ミッドライフ・クライシスとは、中年期における厄介な心理状態のことです。
しかし、そのような解釈があること自体あまり知られていません。
人によっては60歳をこえてからこのような状態になるケースもあります。
その正体がわからないために、イラついたり、不安になったり、人間関係がギクシャクしたり、子どもに影響したりといろいろなことに影響を及ぼします。
その存在は、家族のコンステレーション(配置)だったり、自分を取り巻く全ての環境に起因したりしています。
これは病気でもなんでもないので、いつの間にかその厄介な心理状態を自然に乗り越えていることもあります。
中年期に入ると20代の頃に比べて精神的にも肉体的にも衰えを感じはじめて焦りが出てきて、何か人生を大きく変えようとする欲求に駆り立てられます。
男性の場合、比較的多いのが急にジムに通いはじめて体を鍛えたり、若い女性との不倫や遊び相手を探す、といった行為が典型的な例です。
アメリカのクライスラー社が2000人の男性を対象にアンケートを行った結果、以下のような症状が「ミッドライフ・クライシス」にあてはまるとしたものがあります。
ミッドライフ・クライシスの特徴
- アンチエイジングに興味がでてきた。
- 髪型を頻繁に変えるようになった。
- 転職や起業、独立を考えはじめた。
- 新しいスポーツや珍しい競技をはじめた。
- 海外に滞在したいと考えている。
- 最新のガジェット(小さく、珍しい道具)に興味がでてきた。
- 同窓会や社会人サークルを主催するようになった。
- 以前は興味が無かったFacebookやTwitterを始めた。
面白いアンケートですね。
どうですか、あなたはいくつ当てはまりましたか?
女性のミッドライフ・クライシスは男性よりもちょっと厄介
女性の場合は、仕事や結婚、子育て、コミュニティー(ママ友)などより多くの環境下で選択する必要が生じてくる分「自分らしさとは何か?」といった自己の内面に向き合おうとして男性よりも厄介な事態に陥るケースが多くみられます。
仕事を中心に人生を設計してきた人は、結婚や出産など「家庭」を選択しなかった自分に疑問を抱くようになります。
あるいは逆に家庭を選択した人は「仕事」を選ばなかったことを後悔し始め、葛藤が始まったりもします。
一般的に女性はコミニュティーの維持を重視する傾向にあるため、仕事や子育て、個人の目標達成だけでは満たされた感覚がなく、虚しくなることがあります。
脳の働き方が違う
こうれは脳神経科学の分野でも明確になっています。
もっとも脳神経科学の分野では男女の性差ではなく、脳の働き方の違いによって異なってくるということが言われています。
これはニューロン(神経細胞)の数に起因しています。
なぜニューロンの数が関係あるのかというと、数によって情報分析経路が変わってくるからです。
ニューロンの数が多い人が比較的女性に多く見られるため女性脳と表現されることもありますが、男性にもこのタイプの脳を持っている人がいます。
また、母親になるとさらにその脳が進化することが分かってきました。
従って、母親になるとより周囲とのコミュニケーションに神経を使うようになっていきます。
また、それと同時にマルチタスク能力が劇的に向上します。
これは、徐々にではなく、出産と同時に母親脳らしきシステムに進化します。
出産の問題で悩む
性差でいえば出産です。
女性には「出産年齢の限界」があるためその年齢に近づいてくると「ラストチャンス」に直面します。
子供を持つか、持たないか、もう一人産むのか、産まないのか、決断に迫られるわけです。
従って、仕事や人生との折り合いをどうつけるか悩まされることになります。
また、子どもを持ったら持ったで、子供の成長に伴って思春期や進学、就職などの悩みがつきません。
「子供を大切に思う」あまり、逆に子供に干渉しすぎたり、子離れができなかったりといったことが起きてきます。
ですから、女性のミッドライフ・クライシスは、男性よりもかなり複雑です。
河合隼雄先生の著書「中年クライシス」にその状態がよく描かれています。
ご興味のある方は、読んでみてください。
筆者もこの本に救われた時期がありました。
以下に本の一部内容を掲載させていただきます。
例えば、ロマンチック・ラブの弊害とでもいいましょうか、
「どんな偉大な人でも妻から尊敬される人はまずいないだろう。。。。
相手に対して愛を感じ尊敬するという事を、夫婦であるための条件として厳しく考えるならば、そのような関係は長続きしにくく、アメリカによく見られるように、離婚してまた新しい相手を求めて再婚する。ということになろう。。。。。
アメリカで離婚が多いのを非難がましくいい、日本の方がいいように言う人もいるが、話はそれほど単純ではない。
家庭内離婚という言葉もあるように心の中では離婚しながら、ともかく一緒に住んでいる日本人の夫婦も多いのではなかろうか。」
とおっしゃっています。
理想的に描かれた夫婦のありかたを真に受けて現実とのギャップに苦しみ、生きることに息苦しさを覚える。
人間関係全般についても言えることですがね。
この本が出版されたのは今から19年前の事です。
現在はそういった人たちが当時よりも増えていることは間違いないでしょう。
筆者の否定対象カテゴリーである薄っぺらなスピリチュアルもどきのビジネスが繁盛している背景にもこういった中年特有の問題に悩む人たちが激増しているという背景があるからでしょう。
現在は社会の変化が激しいので、その変化についていくことができなくなるため に、中年の危機を迎える人もある。
職場のみならず、家庭においても、夫婦や親子のあり方が以前とは異なってくるので、その適応に困難を生じることも ある。
何かひとつの考えや方法を確立して、それで一生を押し通すことはできず、どこかでなんらかの転回を経験しなければならない。
と19年前(2017年時点)におっしゃっているわけです。
トポス(場所)をみいだし、そのトポスとの関連で「私」を定位できるとき、その人の独自性は強固なものとなる。
そのようなことができてこそ、人間は一回限りの人生を安心して終えることができるのではないだろうか。
老いや死を迎える前の中年の仕事として、このことがあると思われる
実に思慮深い考察です。
河合先生はユング研究で知られており、その実践の第一人者でもありました。
そのユングが1929年の講義中に語った時の和訳が残っています。
年をとれば、自分自身や世界などの両義性を知ることがきわめて重要になってきます。
疑うことは知恵の始まりです。
人生の価値を疑い始めることはきわめて重要であり、そうして世界の錯綜から自らを解放することができるようになるのです。
若い人たちは疑いの中で生きることができません。
人生に対して深刻な疑いをもてば、世界に入っていけなくなります。
しかし成熟した人は世界からもっと分離すべきです。
人生の半ばをすぎれば、それは完全に正常なことで す。
※両義性:一つの事柄が相反する二つの意味を持っているという二重構造を意味する。
さいごに
年を重ねるに従って経験が増えてくると、いろいろなことがわかっているかのような錯覚にとらわれます。
そしてそのことが原因で身動きが取れなくなっていきます。
若い時にはためらわずに行動できたことができなくなってきます。
巷で常識のように繰り返される言語、「行動すれば変わります」
この言葉は人が行動できることが前提となっています。
人は本来行動できない生き物です。
前提が異なると対策は全く違った方法になります。
そもそも前提が間違っているのでギクシャクした人生になってしまうわけです。
このことは、私たちが、あると確信している、この世界全般にいえることかもしれません。
ではまた。