
コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)とは
CFTは英国の心理学者ポール・ギルバートによって開発されたアプローチで、「安全・思いやり(コンパッション)」を再学習することで、過度の自己批判や恥、不安、うつに伴う苦痛を和らげることを目指します。特徴は、認知行動療法やマインドフルネスの技法を取り入れながら、生物学的な情動システムと慈悲のスキルを訓練として扱う点です。
1. CFTの基礎:なぜ“慈悲”が効くのか
1-1. CFTの目的
- 自己批判・恥に偏った内的対話を、慈悲的な内的コーチに置き換える。
- 身体の安全反応を整え、学習と回復が起きやすい生理状態を作る。
- 「自分→他者」「他者→自分」「自分↔他者」の三方向のコンパッションを育てる。
1-2. 三つの情動システム(CFTのマップ)
脅威システム(Threat)
危険や失敗に敏感。怒り・不安・恥を引き起こし、闘争/逃走/硬直を作動。
駆動システム(Drive)
達成・獲得への推進力。やる気や快感を生むが、過剰だと消耗。
安心システム(Soothing)
安全・つながり・満ち足りをもたらす調整役。コンパッション訓練の主要ターゲット。
1-3. よくある悩みへの関与仮説
- 慢性的な自己批判=脅威システムの過作動+安心システムの不活性。
- 過剰な完璧主義=駆動システムに偏重し、休息・つながりの不足。
2. 期待できる効果(臨床で観察されやすい変化)
2-1. 症状レベル
- 自責・恥・不安の緩和、気分の安定。
- トリガー状況での過剰反応の低下(早期の気づき)。
2-2. 機能レベル
- 自己受容・自己効力感の改善、対人関係の修復。
- 価値に沿った行動(小さなステップ)を維持しやすくなる。
※医療的診断や治療の代替にはなりません。継続的な症状がある場合は専門家へ。
3. CFTの中核スキルと手順
3-1. 慈悲の呼吸(Soothing Rhythm Breathing)
ねらい
自律神経の鎮静と注意の安定化。安心システムをオンにする入口。
手順
- 背筋を楽に伸ばし、4秒吸って6秒吐くペースを2〜3分。
- 吐く時に「緩む」「やわらぐ」と心の中でラベリング。
3-2. 慈悲的イメージ(Compassionate Image)
ねらい
頭の中の“批判者”に対抗できる慈悲的自己の表象を育てる。
設計ポイント
- 資質(温かさ・強さ・知恵・コミットメント)を一つずつ言語化。
- 声のトーン・表情・姿勢・距離感を具体化。
短い誘導文(30秒)
「失敗はあなたの価値を決めない。今は回復を優先しよう。次の一手を一緒に小さく決めよう。」
3-3. 慈悲的自己へのチェアワーク(自己批判の再配線)
手順(簡易版)
- 椅子A=批判者、椅子B=慈悲的自己、椅子C=観察者を用意。
- Aで批判の言葉を「引用」で発話→Bへ移動して慈悲的応答。
- Cで両者の意図(守りたい価値/恐れ)を要約し、次の一手を1行で決める。
3-4. 慈悲の三方向(フロー)の練習
自分→他者
相手の苦痛を見立て、実際的な支援を1つ提供。
他者→自分
支援を受け取る練習(頼む・受け取る・感謝する)。
自分→自分
セルフトークの書き換えとセルフケアの実行。
4. 誤作動を減らす“運用設計”(脅威→安心へのブリッジ)
4-1. トリガー→反応→ケアの三点止め
【サイン】体感(胸/胃/肩)・思考(言葉)・衝動
【ケア1】呼吸2分 → 慈悲的イメージ30秒
【ケア2】行動1mm(休む/頼む/小口に分ける)
4-2. 自己批判を“機能”に変える書式
裏の意図:何を守ろうとしている?(例:失敗回避/評価/安全)
慈悲的再表明:守りたい価値を維持したまま、次の一手を安全にする言い方
→ 例「期限が不安」→「あなたを守りたい。今日は草稿30分でOK。提出は明日10時。」
4-3. 1日の運用ループ
- 朝:呼吸2分→今日の1mmケアを決める。
- 昼:トリガー記録1件+セルフトークの書き換え。
- 夜:三方向フロー(誰に/何を受け取り/自分に何をする)。
5. 今日から使えるテンプレート集
5-1. 慈悲的セルフトーク(コピペOK)
まず呼吸、次に5分だけ取り組む。うまくいかなくても学びに変えられる。」
5-2. 慈悲的レター(自分宛ての手紙)
私はあなたの努力を知っている。いま感じている恥や不安は、あなたを守るために働く古い回路の産物だ。
あなたの価値は条件付きではない。今日の一手は__。できたら自分に温かい飲み物を。— 慈悲的自己
5-3. リレーションの言い換え(相手へのコンパッション)
見立て:「忙しさ/不安が背景かもしれない」
お願い:「明日12時までに一言だけもらえますか。それで次の段取りが進みます。」
6. 7日プロトコル:CFTを“身体化”する
ステップ
- Day0(15分):三つの情動システムの自己チェック(どこが過作動/不活性?)。
- Day1:呼吸2分×3回。夜にトリガー→反応→ケアを1件記録。
- Day2:慈悲的イメージを30秒×3セットで固定。
- Day3:自己批判の書き換えを2文作成。
- Day4:三方向フローを1つずつ実行(与える/受け取る/自分へ)。
- Day5:チェアワーク(A批判→B慈悲→C要約)を10分。
- Day6(20分):週間レビュー(KEEP/STOP/LEARN)と来週の1mmケアを決める。
レビュー書式
【STOP】逆効果の癖(深夜の自己反省会)
【LEARN】新しい気づき
【NEXT】来週の1mmケア(期日/測定法)
7. よくある詰まりと対処
「慈悲」が甘やかしに感じる
慈悲は痛みと向き合い行動を促す強さを含む。目標は回避ではなく“安全に前進”。
イメージが苦手
言葉・音・触覚(手を胸)など別の感覚チャンネルで代替。
自責が止まらない
まず睡眠/栄養/刺激(カフェイン/SNS)の調整を。生理的負荷が高いと再学習が入りにくい。
8. まとめ──安全を作り、優しさと強さを両立させる
CFTは、脅威・駆動・安心という情動システムのバランスを整え、慈悲的自己という内的資源を育てる訓練です。呼吸→イメージ→言い換え→小さな行動の順で運用すれば、自己批判の回路は徐々に書き換わります。
あなたの「慈悲的自己」を一緒に初期設定します。
呼吸・イメージ設計・セルフトーク書式・7日プロトコルまで40分で伴走。