正義の声とケアの声──ギリガン×ウィルバーで読む倫理発達とタイプ統合

倫理は一枚岩ではない──「声」が重なって成熟は進む

個人の成長は、性格・文化・時代背景・関係性など多くの要因の交差点で起こります。そこに、性別という経験軸も関与しますが、それは「差を決めつけるための物差し」ではなく、現れ方の傾向を読み解く補助線として扱うべきものです。
本稿では、キャロル・ギリガンの「ケアの倫理」と、発達段階・タイプ(類型)という二つの視座を重ね、固定観念に陥らずに実務へ応用するための地図を提示します。

キャロル・ギリガンの示したもの──正義の声ケアの声

ギリガンは、倫理的成長には複数の「声」があると述べました。権利・規則・公正を基調にした「正義の声」と、関係・配慮・責任を基調にした「ケアの声」。どちらが上位ということではなく、状況に応じて両方を編み合わせる力が成熟です。

倫理発達の4段階(実務に向く要約)

  1. 前・慣習段階:自己の安全・損得を優先。規則や配慮は「外」から与えられる。
  2. 慣習段階:集団や役割に同一化。秩序維持と関係維持が基準となる。
  3. 後・慣習段階:普遍的原理と関係性の再設計。文脈と原則の両立を志向。
  4. 統合段階正義の声 × ケアの声のコンフリクトを創造的に統合。ルールを守る/守らせるだけでなく、必要ならルール自体を更新する。

例:三振した子どもに「規則は規則」とするのは正義の声。「もう一度の機会を」と働きかけるのはケアの声。
統合段階では、競技の公平性(正義)と学びの機会(ケア)を両立させる運営設計へと発想が進みます。

重要な注意:性差≠本質差

ギリガンは「女性=ケア、男性=正義」と断定したのではなく、社会化や経験の違いにより、現れやすい論理が異なる傾向があると指摘しました。個人差・文化差・年代差は大きく、どの性にも両方の声が宿ります。

タイプは横軸、段階は縦軸──重ねると見えてくる設計点

ウィルバーは、段階(発達の深さ)タイプ(現れ方の違い)を区別します。性差やMBTIのような類型は「横軸(タイプ)」であり、どの段階にも現れます。段階が上がるほど、タイプの使い方は洗練されやすい──ここが実務のポイントです。

類型(タイプ)を扱う際の3原則

  • 固定せず、仮説として使う:タイプはラベルではなく、対話を始めるための仮説。
  • 相補で設計する:正義の声が強い人×ケアの声が強い人で意思決定を二段審査。
  • 段階で検証する:タイプの使い方が、より広い利害・長期性を含める方向に更新されているかを確認。

現場でどう使うか──判断の質を上げる5つの問い

  1. 原則の問い(正義):今回の判断は、どのルール/価値基準に基づくか?例外の条件は?
  2. 関係の問い(ケア):誰の感情・尊厳・関係性に影響するか?対話の場は設計したか?
  3. 利害の問い:短期の公平性と長期の学習機会、どちらの価値をどの比率で守るか?
  4. 可逆性の問い:取り返しがつくか?つかないなら安全側に倒す設計か?
  5. 更新の問い:今回のケースで、ルール自体を微修正すべき余地はあるか?

ミニ実践:二つの声を同時に育てる

1)判断メモ(3行)

  • 正義の行:守る原則/理由。
  • ケアの行:配慮すべき関係/感情。
  • 統合案:手続き or 説明責任の設計を一つ。

2)会議の役割分担

  • 原則係:基準・前例・整合性をチェック。
  • 関係係:影響を受ける当事者の視点・合意形成の導線を提案。
  • 統合係:両者の案を可逆性・透明性・再現性の3軸で再設計。

類型ツールの扱い方(MBTIなど)

類型は自己理解の入口として有用ですが、ラベル化の危険もあります。現場では「仮説→行動→フィードバック→更新」の短いサイクルに乗せ、タイプ論対話の言語として活用しましょう。

統合段階とは、声を「同時に持つ」力

統合とは、中庸ではなく、両極を必要に応じて最大化しうる可変性です。厳格な原則で守るべき時は守り、ケアが秩序の信頼を高める局面では関係を先に整える。
二つの声のレバーを自在に引けるほど、判断は強く、やさしく、遠くまで届きます。

補足:ウィルバーの枠組みでは、タイプ(男性性/女性性、MBTIなど)は横軸の多様性として全段階に現れます。段階(縦軸)が高まるほど、タイプの活かし方は包摂的・状況適応的になります。

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