MBC(メタ認知・ベースド・コンパッション)実装ガイド

MBCは、マインドフルネス(気づき)×メタ認知(ひとつ上の視点)×コンパッション(やさしい関わり)で、自己批判や感情の暴走をやわらげ、自己受容と行動の自由度を育てるアプローチです。臨床からセルフヘルプまで使える“実装の道具箱”として解説します。

1. MBCとは(定義・目的・位置づけ)

1-1. 定義

浮かぶ思考や感情をそのまま観察し(マインドフルネス)、それらを“対象”として捉える視点を確保(メタ認知)し、やさしい態度で関わり直す(コンパッション)心理的トレーニングです。

1-2. 目的

  • 過度の自己批判・恥・不安のループを緩める
  • 価値観に沿った選択と行動へ“反応の一拍”をつくる
  • 長期的には自己像の更新(自己受容・自己効力感)

1-3. 適用の射程

慢性うつ・不安・ストレス関連・関係性の摩耗・アイデンティティ課題など。セルフヘルプにも展開可能(重症の場合は専門家と併走)。

2. 理論背景(3システム×メタ認知)

2-1. 3つの感情システム

  • 脅威(Threat):危険検知・自己防衛(不安/怒り/恥)
  • 駆動(Drive):達成・獲得・競争(高揚/焦燥)
  • 安寧(Soothing):安心/つながり/満ち足り(落ち着き)

MBCは、メタ認知で現在どのシステムが優勢かを識別し、コンパッションで安寧系を意図的に活性化します。

2-2. メタ認知の機能

  • 「私はダメだ」→「“ダメだ”という思考が生じている」への視点移動
  • 感情・身体感覚・思考の分離と再連結(反応の設計)

3. CBT/MBCT/CFTとの違い(ざっくり比較)

枠組み主眼MBC視点の活かし方
CBT自動思考の検討と行動実験検討の前にメタ認知で距離を置き、やさしさで自己批判を緩衝
MBCT再発予防のための気づき習慣慈悲の言語化を明示し、否定的気分へのケアを強化
CFT羞恥/自己批判に対するコンパッション訓練MBCはメタ認知手順をより体系的に併用

4. 8〜12週プロトコル(ロードマップ)

前半(1〜4週)

  • 姿勢・呼吸・注意の基礎(短時間×高頻度)
  • メタ認知の言語化:「〜という思考/感情が“いま”生じている」
  • 自己へのやさしいセルフトーク導入

中盤(5〜8週)

  • RAIN(Recognize/Allow/Investigate/Nurture)
  • 自己批判の書き換え(コンパッション・レター)
  • 価値に沿う小さな行動実験(5分)

必要に応じて(9〜12週)

  • 関係場面のロールプレイ(依頼・境界の表現)
  • リラキシング・リズム呼吸、自律神経ケアの併用
  • 再燃予防プラン(トリガー地図・支援導線)

5. 代表的技法とテンプレ

5-1. 3分メタ認知スキャン

狙い

自動反応の前に“気づく余白”をつくる。

テンプレ
姿勢:背中をやさしく伸ばす/呼吸:自然
1. 体:圧・温度・動きは?
2. 感情:いま何色?強度0-10
3. 思考:「〜すべき」「〜だからダメだ」など言葉は?
4. ひと言で命名→「戻る先」を呼吸に置く

5-2. コンパッション・レター(自己宛)

狙い

自己批判の口調を“支える言葉”へ更新。

書き出し雛形
親愛なる私へ。
(事実)__でつらかったね。
(共通の人間性)誰にでも起こりうるよね。
(願い)私は自分を守り、助けたい。
(最小の手当て)いまは__をする。次の一手は__。

5-3. RAIN+価値行動

狙い

感情に押し流されず、価値に沿う最小行動へ。

プロンプト
R:これは__という感情
A:居させてOK
I:からだのどこ?何を伝えたい?
N:やさしい一言をかける → 価値に沿う5分行動:__

6. セルフヘルプ運用(1日の流れ)

6-1. 朝(3分)

呼吸1分→今日の価値語を一語(例:誠実/学び)→最小行動を1つ。

6-2. 昼(都度)

STOP(止まる/一呼吸/観る/再開)をメール前・会議前に。

6-3. 夜(5分)

今日のトリガー:__/反応:__
気づいて戻れた?:はい・いいえ
やさしい一言:__
明日の5分行動:__

7. 適応と注意

7-1. 適応の目安

  • 自己批判や恥が強く、行動が硬直しがち
  • 感情に押されやすく、選択前の“間”が欲しい
  • 価値はあるが、日常行動へ落とし込めない

7-2. 注意事項

重度の抑うつやトラウマ反応が前景にある場合は、単独自己実践に固執せず専門家と併走。薬物療法・安全計画と統合を。

8. 記録とKPI(やさしく測る)

8-1. 週次ダッシュボード

実施日数:__日/7
合計分数:__分
「気づいて戻れた」回数:__回
自己批判→やさしい言い換え成功:__回
主観ストレス:今週最大__/10 → 週末__/10

8-2. 月次レビュー

KEEP(続ける)__/STOP(やめる)__
学び__/次の一手(5分)__/期日__

9. よくある誤作動と修正

9-1. 「無になる」前提で挫折

成功は“無”ではなく、気づいて戻る反復。

9-2. 自己犠牲化

コンパッションは自己と他者の両輪。睡眠/食事/休憩を先に予定化。

9-3. 記録がプレッシャー化

空欄OK。最小単位(2分)で継続を優先。

次の一歩(伴走サポート)

MBCをあなたの文脈へ設計します。最小の一手からご相談ください。

まとめ

MBCは、気づく→距離を取る→やさしく関わる→価値行動を小さく回すための設計です。8〜12週の基礎を土台に、日常の5分実験で自分らしい運用へカスタムしていきましょう。

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