今回は、処理計画の策定・鑑定評価方式の適用といった不動産鑑定評価の手順についてです。ポイントを確りおさえて不動産取引を円滑に進めましょう。
鑑定評価と不動産運用
不動産の鑑定評価の手順は以下のような流れになっている。
- 鑑定評価の基本的事項の確定
- 処理計画の策定
- 対象不動産の確認
- 資料の収集および整理
- 資料の検討および価格形成要因の分析
- 鑑定評価方式の適用
- 試算価格または試算賃料の調整
- 鑑定評価額の決定
- 鑑定評価報告書の作成
鑑定評価の基本的事項
不動産の鑑定評価にあたっては、基本的事項として、対象不動産、価格時点および価格または賃料の種類を確定する必要がある。
対象不動産の所在、範囲などの物的事項および所有権、賃借権などの対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件を図表4-13にまとめた。
図表4‐13
鑑定評価の基本的事項 | ||
①対象不動産の確定 | 対象不動産の確定 | 物的な確定 |
権利の確定 | ||
対象確定条件 | 土地・土地建物などの状態を所与とした鑑定評価
|
|
②価格時点の確定 | 価格時点の意義 | |
価格について | ||
資料について | ||
③価格または賃料の種類の確定 | 価格 | 正常価格 限定価格 特定価格 特殊価格 |
資料 | 正常賃料 限定賃料 継続賃料 |
価格時点の確定
価格形成要因は、時の経過により変動するものなので、不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当する。
従って、不動産の鑑定評価を行うにあたっては、不動産の価格の判定の基準日を確定する必要がある。
ちなみに、この日を価格時点と呼んでいる。
鑑定評価によって求める価格、または賃料の種類の確定
不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格だ。
しかし、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格または特殊価格を求める場合がある。
したがって、依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し、明確にすべきだ。
不動産の鑑定評価によって求める価格の種類は図表4-14に示すとおりだ。
なお、賃料についても、正常賃料、限定賃料および継続賃料がある。
図表4‐14 不動産の鑑定評価によって求める価格の種類
正常 価格 |
市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格 |
限定 価格 |
市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合または不動産の一部を取得する際の分割などに基づき合理的な市場で形成されるであろう市場価値と乖離(かいり)することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格(借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合など) |
特定 価格 |
市場性を有する不動産について、法令などによる社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない魚午により正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離(かいり)することとなる場合における不動産の経済的価値を適正に表示する価格 |
特殊 価格 |
文化財などの一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況などを前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格 |
不動産鑑定評価の方式
不動産の鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式および収益方式の3方式がある。
- 原価方式:不動産の再調達(建築、造成などによる新規の調達をいう)に要する原価に着目
- 比較方式:不動産の取引事例または賃貸借などの事例に着目
- 収益方式:不動産から生み出される収益に着目
それぞれの鑑定評価の方式の適用により求められた価格または賃料を試算価格または試算賃料という。
3方式のポイントは図表4-15の通りだ。
いずれの方式も上段が価格、下段が賃料を求める手法だ。
図表4‐15
1)原価方式:不動産の再調達に要する原価に着目。
再調達=建築造成などによる新規の調達
手法とポイント | |
原価法 | ①再調達原価を求め、これについて減価修正を行うことにより対象不動産の試算価格を求める手法。
②再調達原価の把握および減価修正を適正に行うことができる場合に有効。 |
積算法 | ①基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に、さらに必要諸経費などを加算して試算賃料を求める手法。
②基礎価格、期待利回り、必要諸経費などの把握を適正に行うことができる場合に有効。 |
2)比較方式:不動産の取引事例または賃貸借などの事例に着目。
手法とポイント | |
取引事例比較法 | ①事例の収集、選択、事情補正、時点修正を施し、地域要因および個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考慮して対象不動産の試算価格を求める手法。
②近隣地域または同一需給圏内の類似地域内において、類似の不動産取引が行われている場合に有効。 |
賃貸事例比較法 | 上記に準じて試算賃料を求める手法。 |
3)収益方式:不動産から生み出される収益に着目。
手法とポイント | |
収益還元法 | ①対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法。
②賃貸用不動産、一般企業用の不動産に有効である。ただし、収益は不動産の経済価値の本質を形成するものであり、収益還元法は自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用できる。 |
収益分析法 | ①一般企業経営に基づく純収益を求めて、これに必要諸経費などを加算して試算賃料を求める手法。
②企業用不動産に帰属する純収益を求め得る場合に有効。 |
鑑定評価手法の適用にあたっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべき。
この場合、地域分析および個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性などを適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性などにより、複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきだろう。
4)開発法
更地の価格の鑑定評価を行うにあたっても、本来であれば原価方式である原価法、比較方式である取引事例比較法、収益方式である収益還元法の3手法のうち適用可能な複数の手法を適用すべきだ。
しかし、鑑定評価の対象とする更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合などにおいては3手法に加えて開発法を適用し、下記の1または2により求められた試算価格を比較検討すべきだろう。
面積が大きい更地には、マンションなどとして一体利用することが合理的な更地と、戸建分譲用地などとして分割利用することが合理的な更地とがあり、それぞれ試算価格の求め方が異なっているからだ。
- 当該更地について、一体利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額および発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格。
- 当該更地について、分割利用することが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額および発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格。
次回は不動産取引のルールを理解してキャッシュフローに華をそえるです。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。