不動産に関する民法の規定と抵当権設定金銭消費貸借契約書の事例

民法の規定

不動産に関する規制は、実際には非常に広範な範囲にわたります。公法上の規制は、国や自治体が公共の利益を保護するために設けられています。一方、私法上の規定は、個人や企業間の取引を円滑に進め、争いを防ぐためのものです。以下、これらの規制を簡単に解説します。

  1. 公法上の規制:
    • 都市計画法: 都市の計画的な発展と管理を目的とし、建築物の高さや容積率、用途地域などを規定しています。
    • 建築基準法: 建物の構造や設備、安全基準などを定めています。
    • 農地法: 首都圏等での農地の転用を制限し、食料自給率の確保や農業の維持を図る目的で制定されました。
    • 土地利用法: 特定の地域での土地の利用を制限することで、環境の保護や景観の維持を目的としています。
  2. 私法上の規定:
    • 民法: 民法は、財産権の基本的な概念や、契約、物権、相続などの私的な関係を規定しています。不動産取引においては、土地の売買契約や賃貸契約、隣地の権利関係などが該当します。
    • 不動産登記法: 土地や建物の所有者、担保権、その他の権利関係を公示するための制度を定めています。登記を通じて、第三者に対して権利を確保することができます。
    • 宅地建物取引業法: 宅地建物取引の公正を確保し、消費者の利益を守るための規制や取引業者の資格に関する事項を規定しています。

まとめると、不動産に関する規制は、公共の利益と個人間の安全な取引の両方を保護する目的で設けられています。これらの規制は、不動産取引におけるトラブルを防ぐための重要な役割を果たしています。

不動産取引における民法の補充規定について

不動産取引において特に重要なのは補充規定です。

これは、当事者間で契約や取引の詳細について特段の約束をしていない場合に適用される規定です。

以下は、不動産取引に関連して日本の民法で特に重要な補充規定や関連する規定をいくつか挙げてみます:

  1. 物の売買に関する規定(民法第555条以降):
    • 購入者は、契約の履行を求めることができます。
    • 売買の対象となる物(不動産)は、契約時点での状態を保持している必要があります。
    • 売主は、物件の所有権を移転する義務があります。
  2. 欠陥担保責任(民法第562条以降):
    • 不動産に潜在的な欠陥があった場合、売主は購入者に対して責任を持つことが規定されています。
    • 売主が欠陥を知っていて教えなかった、または過失によって知らなかった場合、購入者は契約の解除や減額を求めることができます。
  3. 重要事項の告知義務:
    • 不動産取引において、売主や仲介業者は、物件に関する重要事項を購入希望者に告知する義務があります。これに違反した場合、購入者は契約の無効や損害賠償を求めることができます。
  4. 物権移転の登記:
    • 不動産の所有権の移転は、登記を行うことで第三者に対して効力を持ちます。登記をしない場合、第三者の権利を優越させる危険があります。
  5. 担保権(抵当権):
    • 不動産を担保として借金の返済を保証する場合、抵当権の設定が行われます。これに関する詳細も民法に規定されています。

これらの補充規定や関連する規定は、不動産取引におけるトラブルを防ぐためのものであり、取引の安全性と信頼性を保障するためのものです。不動産取引に関与する際は、これらの規定を十分に理解しておくことが重要です。

①法律行為などと法律効果

図表5-1

法律行為など 法律効果
契約

  • ア)売買契約
  • イ)贈与契約
  • ウ)抵当権設定契約
  • 工)賃貸借契約
 

  • 目的不動産の所有権の移転
  • 同上
  • 目的不動産に対する抵当権の設
  • 目的不動産に対する賃借権の設定
b)不法行為

  • ア)AがBの家を壊す
  • イ)AがBの土地に無断で掘立小屋を建てて不法占拠
 

  • BがAに対し損害賠償請求権(債権)を取得する(民法709条)
  • BはAに対し損害賠償(債権的請求権)および掘立小屋を取り除けと妨害排除(物権的請求権)を請求しうる(民法198条、709条)
c)時効取得

  • AがBの建物を自己の物と 誤解して20年間占有(注:善意で過失のない場合は10年間で時効取得する)
  • AがBの建物の所有権を取得する(民法162条)
d)財産分与

  • AがBに不動産を財産分与する
  • BがAの不動産の所有権を取得する(民法768条)
e)相続

  • AがBの不動産を相続する
  • AがBの不動産の所有権を取得する(民法896条)

②法律行為に間違い(瑕疵)があった場合

a)AのBに対する意思表示(例:売ります、あげます)に瑕疵が存した場合

  • ア)強迫によりなされた場合 → 取り消しうる(民法96条)
  • イ)詐欺によりなされた場合 → 取り消しうる(民法96条)
  • ウ)錯誤によりなされた場合 → 無効(民法95条)
  • 工)虚偽の表示によりなされた場合 → 無効(民法94条)ただし、以上のうち一定の場合に善意の第二者が保護される(民法96条3項、94条2項)。

b)AまたはBに本来備わるべき資格・能力が存しない場合

  • ア)未成年者(法定代理人の同意なし)→ 取り消しうる(民法5条)
  • イ)被補助人(補助人の同意なし)→ 取り消しうる(民法17条)
  • ウ)被保佐人注4(保佐人の同意なし)→ 取り消しうる(民法13条)
  • 工)成年被後見人注5 → 取り消しうる(民法9条)
  • オ)無権代理人(代理人と称するが代理人ではない)→ 本人に効力が及ばない(民法113条)
  • 力)他人(本人と称するが本人でない)一 本人に効力が及ばない

ただし、以上のうち一定の場合に善意の第二者が保護される(民法109条~112条)

保証:抵当権設定金銭消費貸借契約のケーススタディー

主たる債務者Aが、債権者Bへの債務の履行をしない場合に、債務者Aに代わりAの債務を履行をしなければならないこととなる保証人Cの義務を保証債務といいます。

また、保証関係のうち、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する形態を連帯保証といい、通常の保証よりも債権者に有利な点注6が多いため、通常の保証よりも実務では頻繁に用いられます。

参考事例▼

ケーススタディ

細川さんは、事業資金を調達するため、宇野さんから金銭を借り、その借入金の担保としてSW土地に抵当権を設定することにした。

連帯保証契約を中心に、本契約の法律関係を細かく見ていきたい。

抵当権設定金銭消費貸借契約書(抜粋)

甲:鈴木幸司

乙:吉田―郎

丙:楠田隆弘

丁:原田信二

以下のとおり、契約を締結した。

  • 第1条 甲は乙に対し、本日、金○万円を貸付け、乙はこれを受領した。
  • 第2条利息は元金に対し、年〇%の割合とする。
  • 第3条 乙は甲に対し、第1条の借入金○万円および前条の利息を平成〇年○月から平成〇年○月まで毎月末日限り、金○万円ずつ分割して返済する(元利均など分割返済)。
  • 第4条 丙は甲に対し、乙の債務を保証し、乙と連帯して支払いの責めを負う旨を約し、甲はこれを承諾した。
  • 第5条 第1条および第2条の金銭消費貸借契約に基づき、乙が甲に対して負担する債務を担保するため、乙および丁が所有するSW土地(所在地番など省略)の上に第1順位の抵当権を設定した。乙および丁は甲に対し、本契約締結後遅滞なく抵当権設定登記手続きを行うものとする。(その他の記載事項および条項は省略。なお、甲、乙、丙および丁は署名押印している)
[SW土地の概要]

現況:更地

所有者:吉田一郎(持分5分の3)

  • 注意4:精神上の障害により半」断能力が著しく不十分な者で、裁判所の保佐開始の審判を受けた者。
  • 注意5:精神上の障害により半1断能力を欠く常況にある者で、裁判所の後見開始の審判を受けた者。
  • 注6:通常の保証で保証人に認められている、催告の抗弁(民法452条)と検索の抗弁(民法453条)が連帯保証人には認められていない。

原田信二(持分5分の2)

[その他]
  • 設例の契約を以下「本契約」、設例の契約書を以下「本契約書」という。
  • 本契約については、本契約書以外に特約はないものとする。
  • SW土地は、細川さんと谷口さんが共同で購入したものである。

<本契約の吟味>

事業資金の必要から主たる債務者である乙(吉田さん)は、債権者である甲(鈴木さん)から金銭を借りた。

毎月○万円ずつ分割して返済することを約束したが、債権者である甲としては乙の返済が滞るのが心配である。

このため、甲は乙以外の丙(楠田さん)に保証人になってもらうことにした(保証契約の締結)。

保証人には「(通常の)保証人」と「連帯保証人」とがあるが、今回は「(通常の)保証人」よりも債権者にとって保全性が強い「連帯保証人」になってもらうことにした。

丙から「連帯保証人」になる約束を取り付けたものの、万全を期すため、第5条で、乙と丁(吉田さん)が共同で購入したSW土地に抵当権を設定した。

SW土地の共有者である丁としては、乙の借金のために自己の共有持分(5分の2)を担保に提供するのは喜ばしいことではないのだが、乙を信じる気持ちから了承したのであろう。

SW土地に抵当権を設定することで、乙の返済が万が一滞っても、甲はSW土地を競売に掛け、売却代金より残金と利息などの債権を優先的に受け取る権利を得たことになる。

<連帯保証契約の吟味>

乙の返済が帯った場合、債権者が債務の履行を求めてきても、「(通常の)保証人」は、まず主たる債務者への催告を請求する権利を有している。この権利を催告の抗弁権という。

催告の抗弁権により、主たる債務者への催告がないうちは、「(通常の)保証人」は保証債務の履行を拒むことができるのだが、「連帯保証人」にはこの催告の抗弁権自体が認められていない。

よって、乙への催促なしに丙への催促が行われたとしても、丙は拒むことができないのである。

また、「(通常の)保証人」には、主たる債務者の財産につき執行をなすまでは自己の保証債務の履行を拒む権利を有しており、この権利を検索の抗弁権という。

検索の抗弁権により、乙に資力がありその財産への執行が行われるまでは保証債務の履行を拒むことができるのであるが、「連帯保証人」にはこの検索の抗弁権自体も認められていない。

よって、乙に資力があるにも関わらず保証債務の履行が求められたならば、丙は拒むことができないのである。

ところで、SW土地には乙の主たる債務を担保する目的で抵当権が設定されている。

債権者の甲は、SW土地の競売と「連帯保証人」である丙への請求との両方が実行可能な状態にある。

ただ、競売の手続きには多くの費用と時間が掛かり、さらに回収できる金額が債務を下回る場合さえある。

このため、「連帯保証人」への請求の方が有利な場合が多く、「連帯保証人」は請求を拒むことができないのである。

次回は、「資産流動化法の概要などを知って、不動産の投資分析に役立てる」です。

ではまた。

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