これを個人のケースに置き換えた場合、どのようになるでしょうか。例えば、受験したい学校が複数あ り、入試日が異なっているとします。

優先準備を既に決めていると仮定して、最初に合格した学校が本命ではなく、第3志望の学校だったとします。

そこでとりあえず入学金とい うオプション・プレミアムを支払って入学する権利を予め手に入れておきます。

しかし、10日以内に授業料を支払わないとその効力がなくなるとします。

つまり、この10日間が権利を行使できる期間ということになります。

その3日後に第一志望の学校に見事合格することができたので、第一志望の学校に入学することを決めました。

そして、この時点で既に支払った入学金 というオプション・プレミアムは放棄する事になります。

また例えば、気に入ったマンションがあったので購入しようと思いましたが、ひょっとしたらもっといい物件が見つかるかもしれないという思いがよぎったとします。

そこでとりあえず1割の手付金を支払ってマンションを購入する権利(オプション)を手に入れます。

売買契約完了までにもっといい物件が見つかった場合は、手付金を放棄することによって契約を解除することができます。

これらの事例は個人のライフプラン上の一種のコール・オプション(買う権利)といえます。

このように、リアル・オプションを活用することによって、不確実性を伴うケースで、それを行使した場合は再び元の状態に戻れない状況下で意思決定をくださなければならないような時があります。

そのような時に、その意思決定を一定期間延長できる権利を得ることができる、ということになります。

そして、リアル・オプションを実行する場合には、約束ごとがあることに留意しておく必要があります。

例えば、大学入学やマンションなどの原資産を得るために必要な資金や約束された一定期間、資産を購入したり売却したりする権利を得るための諸費用などです。

さまざまなオプション

リアル・オプションについて少し触れましたが、この他にもオプションには様々なものがあります。

例えば、

  • 将来の見通しが明確になってから意思決定するかどうかを判断する延長オプション。
  • 状況が悪化した時は、既に意思決定した行動から撤退する撤退 オプション。
  • とりあえず最小限の投資を実行し、将来の見通しが明確になった段階で本格的に投資する拡張オプション。
  • 将来の状況によっては、一旦決定した選択肢を他の目的に変容したり変更する転用・切り替えオプション。
  • いち早く意思決定し、参入する事によって他より優位に立つための成長オプション。

このようにオプションには様々なものがあり、1つの意思決定が新たな資産を生みだすこともあれば、逆に制約したりすることもあります。

ライフプラン上の全ての ことにリアルオプションの構造を適用させると不具合なことも起こりますが、オプションという考え方が理解できているかどうか、キャッシュフローを最大化する視点から捉えた場合、大きな差になってくるでしょう。

いかなるプランも確定した揺るぎないものではありません。この世界に絶対といえるものは存在しないからです。

間違いないとされている概念もすべて誰かが作り上げた固定点でしかないからです。そして、ますます事実と乖離した不確性が増えてきた状況下の中でライフプラン上の決定事項を柔軟な態度で対応できるように、このオプショ ンというの考え方を自由に使いこなせるようにしておいてください。

行動ファイナンスについて

ファイナンス理論における意思決定は本来合理的であるべきですが、その心理状態によっては、人はしばしば合理的とはいえない意思決定をします。

これは投資領域のことだけではなく、貯蓄、消費、借り入れ、保険加入など生活のさまざまなシーンで起こり得ることです。

そして、ここには個人のバイアスが大きく関与しています。

バイアスとは類似性、つまり個人の体験や経験に基づいて形成された考え方の癖といったところでしょうか。

個人の意思決定におけるこうしたバイアスには一定のパターンがあると仮定して、分析し、それらのバイアスを回避することによって合理的な意思決定が行えるように導いていく1つの手段、それが行動ファイナンス理論というものです。

儲けるよりも損したくない

行動ファイナンス理論が指摘している代表的なバイアスに収益に比べて損失を過度に嫌う「損失回避性」があります。

参考▼

「人はそれぞれが持つ相対的な評価基準である参照点を基準として利得に対してよりも損失に対してより多く価値が減るという判断をする」とされるプロスペクト理論

このプロスペクト理論が行動ファイナンス理論の中核となっています。

現状維持を好む

環境が変化し、望ましくないアセットアロケーション(複数の異なった資産に配分して運用する)にもかかわらずそれを変更しようとしない。

また、身近に感じる日本株には多く投資するけど、新興国はじめ馴染みのない他国の株式や債券にはあまり投資しようとしない。そうしたカントリーバイアスなどを誘発する現状維持バイアスがあります。

総合的な未来の価値よりも目の前のことが大事

現在の小さな利益に目を奪われ、将来の中長期的な利益を逃してしまう。現在の低いコストに目を奪われ、将来の高いコストを見逃す双曲割引的な考え方をしてしまう。

すなわち、今は割引率が高いが将来に向け割引率が減少していきメリットが薄くなることがわかっているのに、思わず利用してしまう現状志向バイアスがあります。将来金利が高くなる段階型金利ローンなどが代表的なものです。

意味もなく中間的なものを選んでしまう

人は与えられたものの中で、さしたる理由もなく中間的なものを選んでしまう。これはある意味、極端性を回避する行動といえます。

例えばハイリスクなものとミドルリスク、ローリスクの金融商品が合った場合、思わずミドルリスクの商品を選択するという傾向があります。

この場合、本質的な違いを吟味して選択したわけではなく、あくまでこの三種類の金融商品を比較した中での相対的評価のみで下した結論でしかありません。

自分のリスク許容度や商品そのものの特性に基づくものではないので結果的に誤った選択を行ってしまう可能性 が強いです。

代表的なものに弱く、近道(ショートカット)が好き

人は何かを選択するときに十分な分析をせずに特定の特徴や記憶をよりどころにして簡単に判断してしまう傾向があります。

ものごとの一部分を見て全体を判断してしまう代表性バイアスがあります。

また特定の状況を判断するときに関連の記憶を元に判断してしまう近道選びという傾向もあいます。

根拠のないカテゴリーを作りたがる

家計の収支を食費、娯楽費といったように分類するように、お金に独自のカテゴリーを作って、その中で相対的に判断していこうとする傾向があります。

上手く活用できると合理的に作動するのですが、間違えると悲惨です。例えばギャン ブルなどで得たお金は、あぶく銭というカテゴリーに分類されると一気になくなる傾向があります。

ところがギャンブルを職業にしている人は、そうした行動はしません。実際わたしの知人にもそうした人がいます。

このような独自分類性をメンタル・アカウンティングという言い方をしたりします。

フレーミングしたがる傾向がある

また、特定のフレームを作ってそれで物事を判断していこうとする傾向もあります。

例えば消費者金融のCMで「10万円を1ヶ月借りて、利息はわずか500円玉三枚」というキャッチフレーズがあるとします。

一見すると、とても安い利息に感じてしまいます。あなたもそう感じてしまったら要注意です。

なぜなら10万円と1500円という現金の価値というフレームにとらわれてしまうからです。

ところがこれを鵜呑みにして借入を起こしてしまうと、「年利換算で18%」という極めて高い金利を支払う羽目になってしまうのです。

自覚のないまま、こうしたバイアスが常に働いていることを認識しておいてください。

次回はちょっとネガティブな話題かもしれませんが、「今やライフデザインの一部とも言える離婚をプランニングする」です。

ではまた。CFP® Masao Saiki

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