
子どもの「教育準備」を、お金と成長の両方から設計し直す
「子どもの教育のために何を準備しておけばいいのか」。ライフプラン相談の現場では、最もよく受けるテーマのひとつです。進学・塾・習い事・留学…と選択肢が増えた一方で、教育費そのものも決して小さくありません。
一方で、教育は単なる「お金のかかるプロジェクト」ではなく、子どもの生き方・価値観・人間性を育てていく長いプロセスでもあります。数字だけを見ても不安になり、理想だけを語っても具体策が見えない——その両方のズレを少しずつ埋めていく視点が必要です。
ここでは、一般的な物語をライフプラン再構築の文脈から整理し直し、「何から考えればよいか」「どこに注意すべきか」を体系的にまとめてみます。
1.まずは「教育目標」をお金抜きで言葉にしてみる
教育費の話になると、どうしても「いくら必要か」「どこまで出せるか」といった数字から入ってしまいがちです。ただ、本来のスタート地点はそこではありません。
最初に立ち止まりたいのは、次のような問いです。
- 子どもにどんな大人になってほしいのか(人間性・価値観・生き方)
- どのような環境で、どのような経験を積ませたいのか(学校以外も含めて)
- 学歴や資格よりも大切にしたいものは何か(健康、友人関係、好奇心など)
この「教育目標」は、大学名や偏差値ではなく、生き方の方針に近いものです。たとえば、
- 「自分で考え、決めて、動ける力を育てたい」
- 「好きなことを深く掘り下げる経験をさせたい」
- 「世界の広さを身体感覚で知ってほしい」
といったレベルの方向性です。この軸がはっきりしているほど、後から出てくる「学校選び」「習い事」「留学」などの選択肢を、ブレずに取捨選択しやすくなります。
数字の裏側(リスク・感度・逆算)まで1画面で可視化。
未来の選択を「意味」から設計します。
- モンテカルロで枯渇確率と分位を把握
- 目標からの逆算(必要積立・許容支出)
- 自動所見で次の一手を提案
2.数字の目安を知り、「わが家の教育方針」に引き直す
次に、教育費のおおよその目安を知っておくことは、ライフプラン全体を組み立てるうえで欠かせません。代表的なデータを、ライフプランの視点から整理し直してみます。
幼稚園〜高校まで:公立か私立かで大きく変わる
文部科学省「子供の学習費調査」などをベースに整理すると、幼稚園から高校までにかかる学習費総額(学校教育費+学校給食費+学校外活動費)は、おおよそ次のようなイメージになります。
- 幼稚園〜高校まですべて公立:合計で約250〜300万円(塾・習い事は別)
- 幼稚園〜高校まですべて私立:合計で約1,200万円前後(塾・習い事は別)
同じ「教育費」といっても、公立・私立の組み合わせや、塾・習い事のボリュームによって大きく変わることがわかります。ここで大切なのは、平均値そのものではなく、
- わが家は「公立ベース+ポイントで私立」なのか
- 中学からは私立を前提に考えるのか
- 習い事・塾にどこまで比重を置くのか
といった自分たちの教育方針との組み合わせです。
大学進学費用:学費だけでなく「生活費」とセットで考える
大学は、進学形態によって負担が大きく変わります。
- 国公立大学(自宅通学)… 学費は年間50万円台が目安
- 私立文系(自宅通学)… 学費は年間80〜100万円前後
- 私立理系(自宅通学)… 学費は年間120万円以上になるケースも
- 自宅外通学… 学費に加え、家賃・生活費で年間100万円以上上乗せされることも
「どのレベルの大学に行かせるか」よりも先に、自宅通学を前提とするのか、自宅外も視野に入れるのかを話し合っておくことで、必要な準備額のイメージが大きく変わります。
ここで、冒頭で決めた「教育目標」に立ち返り、
- 学費にどこまでリソースを割きたいのか
- その分、留学やインターンなど他の経験に回したいのか
といった優先順位を、家計と照らし合わせて整理していきます。
3.教育資金の準備:貯蓄・保険・投資をどう組み合わせるか
教育費の準備方法として代表的なのは、
- 銀行預金・定期預金
- 学資保険
- つみたて投資(つみたてNISA 等)
などです。各種調査によると、大学資金の準備方法としては、銀行預金が約半数、学資保険が4割前後という結果も出ており、多くの家庭が「預金+何か」を組み合わせて準備していることがわかります。
預金:安全性は高いが増えにくい
預金は元本割れの心配がなく、いつでも引き出せる安心感があります。ただし、金利が低い環境では、インフレに負けて実質的な価値が目減りするリスクがあります。「安全に貯める」役割として基礎部分を担いつつ、全体を預金だけに頼らない設計がポイントです。
学資保険:強制力と保障、ただし柔軟性は低め
毎月決まった保険料を払い込み、大学入学などのタイミングでまとまった給付金を受け取るのが学資保険です。解約しづらい分、「強制的な積立」として機能しやすく、親にとって心理的なメリットがあります。
一方で、途中解約すると元本割れリスクが高い商品も多く、最近では加入率が減少傾向にあることも指摘されています。
つみたて投資:時間を味方につけられるが、ブレもある
教育資金までの期間が10年以上ある場合には、つみたて投資を組み合わせる選択肢も現実的です。短期的には上下を繰り返しますが、長期でみればインフレを上回るリターンを期待しやすい資産もあります。
大切なのは、「どこまで値動きを許容できるか」「いつまでにいくら必要か」を踏まえて、預金・保険・投資のバランスを考えることです。どれかひとつが正解なのではなく、家庭ごとの価値観や収入の安定度によって、最適な組み合わせは変わります。
4.奨学金・公的支援を「最後の手段」ではなく「設計の一部」に
近年は、高等教育の無償化や給付型奨学金の拡充など、大学進学を後押しする制度も広がっています。日本学生支援機構(JASSO)の奨学金には、
- 給付奨学金(返済不要)
- 貸与奨学金(第一種=無利子、第二種=有利子)
といった仕組みがあり、さらに2024年度(令和6年度)からは中間所得層への支援拡充(第4区分の創設)も始まっています。
奨学金というと、「どうしても足りない場合の最後の手段」と捉えられがちですが、ライフプラン再構築の視点からは、
- 親がどこまで負担し、どこから先を子どもと分担するのか
- 返済不要の給付奨学金を、積極的に狙いにいくかどうか
といった役割分担の設計として位置づけることができます。「親が全て払うのが理想」という前提を一度疑ってみることも、健全な教育費設計の一部です。
5.習い事・塾・学校選びを「子どもの物語」としてとらえ直す
習い事や塾、学校選びについては、どうしても「周りが行っているから」「なんとなく心配だから」といった理由で増えていきがちです。しかし、本来ここで問われるべきは、費用対効果の前に、
- その習い事・塾は、子どものどんな強みや興味につながっているのか
- 子どもが自分で「通いたい」「続けたい」と感じているか
- わが家の教育目標と、きちんと接点があるか
という点です。
もし、「何となく増やしてしまった習い事」が多いと感じるなら、
- やめたときに失うものは何か
- その時間とお金を、別の経験に振り向けたらどうなるか
という視点で、ゼロベースで棚卸ししてみるのも一つの方法です。教育費は、「たくさん払うほど良い」のではなく、「納得して払えるかどうか」が大切です。
6.親子のコミュニケーションと、家庭という「学びの場」
どれだけ教育費に投じても、子どもが「何のために学ぶのか」を掴めないままだと、その効果は限定的になってしまいます。そこで鍵になるのが、日々の親子の対話です。
たとえば、こんな会話を重ねてみると良いかもしれません。
- 最近、学校や塾でおもしろかったことは?
- 「これは役に立ちそうだな」と思ったことはあった?
- もし、今と違う時間の使い方ができるなら、何をしてみたい?
こうした対話を通じて、子ども自身が「自分の学びを、自分の言葉で語れるようになる」ことが、教育準備の本当のゴールかもしれません。
また、家庭での読書習慣・ニュースの共有・一緒に家計やライフプランを眺めてみる時間などは、学校では学びにくい「生きる力」を育てる場になります。教育費は、塾や授業料だけでなく、家庭という場にどれだけ意識的に投資するかという意味も含んでいます。
7.「決めつけない」教育方針と、変化に対応できるライフプラン
最後に、教育準備でもうひとつ大切なのは、柔軟性です。子どもの興味も、社会の姿も、10年単位で大きく変わっていきます。「このレールに乗せれば安心」という時代では、もはやありません。
だからこそ、
- いったん決めた教育方針も、「本当にこれでいいか?」と定期的に問い直す
- 子どもの変化や言葉をきっかけに、進路や費用配分を調整する
- 想定外の選択(留学・転学・ギャップイヤー等)にも対応できるよう、家計の柔軟性を残しておく
といった「余白のある設計」が、教育費の不安を和らげてくれます。
子どもの教育準備は、「完璧な答えを今出すこと」ではなく、親子で対話しながら、都度アップデートしていくライフプランの一部です。数字と制度の知識に支えられながらも、最終的には「うちの子にとって、いちばん納得できる形は何か」という問いに立ち戻れるような設計を、考えてみましょう。



