リスクを制御する投資戦略:ポートフォリオ理論の活用

分散投資とリスク:理論と現実のギャップ

多くの人が「多くの卵を1つの籠に入れるな」という格言に従い、資産を分散して投資することでリスクを軽減しようと考えます。しかし、分散投資がリスクを本当に軽減できるのか、その条件とは何なのか、確率論と統計学の観点から考察します。

  1. なぜ分散するとリスクが小さくなるのか?
  2. 組み合わせによってリスクをゼロにすることが可能なのか?

これらが今回の主なポイントです。

リスクがゼロになる場合?

仮に、株式Aと株式Bが全く逆方向に動き、その変動幅(ボラティリティ)がまったく同じであれば、これらの株式に等しい金額を投資することで、理論上はポートフォリオのリスクをゼロにできます。このような株式の組み合わせは極端な例ですが、相関関係を理解してうまく組み合わせれば、確かにリスクを軽減することが可能です。

リスクが変わらない場合?

一方で、株式Aと株式Bのように、同じ方向に動く資産に投資した場合、分散投資によるリスク軽減効果は限定的です。事実、株式市場には多くのプラス相関(同じ方向に動く)を持つ銘柄がありますが、完全な逆相関(反対方向に動く)を持つものは非常に少ないです。

これは、株式だけでポートフォリオを組む限り、リスクを完全にゼロにすることは非常に難しいという事実を示しています。

分散投資はリスク軽減の一つの手段であり、特に資産クラスをまたいだ分散投資(例:株式、債券、不動産など)はその効果を高める可能性があります。しかし、絶対的な安全を保証するものではありません。リスクとリターンは投資の両面をなす要素であり、賢い投資家はそのバランスを理解し、戦略を練る必要があります。

リスクのダイナミクスを理解する:ポートフォリオ管理における共分散と相関の役割

金融ポートフォリオや任意の2変数の関係を正確に示すためには、各資産のリスクだけを考えていても足りません。その資産間の相関関係を理解する必要があります。金融投資以外の分野でも同じことが言えます。例えば、以前にも登場した偏差値がその一例です。

2科目の試験における個人ごとの標準偏差を求めると、それは単純に標準偏差の和とはならず、大きくなることも小さくなることもあります。この現象は、共分散という尺度を用いて表現されます。

仮定したデータセットには2つの変数AとBがあり、それぞれ100のデータポイントがあります。このデータから得られた要約は以下の通りです:

  • 変数Aの平均値は約499.90、Bの平均値は約307.14です。
  • AとBの間の共分散は-125.86です。共分散は2変数間の方向性を測定します。負の共分散は、一方の変数が増加するとき、もう一方が減少する傾向があることを示しています。
  • 標準偏差(平均からの分散を測定する)は、Aについては約102.71、Bについては約51.05です。
  • AとBの間の相関係数は約-0.024です。相関係数は-1から1の範囲で、-1は完全な負の相関を、0は相関がないことを、1は完全な正の相関を示します。相関係数-0.024は、AとBの間に非常に弱い負の相関があることを示しています。

この例は、2変数間の関係を分析する際に、共分散と相関係数の両方を理解することの重要性を強調しています。

共分散は関係の方向性についての初期の洞察を提供し、相関係数はこの関係の強さと方向を定量化します。

ポートフォリオ管理の文脈では、このような関係を分析することで、リスクをより効果的に多様化し、管理するのに役立ちます。

参考事例▼

例えば、株式Aと株式Bがあり、月次のリターンのデータが下記のとおりだとする。

1月2月3月
Aのリターン1%7%10%
Bのリターン1%2%6%

株式Aと株式Bのリターンは次のように算出される。

AとBの共分散=1/3{(1-6)(1-3)+(7-6)(2-3)+(10-6)(6-3)}=1/3{(-5)(-2)+{1}{-1)+(4)(3)}=1/3{10-1+12}=21/3=7

両株のリターンが同じ方向に動く場合、ポートフォリオのリスクが大きくなり、逆方向に働く場合は小さくなる、という効果が確認できる。

参考▼

相関係数が正の時、2つの変数には正の相関があるといい、特に相関係数=1のとき、正の完全相関という。

また、相関係数が負の時、負の相関があるといい、特に相関係数=-1のときは、負の完全相関とう。

※相関係数=0は無相関

ポートフォリオリスクの低減: 相関性を活用する投資戦略

投資において、リスクの管理は成功への鍵です。多くの投資家が直面する課題は、リスクを最小限に抑えつつ、期待リターンを最大化することにあります。この目的を達成する一つの方法は、互いに完全に同じ方向に動かない異なる資産への投資、つまりポートフォリオの多様化です。

ポートフォリオリスクとは、投資した資産全体のリスクのことを指します。このリスクは、各資産のリスクだけでなく、資産間の相関関係によっても影響を受けます。完全に相関していない(相関係数が+1または-1ではない)資産に投資した場合、ポートフォリオ全体のリスクは減少することがあります。

ポートフォリオリスクの計算式

ポートフォリオリスクの計算には、以下の式を用います:

ポートフォリオリスク=(株式Aの投資比率)×株式Aのリスク+(株式Bの投資比率)×株式Bのリスク+(2×株式Aの投資比率×株式Bの投資比率×株式Aのリスク×株式Bのリスク×株式Aと株式Bの間の相関係数

参考事例

以下の例では、2つの株式AとBに投資するケースを考えます。株式AとBの期待リターン、リスク(標準偏差)、相関係数は次の通りです:

  • 期待リターン: 株式Aは4%、株式Bは10%
  • リスク(標準偏差): 株式Aは10%、株式Bは15%
  • 相関係数: 株式AとBの間は-0.6
  • 投資比率: 株式Aに40%、株式Bに60%

この条件下で、ポートフォリオの期待リターンは、2つの株式の期待リターンをそれぞれの投資比率で加重平均した7.6%になります。同様に、上記の計算式に基づいてポートフォリオのリスクを計算すると、7.3%となります。

ポートフォリオリスクの低減効果

この例から分かるように、2つの株式が完全に相関していない場合、ポートフォリオ全体のリスクは、単独で投資するよりも低減されます。

これは、相関性を利用した多様化戦略が、リスク管理において有効であることを示しています。

投資比率を適切に調整することで、リスクをさらに最適化することが可能です。

投資戦略において、ポートフォリオの多様化は、リスクを分散し、期待リターンを維持するための重要な手段です。

株式間の相関性を考慮することで、よりリスクを抑えた投資ポートフォリオを構築することができます。

上記の数値列は投資金額が、それぞれ4割と6割だがポートフォリオのリスクはこの投資比率によって変わります。

株式Bへの投資比率を0%から100%まで10%刻みで増やし、同時に株式Aの投資比率を100%から0%まで10%刻みで減らす場合どうなるでしょうか?

株式Bへの投資比率が増加するにつれて、全体的なポートフォリオリスクは当初減少します。

これは分散投資の利点を示しています。

リスクとリターンのトレードオフ:複数銘柄ポートフォリオの戦略

3銘柄以上を含むポートフォリオのリスクと期待リターンに関する考察は、投資戦略に新たな次元を加えます。

ここで、各銘柄の期待リターンをその投資比率で加重平均することでポートフォリオの期待リターンを計算します。

仮に、銘柄Cの期待リターンが1%、そのリスク(標準偏差)が5%、そして銘柄AおよびC、BおよびC間の相関係数がそれぞれ0.3%、0.1%だとします。

この場合、2銘柄のポートフォリオと比較して最大の違いは、投資の選択肢が曲線ではなく平面上に展開されることです。

この平面を投資可能領域、合成可能領域、または投資機会集合と呼びます。

この領域内の任意の点への投資は可能ですが、最適な投資先をどう選択すれば良いのでしょうか?

例えば、パフォーマンスの悪いポートフォリオを選択する投資家はいるでしょうか?

明らかに、高い期待リターンを提供するポートフォリオや、より低いリスクを提供するポートフォリオを選択します。

合理的な投資家は、リスクとリターンのバランスを鑑みて最適解に位置する選択肢を好むでしょう。

効率的フロンティアは右上がりの曲線を形成し、期待リターンを増やすためにはより多くのリスクを受け入れる必要があります。

このリスクとリターンの関係をトレードオフと呼びます。

すなわち、効率的フロンティア上では、リスクとリターンを同時に望ましい方向に変化させることは不可能です。

これが、3銘柄以上を含むポートフォリオを検討する際の重要な結論となります。

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