
ユーザー共感・エンパシーを高める実践ガイド(コンパッショネート・デザイン思考)
ユーザーの問題に「気づく(エンパシー)」だけでなく、「救う行動へ移す(コンパッション)」まで設計に落とし込む――そのための現場手法を、コンパッショネート・デザイン思考の流れに沿って整理します。
1. 発見:フィールドリサーチで“現場の文脈”を掴む
ユーザーがいつ・どこで・誰と・どんな制約下で行動しているかを実地で観察します。画面やログに現れない「環境・制約・感情のトリガー」を可視化することが目的です。
やること
- シーン定義(例:昼休み中の予約、通勤中の閲覧、家事の合間の購入)
- 現場観察(時間帯/同席者/雑音・視線などの制約を記録)
- 感情メモ(出来事→意味づけ→感情→行動の順で1行化)
2. 深掘り:ユーザーインタビューで“意味づけ”を聴く
観察で拾った行動の背景を、本人の言葉で裏づけます。先入観を排し、事実/感情/意味を分けて記録。
質問テンプレ(5問)
- 最後にそれを使ったのは「いつ・どこ・誰と・何のため」でしたか?
- 期待と実際に起きたこと(差分は何でしたか?)
- その瞬間の気持ちを単語+強度(1–10)で教えてください。
- 代替手段は取りましたか?取らなかった理由は?
- 「もし◯◯だったら使いますか?」(反事実で確証バイアスを抑制)
3. 定量化:アンケートで“重みづけ”を決める
発見の一般性と優先度を測るために、少数の良問×適切なサンプルで定量化します。
設計のコツ
- 混在を避ける:1問=1概念(例「安心感」と「満足度」は分ける)
- 尺度の一貫性:5点 or 7点で統一、自由記述は「なぜ」を促す
- セグメント別に集計:新規/既存、時間帯、端末、職務など
4. 橋渡し:共感の洞察を“行動”に変える
エンパシーで得た痛点を、コンパッション(行動原理)でスクリーニング。誰の、どの痛みを、いつ、どれだけ軽くするかを明文化します。
慈悲フィルタ(採択基準)
- 尊厳:ユーザーの自律性・選択を奪っていないか
- 負荷:学習/操作/金銭の負担を下げているか
- 透明性:意思決定の根拠が理解できるか
5. 検証:行動指標 × 情緒指標を同時に見る
「できた?」(行動)と「どう感じた?」(情緒)を同時に追うことで、短期の成果と長期の信頼を両立させます。
見るべき指標
- 行動:完了率、所要時間、誤操作率、再訪率
- 情緒:安心度↑、努力感↓、信頼感↑、推奨意向(NPS)
6. 実務テンプレ:そのまま使える最小セット
6-1. 観察メモの型(1ケースあたり30秒)
[状況] いつ/どこ/誰と/目的 [出来事] 何が起きた(観察可能事実) [意味づけ] ユーザーの解釈(直引用) [感情] 単語+強度(1–10) [行動] 取った/取らなかった行動と理由
6-2. インタビュースクリプトの見出し
- 直近体験の再現(時系列)
- 期待と現実の差分
- 感情強度のピーク/ボトム
- 阻害要因と代替手段
- 反事実:「もし◯◯なら?」
6-3. 小さなアンケート(10問以内)構成例
- シナリオ適合(使い道)
- 安心度/努力感/理解度(7件法×3問)
- 最も困った点(単一選択+自由記述)
- 改善アイデア(自由記述)
- 属性(セグメント分けに必要最小限)
7. よくある落とし穴と回避策
- 声の大きい意見に引っ張られる:セグメント別の件数と影響度を併記して意思決定。
- 共感疲労:調査担当をローテーション、重い案件後は分析タスクへ切替。
- 改善が行動に落ちない:慈悲フィルタ(尊厳/負荷/透明性)で採択を機械化。
まとめ
フィールド→インタビュー→アンケートで文脈・意味・重みをそろえ、エンパシーの洞察をコンパッションの採択基準で行動に変える。最後は行動と情緒の両輪で検証する。この一連を小さく早く回せば、ユーザーに寄り添いながら成果の再現性を高められます。



