ベータ計算

お金を増やす方法とファイナンシャルプランニング、№7

前回の投稿「慎重に投資銘柄を選んで分散投資しても避けられないリスクがある」では、分散投資によって消去できるリスクと分散投資によっても消去できないリスクについて、また、市場リターンの分散1単位との証券と市場リターンの共分散の比であるβの考え方などについて解説しました。

今回は、実際の月間リターンデータを用いて実証分析を行った結果の解説からスタートします。

ベーダ(β)の推定に関する事例研究

リターン

図表2-19は、2009 (平成21)年1月から2011 (平成23)年12月までの3年間の月次リターンデータを横軸に市場リターン、縱軸に旭硝子のリターンをとり、その関係をプロットしたものです。

これらの月次リターンデータを用いて最小2乗法による回帰分析を行い、理論的な資産価格の重要な決定要素の1つとしてこの章で中心的に議論してきた、市場リターンに対する証券のリターンの感応度を示す尺度であるベーダを推定します。

分析には、多くのファイナンシャル・プランナーが精通していると思われる表計算ソフトであるマイクロソフト社のExcelを用いることとします。

ソフトのバージョンによっても異なるかもしれませんが、簡単な手順についても説明を加えたので、以下を参照して実際に計算をするとより理解が深まります。

図表2-19を観察すると、プロットされた36個の点にはある傾向が見られます。

多くの点が市場リターンも旭硝子のリターンもともに正、もしくはともに負である場所に分布しています。

このことは、その因果関係は別問題として、市場リターンが正であるとき、旭硝子のリターンも正の値をとり、逆に市場リターンが負であったとき、旭硝子も負の値をとるという傾向があったことを示しています。

ここで、前回の投稿「慎重に投資銘柄を選んで分散投資しても避けられないリスクがある」の文中で紹介したシングルファクターモデルが成り立つと仮定します。

※ri,t=βirM,t+[αi+(誤差i,t)]

この数式の意味について、rはリターン、iは旭硝子、Mは市場を指し、tは月番号を表します。

αとβはこれから求める直線の切片と傾きを示す値であり、&、1は旭硝子の毎月のリターンがaとβ、そして市場リターンでは説明しきれない誤差を説明する項です。

つまり、表計算ソフトを用いて回帰分析を行い、αとβの値の推定を試みます。

まず、表計算ソフトを起動して、図表2-19で示した36個のデータを、図表2-20のように、縦に旭硝子のリターンと市場リターンを2列で時系列に入力。

もしくは、横に2行に入力する。

図表2-20ではデータの該当年月を入力したが、データ分析上、必要ではありません。

また、データラベルはグラフを見やすくするために入力しておくといいでしょう。

図表2-20 リターンデータの入力

旭硝子のリターン 市場リターン
2009 -0.5 -7.5
-10.4 -4.3
21.0 3.0
12.9 8.0
19.1 7.1

表計算ソフトで出力される回帰分析結果は図表2-21(一部修正)のようになります。

回帰分析結果
図表2-21

出力されたワークシートから、仮定した単一ファクターモデルの※ri,t=βirM,t+[αi+(誤差i,t)]式のαとβの推定結果が得られます。

①によって示された表に、「切片」の係数が1.5957、「市場リターン」の係数が1.8019という値が示されているが、これらの値がそれぞれ、αとβの推定値です。

つまり、※ri,t=βirM,t+[αi+(誤差i,t)]式はi=1として次のように推定されたことを意味しています。

推定された^ri,t=1.5957+1.8019rM,t式が、図表2-21に示されるグラフ上の直線で、この回帰直線の切片が1.5957、傾き(市場リターン)が1.8019です。

ここで、特にベーダの値が正の値を示していることの意味は、旭硝子の月次リターンの変動が月次市場リターンの変動の方向(平均値からの上下)と同じ変動の方向を持つ傾向があるといえます。

さらに、1.8019という値の意味は、ベーダが1以上であることから、市場リターンが1%変動したとき、旭硝子の月次リターンは平均的には1.8019%変動することを意味しています。

つまり、旭硝子の変動は市場リターンの変動と同じ方向に、しかも1.8019倍の変動幅で変動する傾向があるということを示す結果です。

図表2-21の②によって示される[t値]及び「P値」は、①で得たa = 1.5957、β= 1.8019という値がどの程度信頼性のある推定結果であるかを示したものです。

もし、「P値」が0.05を超えていれば、係数として得られた値の信頼性があまり高くなく、係数はゼロと見なすべきであり、0.05以下であれば、推定された係数が高い確率で信頼できるものである、という一般的に使用される判断基準を利用すると、この場合、βについての「P値」は0.00であり、十分に小さいため、信頼性の高い推定結果であるといえます。

逆に衣こついては、0.0786という値となっており、0.05よりも大きく、あまり信鮒哇の高い推定結果であるとはいえない、つまりa=Oと見なすべきという判断ができる(詳細については、統計学のテキスト等を参照)。

また、図表2-21のグラフを見てわかるとおり、この回帰直線とプロットされたリターンとの間には乖離があります。

このことは、推定された回帰直線が旭硝子のリターンと市場リターンの関係を完全には説明できていないことを示しています。

ここで、前回の投稿で証券iのリターンのリスクを定義した「※1証券iのリスク=システマティック・リスク+非システマティック・リスク」という式から、旭硝子のリスクは、市場の変動によって説明できるシステマティック・リスクと、旭硝子固有の問題である非システマティック・リスクとに分けられることを思い出しましょう。

図表2-21の③によって示された「決定係数R2」という統計量は、旭硝子のリターンの変動のうち市場リターンの変動で説明できる割合(右辺第1項)を示しています。

つまり、この場合、旭硝子の変動の74.8 %は全体に占める「システマティック・リスク」の割合を示すものであり、残り25.2%は旭硝子固有のなんらかの事情による変動であり、全体に占める「非システマティック・リ-7`夕Jの割合を示すものであると解釈できます。

もし、同様の手順でポートフォリオのリターンと市場リターンの回帰分析を行えば、決定係数はポートフォリオの分散投資の程度を示すものとなります。

このことは、前回の投稿で解説した「※2ポートフォリオの総リスク=ポートフォリオのシステマティック・リスク+(1/k)各銘柄の非システマティック・リスクの平均」という式から、ポートフォリオを構成する証券数が増加すると、非システマティック・リスクは減少し、ポートフォリオの合計リスクがポートフォリオのシステマティック・リスクに近くなる、つまり決定係数は1に近づくという関係から理解することができます。

さいごに

このように、多くのファイナンシャル・プランナーが日常的に使用する表計算ソフトを使用すれば、この章で議論してきた市場感応度としてのリスク尺度であるベーダ(β)を簡単に推定することができます。

1つの推定結果の絶対的な値から評価を行うことは難しいですが、いくつかの個別証券、ポートフォリオについて推定を行い、比較すれば、個別証券やポートフォリオの特性をより理解することが可能になります。

なお、以上の分析には、日本証券経済研究所のデータを用いましたが、このリターンデータは配当が含まれたトータルリターンであり、分析に適しています。

また、Yahoo ! ファイナンスの時系列データによっても同様の分析が可能ですが、「調整後終値」には配当が含まれていない点に注意する必要があります。

ではまた。

 

日本FP協会 CFP教育カリキュラムに基づき作成しています。

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