法人成り成功の鍵:個人事業主の生活・保険計画ガイド

個人事業主の法人成りを生活設計と保険設計の両側面から検討してみましょう。

  1. 現状の把握
  2. キャッシュフロー表の作成
  3. 修正キャッシュフロー表の作成
  4. 必要保障額の算出

上記の手順に従って以下のケーススタディーを一緒に考えてみましょう。

1,家族構成、収入、支出、貯蓄額などを把握する。

山田太郎さんの家族構成

  • 太郎、昭和49年9月16日生(42歳)
  • 花子 、昭和50年8月7日生(41歳)
  • 涼、平成8年2月16日生(20歳)大学2年生
  • 花 、平成11年7月1日生(17歳)高校2年生

現在の家計状況

5年前に意を決して個人事業主となった。

  • 65歳まで働く予定。
  • 年間収入ー必要経費=1,000万円

※上昇率は加味しない。

  • 公的年金は、老齢基礎年金。
  • 現在の貯蓄額は、1,500万円。
  • 現在の月間生活費 は、月60万円。

子どもの教育費

  • 二人ともに高校までは国公立、大学は私立の文系(自宅)

子どもの結婚援助費用

  • 涼:250万円、花:300万円

借入金

  • 借入金残高720万円、金利3%

太郎さんの希望

  1. 老後資金の準備をそろそろ考えていきたい。
  2. 息子には事業を継がせたくない。

2,キャッシュフロー表の作成

キャッシュフロー表を作成し、問題点を分析する。

問題点

  • 長生きすると赤字が続く。
  • 現行の貯蓄運用では、老後生活の資金が確保できない。
  • 病気やけがで仕事が続けられない場合や経営不振になった時の備えが必要。

提 案

花子さんが働く。

  • 原則として生計を一にする親族に支払う給与は必要経費ならない。

※事業専従者控除額(青色申告者の場合は「青色事業専従者給与額」)として必要経費に算入できる。

  1. 現在花子さんは事業には従事していない。
  2. パートから始めて外部での正社員での就業を考える。
  3. 月収12.5万円(年間で150万円)程度。

法人成り

法人成りとは、個人事業主が、あらたに会社(法人)を設立して、事業を法人に移すことです。

「法人成り」の目的は、税金負担の軽減が目的。

例えば、

個人事業の場合、年間収入ー必要経費= 1,000万円だ。

法人成りすると、

  • 益金ー損 金= 1,000万円(役員報酬700万円差し引き前)

所得控除(所得税)

項目 金額 備考
生命保険料控除 10万円 個人年金保険料控除含む
地震保険料控除 5万円
社会保険料控除 102万円
扶養控除 38万円
基礎控除 38万円
193万円

所得控除(住民税)

項目 金額 備考
生命保険料控除 7万円 個人年金保険料控除含む
地震保険料控除 2.5万円
社会保険料控除 102万円
扶養控除  33万円
基礎控除  33万円
177.5万円

その他

  • 個人住民税は標準税率として計算、均など割り分は加算していない。
  • 法人税率19%、法人住民税率17.3%、法人事業税率9.6%(税率は所得金額により異なる)。

※平成28年以降に開始する事業年度について、年800万円以下の部分は15%。

注意:個人の所得税については、復興特別所得税が課税される。

源泉徴収義務者の方は、平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に生ずる所得について源泉所得税を徴収する際、復興特別所得税を併せて徴収し、源泉所得税の法定納期限までに、その合計額を国に納付ー国税庁

  • 青色申告特別控除はここでは考慮しない。
  • 生命保険契約は平成23(2011)年12月31日以前に契約。

個人事業主のままの場合

  • 所得税:(1,000-193)万円×23%-63.6万円=122.01万円(百円未満切り捨て)
  • 住民税:(1,000-177.5)万円×10%=82.25万円
  • 事業税:(1,000-290)万円×5%=35.5万円

【合計税額】 239.76万円

法人成りの場合

  • 法人税:(1,000-700)万円×15%=45万円(百円未満切り捨て)
  • 地方法人税:(1,000-700)万円×4.4%=13.2万円(百円未満切り捨て)
  • 法人住民税:45万円×12.9%+7万円=12.8万円(百円未満切り捨て)
  • 法人事業税:(1,000-700)万円×3.4%=10.2万円(百円未満切り捨て)
  • 地方法人特別税:(1,000-700)万円×1.469%=4.4(百円未満切り捨て)

【法人合計税額】85.6万円

個人の税額

  • 所得税:700万円×10%+120万円=190万円
    (700-190-193)万円×10%-9.75万円=21.95万円
  • 住民税(700-190-177.5)万円×10%=33.25万円

【個人合計税額】55.2万円。

法人と個人の合計税額:140.8万円。

個人事業のままとの差額は、98.96万円となる。

したがって、税金面から見た場合は、法人成りがいいという結論に至ります。

しかし、法人成りすれば新たな費用が発生するので、税金面だけで法人成りを考えてはいけません。

※実際の税務処理は、税理士などに相談すること。

老後資金の準備

  • 国民年金基金
  • 小規模企業共済制度
  • 確定拠出年金個人型への拠出
  • 貯蓄

などがなど考えられるだろう。

今回のケースでは、既に年金年額120万円・10年確定年金・60歳支払い開始の個人年金保険に新たに加入したいとの希望。

3,修正後のキャッシュフロー表を作成

※法人成りの税金減は加味しない。

  • 花子さんが働くことで家計に余裕がでる。
  • 厚生年金への加入によって将来の年金受給額が増える。

その結果、老後資金の赤字額が縮小する。

  • 小規模企業共済制度
  • 国民年金基金
  • 確定拠出年金など

などの掛け金は、一定額所得控除の対象となる。

そのため、実質の課税対象額が減り、納税額も少なくなる。

4,必要保障額を算出する

万一時の収入

  • 遺族年金
  • 佳子さんの給与:年200万円

万一時の支出

  • ,遺族の生活費:守くんが大学を卒業した後は現在の6割とする。
  • 子どもの教育費は、現在と同じ。

万一時の死亡保障は、遺族年金の金額が少ないのでしっかりと確保しておいた方がいい。

佳子さんが働く期間を長めに考えても、8,000万円程度の死亡保障を確保しておく必要がありそうだ。

ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。

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