
ケースの背景──「繁盛店のオーナー」として出会ったあの頃
オーナーさんと知り合ったのは、2000年。私が保険セールスを始めて間もない頃でした。彼女は当時、地域でもよく知られたお洒落なブティックを営んでいて、お店は大変繁盛していました。
お客様との信頼関係も厚く、そこから20人ほどのお客さまをご紹介いただいたことがありました。駆け出しだった私にとって、それは大きな自信となる出来事でした。単に契約をいただいたという以上に、「自分の仕事を信頼して託してくれる人がいる」という実感を与えてくれた、特別な出会いだったのです。
2010年の転機──がん告知と、胃の全摘出、そして店じまい
状況が大きく変わったのは、2010年のことです。彼女ががんを患い、胃を全摘出する手術を受けることになりました。体力的な負担はもちろんのこと、今後の生活や仕事への不安も大きかったと思います。
体調面を考えると、これまでのように店舗を構え、長時間立ちっぱなしで接客を続けるのは現実的ではありません。12年間続けてきた店を閉めざるを得なくなり、彼女は自らの「居場所」とも言える空間を手放す決断をしました。
お洒落は、彼女にとって単なる仕事ではなく、掛け替えのないライフワークでした。着る人の表情が変わる瞬間に立ち会い、その人の「らしさ」を一緒に形づくっていく喜び。それは、彼女の天職と言っていいものでした。
その天職が続けられないかもしれない──その事実は、彼女にとって「生きる意味を失うこと」に近い衝撃だったはずです。この時の彼女は、表現として決して大げさではなく、「死んだも同然」の心境だったと感じています。
ホームブティックという提案──「場」を変えても、仕事は続けられる
そんな彼女に対して、私が提案したのが「サロン形式のホームブティック」でした。店舗という形にはこだわらず、自宅の一室をサロンとして整え、予約制でお客さまを迎えるスタイルです。
自宅であれば、体調が不安定な日にも負担を抑えながら対応できます。長時間の立ち仕事を避ける工夫もできますし、移動の負担も少ない。なにより、テナント料や設備費といった固定費を大幅に削減できるため、経営のハードルも下がります。
「場所は変わっても、お洒落を通じてお客さまと向き合う本質的な仕事は続けられるのではないか」──そんな思いからの提案でした。
とはいえ、当時の彼女は、「斉木さんの提案は、うまくいかないんじゃないか」とどこかで疑っていたようです。それでも、彼女はお洒落を続けたかった。「もう一度、服と人に関わりたい」という気持ちが勝り、とりあえずやってみることにした、と後になって語っていました。
「保険セールス」と「コンサル」のあいだで──恩返しとしての伴走
この頃、私はすでにコンサル・コーチ業を始めていましたが、そのことを彼女にはあえて伝えていませんでした。私と彼女との出会いは「保険セールスマンとお客さま」という関係から始まっています。そのイメージが前面に出続けると、コンサルの提案がうまく届かないだろうと感じていたからです。
ですから、当初はあくまで「健康管理と環境調整のアドバイス」という形で関わるにとどめていました。体調と相談しながら無理のない働き方を整え、自宅での仕事環境を少しずつ整備していく。その範囲で、できる限りのサポートを続けていました。
同時に、私の中には「この人に恩返しがしたい」という思いがありました。駆け出しだった頃の自分を支えてくれた人に、今度は自分が何か返したい。その気持ちが、私をさらに研鑽へと駆り立てていったのだと思います。
それから何度、彼女と会って話をしたでしょうか。100回は軽く超えているだろうという感覚があります。体調の不安が少しずつ落ち着き、健康に対する自信はある程度取り戻せたように見えました。しかし、ビジネスという観点から見ると、まだ課題は多く残されていました。
ビジネスモデルの限界──「好きなこと」と「続けられる形」のあいだで
私自身の過去のアパレル関連の店舗経営やマネジメントの経験から見て、彼女が当初組んでいたビジネスモデルには、いくつかの限界がありました。
- 顧客数が頭打ちになりやすい構造(紹介頼みで新規導線が弱い)
- 来店頻度が伸びにくい価格帯と提案の仕方
- 「お洒落の楽しさ」を提供しつつも、ビジネスとしての収益性が十分でない
彼女のセンスや接客力には何の問題もありませんでした。むしろ、その部分は突出していました。ただ、「どんなお客さまに、どのような関わり方で、どのくらいの頻度で会うのか」という設計に、ビジネスとしての工夫が必要だったのです。
そこで私は、自分自身のコンサル実績や他のケースを少しずつ語りながら、「ビジネスの見方そのものを変えていく必要がある」と伝え続けました。焦らず、押しつけず、しかし粘り強く。
そうして時間をかけるうちに、彼女の中でも少しずつ「ビジネスの話を、ビジネスとして聞いてみよう」という準備が整っていったのだと思います。
2015年5月──やっと届いた「コンサルの正式依頼」
そして2015年5月、ようやく彼女の方から、はっきりとした言葉が返ってきました。
「ビジネスのこと、ちゃんと相談に乗ってもらえませんか。」
それは、長い時間をかけてようやくたどり着いた一言でした。私にとっては、「保険の人」ではなく「ビジネスのアドバイザー」として認めてもらえた瞬間でもあります。ここまでの道のりを振り返ると、とても長く、決して一直線ではありませんでしたが、「断らずにいてよかった」と心から思えたタイミングでした。
セッション開始から2カ月──顧客数・来店頻度・客単価が動き始める
正式にコンサルティングが始まってから、約2カ月後。数字にも変化が現れ始めました。
- 顧客数が増え始める
- 既存のお客さまの来店頻度が上がる
- 顧客単価が、従来の約3倍になっていく
もちろん、これは彼女自身の努力と、これまでの信頼関係の積み重ねがあったからこその結果です。私がしたことは、そのポテンシャルが適切に届くように、「設計」と「動線」と「伝え方」を一緒に整えたことに過ぎません。
ただ、この変化は、彼女にとって大きな意味を持っていました。「体調を崩したからもう無理だ」「店を閉めた時点で、私の天職は終わった」と感じていたところから、「形を変えても、私にはまだできることがある」という実感へと、物語が書き換わっていったからです。
※上記はあくまでも一つの事例であり、絶対的な成果や効果を保証するものではありません。
あなたへの問いかけ──形を変えても続けたい「ライフワーク」はありますか
このケースは、一人のオーナーが「がん」「店じまい」「体調不安」という大きな節目を経て、「お洒落」というライフワークを形を変えて続けていくまでの物語です。
もし今、あなた自身が
- 健康や年齢、家庭の事情などを理由に、「もう続けられない」と感じている仕事や活動がある
- これまで築いてきたキャリアを、一度手放さざるを得ない状況にある
- 本当は続けたいのに、「もう無理だ」と自分に言い聞かせてしまっている
そうだとしたら、一度立ち止まって、こう問いかけてみてもいいかもしれません。
「形を変えてでも、続けたいライフワークは何か?」
それは、すぐに答えの出る問いではないかもしれません。ただ、その問いを持ち続けること自体が、「自分の人生をどのように設計し直すか」という次のステップへの入り口になります。
一人ひとりの「ライフワーク」と「現実の制約」とのあいだで、新しい折り合いのつけ方を一緒に探っていくお手伝いをしています。
もし、あなた自身の物語をもう一度描き直したいと感じたときは、どうぞ一度ご相談ください。



