知能と反応時間のダイナミクス:情報処理論の視点

知能と反応時間の関係を認知心理学的あるいは情報処理論的視点からみるとまったく違ったものとなる。

認知心理学では、課題を解くまでの時間が非常に重要な情報となる。

なぜなら、知能を認知的な課題のパフォーマンスに含まれる知的過程で理解しようとするからだ。

パフォーマンスの時間によって、高など精神過程を研究し測定しようとした試みは、すでに19世紀の終り頃からあった。

例えば、ゴールトン(Galton,1879)が連想の反応時間を測定した。

参考▼

キャッテル(cattell,1890)もビネー(Binet,J)の知能検査以前にメンタル・テストと名付けた検査を作ったが、その下位検査の中には音に対する反応時間や色の名前を10個言うのに要する時間などが含まれている。しかし、このメンタル・テストは何を測定しているのかが明確でなく, とても知能の指標であるなどとはいえなかった。

では単純な反応時間ではなく、選択判断を含むような反応時間と知能との関係はどうだろう。

一般に知能と選択反応時間の相関係数は、課題に含まれる選択判断の数が増加するほど高くなる傾向がみられる。

また語彙判断の反応時間も知能とかなり高い相関を示している。

思考プロセス

しかし、知能の中心的特性を表すものは、推理や帰納や類推などを含む思考プロセスだろう。

このような思考過程の中に、知能の機能をみいだそうとしたのが、情報処理的な知能観に立つスターンバーグ(sternberg,1977)だ。

例えば、彼はアナロジー(A:B=C:?)の課題を解く思考のパフォーマンスを、推論、写像、適用などのコンポーネント(構成要素)に分解した。

  • 推論とはA:Bから関係を引き出すこと。
  • 写像とはAをCに写し込むための高次の関係をみつけること。
  • 適用とはA:Bの関係をC:?のところへAとCの関係に即して持ち込むこと。

コンポーネントとは、分析の基本単位のことで、物体あるいはシンボルの内的表象に作用する基本的情報過程で、その遂行がリアルタイムでみられるものだ。

スターンバーグは、こうした課題をいろいろ変化させた。

コンポーネントのそれぞれが主な変数となるような形にして、問題を見てから解答を出すまでの時間を分析し、各コンポーネントに要する時間を査定した。

[夏]対[冬]=[春]対[?]

例えば、[夏]対[冬]=[春]対[?]という問題について・・・

  1. あらかじめ左辺の[夏]対[冬]を呈示して被験者に十分にそれを見せて、被験者が次の段階へ進んでもよいと合図をした後に右辺の[春]を呈示して反応時間をとった場合。
  2. [夏]対[冬]=[春]の3項目とも呈示しておいて、次の段階で[秋]という項目を呈示して真偽判断をさせた場合。

上記のようにアナロジーの各コンポーネントを分解し、それぞれのコンポーネント以外の項目の予備を呈示する方法によって、当該コンポーネント単独の反応時間がみられるようにした。

仮 説

その仮説は・・・

  • 予備呈示されていた項目の処理で使用されたコンポーネントは、すでにその時点で考えるために使用されている。
  • 次に新しい刺激項目を呈示されたときは、前に使用した以外のコンポーネントのみを使用した結果が反応時間となってあらわれるだろう。

ということだ。

このように処理の各段階を細かくわけて、それぞれの段階のコンポーネントを順次除去することによって各コンポーネントの時間と困難度を分離した。

この方法は、19世紀のドンデルスによってはじめられた、反応時間の減算法にほかならない。

スターンバーグ(Sternberg,1977)は、アナロジーに含まれるコンポーネントとして、上記にプラスした符号化、準備、反応の5コンポーネントを定義した。

また、正当化または是認というオプションのコンポーネントもみいだした。

このようなコンポーネントは、単にアナロジーに含まれるだけではなく、帰納的な推理を用いるさまざまな課題にも含まれている。

また、幾何図形や言語などの材料を用いた課題に普遍的に含まれるもので、特定の課題だけのものでないこともわかった。

速度で知能を測定している

しかし、このアプローチは、問題解決の速度で知能を測定していることには変りはない。

ここで問題になってくるのは、

  1. これまでの知能検査で測定された知能と、どの程度同じものを測定しているのか。
  2. どの側面で違っているのか。
  3. 知能としてはどちらが妥当な指標か。

ということだ。

スターンバーグら(Sternberg&Gard‐ner,1983)は、広範囲な知能課題を用いて、このようなコンポーネント指標が従来の精神測定的な指標ときわめて高い相関をもっていることを示した。

参考▼

スターンバーグたちの研究:言語・幾何図形・図式画・形式としては、アナロジー・系列完成・分類を用い。コンポーネントとしては、推論・写像・適用の3項目の合成したものをとると、相関係数はアナロジー・系列完成・分類と高かった。

しかし、その後の研究では、各コンポーネント別にみると、だいたい知能と相関はあるものの符号化は、時として逆に時間の長いほうが推理能力は高いという結果が出た。

また、準備一反応というコンポーネントが、推理能力と高い相関をみせたりと、必ずしも一義的にいかないことを示した。

もちろん、彼らはその過程が知能のパフォーマンスとしての過程であって、それ以外に決定の過程があると考えている。

決定の過程

その決定過程とは、

  1. いろいろな問題を解くのにどのパフォーマンス・コンポーネントを使うか。
  2. パフォ‐マンス・コンポーネントをどのように組み合わせて一つの方略とするか。
  3. 情報をどのように表現するか。
  4. 正確さと速度とのバランスをどのように保つか。

などだ。

メタコンポーネント

これらの過程は、ほとんどの知能関係の課題の遂行に含まれるものなので、これをメタコンポーネントと呼んでいる。

だから、いわゆる知能の一般因子gとは、このコンポーネントに関係するものだとした。

しかし、実際問題として,メタコンポーネントを課題のパフォーマンスから分離することは困難だ。

だが、スターンバーグ(Sternberg,1981)は、被験者がそれまで全然経験したことのないような課題を用いてそれを分離しようとした。

そのような課題では、習熟している概念や方略とは異なる新しい概念を使用し、方略を形成しなければならない。

例えば、課題の一つに現在の色と、紀元2000年の色の架空の関係を設定して、ストループ的な刺激から正答の選択肢を選択させる問題がある。

参考▼

ストループ(1935年):それぞれ意味の異なる刺激が同時に呈示されると、刺激に反応するまでに時間が多くかかる。

これは、パフォーマンスのコンポーネントとの関係をみるための実験だ。

  1. 解答の反応時間にもとづいて仮定されたコンポーネントから合成した反応時間推理。
  2. 能カテスト得点。

上記1と2の相関は高かった。

人間:皮膚=[犬、木]:[bark、猫]

また、メタコンポーネントをみるために、人間:皮膚=[犬、木]:[bark、猫]というような新しい型の問題も考案した。

barkには「樹皮」という意味と「吠える」という二重の意味があるが、正答は[木]:[bark]だ。

2つの単語を入れて関係を曖昧にした項目をつくると,、 [A2:B=C:D、A:B2=C:D2,、A:B2=
C2:D2、・・・]のようにアナロジーの形式としては10の可能性がある。

  1. 同じ形式の問題を10題させた場合
  2. すべての10形式を混合していろいろやらせた場合

スターンバーグは、前者のように同じ形式の問題をまとめてやらせた場合はローカルなプランニングの形成がみられ、後者の場合はグローバルなプランニングの形成がみられると考えた。

20種類のアナロジー問題について、20人の被験者の平均解答反応時間は9.00秒であり、誤答率は14%だった。

グローバルなプランニング、ローカルなプランニング、パフォーマンス・コンポーネントの実行、反応などを表す回帰係数などの4パラメータの単純和のモデルによって、解答反応時間の変動の97%までを解釈できた。

知能水準の高低

これらの指標から、知能の高い個人は、他の人よりもグローバルなプランニングにより多くの時間を費やすが、ローカルなプランニングにはあまり時間を費やさないと解釈された。

これが、どういうことを意味しているかと言うと・・・

いわゆる熟慮型と衝動型の違いが、そのまま知能水準の高低とは結びつくものではない。

課題の特質に応じて選択的に長い時間をかけて熟慮することこそ知能的な行動だということだ。

スターンバーグは、このような知能をコンポーネント的知能と呼んだ。

この他、かけ離れた経験を独創的に結合して創造性や洞察を発揮する経験的(experiential)知能。

環境の扱いかたに長じ、社会への対応の巧みな文脈的(contextu」)知能。

この3側面によって知能の全体像をとらえ、また、個人差も理解できることも強調している。

参考▼

情報処理理論の視点から知能の個人差を解明するのに,スターンバーグのように因子得点によらないで,個人内の差異についてクラスター分析によるプロフイールを用いる方法の有効なことが佐野(1985)によって示されている。

このように反応時間を徹底的に追究して分析した結果、知能に含まれる情報処理の過程の要素が同定された。

また、速いほうが知能が高いという単純な考え方が否定され、 どのような場合に時間を費やすべきかを知ることこそ、知能の要素として重要であることが明らかにされた。

これらのことは、分析の方法と刺激の構成いかんで、パフォーマンスによって内的な過程を同定することがまだまだ可能であることを示唆している。

ではまた。

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