生命保険を活用して事業承継資金を確保する

経営者が死亡した場合、法人の存続が危うい状態になることがあります。

法人として次の後継者に経営を譲った場合の対策については後述しますが、ここでは、経営者個人として事業承継するために法人ができる資金対策として事業保険を考えます。

相続対策自体は、経営者本人が個人として準備しておくことです。

また、前述の退職金や弔慰金も遺族の相続対策には充当できます。

しかし、それ以外に法人として事業承継を手助けすることができる方法が自社株の買い取り制度です。

自社株(金庫株)

会社の所有権を持っている経営者が所有している自社の株式を「自社株」といいます。

中小企業では会社の経営権を維持するために、株を所有しておくことが多いです。

会社の業績が良好であったり、土地などの合み資産(購入価格と時価との差額)が多いと、自社株(上場されていない非公開株式)の評価額が額面の20倍、100倍となるケースもまれではなく、経営者がその相続対策として、自社株対策を行うことが必要になります。

この自社株は、上場または店頭株式のように換金できることもありますが、中小企業の場合は、換金が難しいです。

この自社株を企業が保有する場合、金庫株と呼んでいます。

自社株評価の必要性

事業承継においては、社長として会社の経営権を承継するだけでなく、株式も承継し会社の所有権も承継する場合が多いです。

この承継の際に、自社株を評価(財産評価基本通達)して、相続税・贈与税が課税されます。

株式は額面金額とは関係なく会社の資産内容や業績などから評価されます。

中小企業では経営者は個人の財産のほとんどを投入し、役員報酬を低く抑えて資産内容の充実を図っている会社も多いです。

その結果会社は豊かだが、個人は貧弱といったケースも少なくありません。

会社設立が古く、駅前などの一など地に自社ビルを持っている会社、工場の敷地が交通の便利な所にあり敷地が広いなど、会社として不動産の合みを保有している会社は評価が高くなりがちです。

また、老舗の旅館、料亭などは、敷地は広く、一など地にあり、建物も建て替えなど行っておらず借入金も少ないために評価が高くなりがちです。

新興住宅地や最近道路整備が行われた地域に開発以前からあった工場も広い敷地を持っており、土地の価格が上がり、含みが多くなっていることが多いです。

自社株の評価方法

①株式の相場の有無による区分

相続または贈与により取得した株式を評価する場合は、上場および店頭株式のように換金性があれば、①相続・贈与のあった日(課税時期)の最終価格、②課税時期の属する月以前3カ月の毎日の最終価格の月平均、のうち最も低い価格で評価を行います。

しかし、ほとんどの会社は非上場で相場価格がないため、取引相場のない株式として、会社規模や株主の区分によって評価方法が定められています。

a)原則的評価方式

  • 類似業種比準方式
    事業内容が類似する上場会社の業種の株式をベースに自社株を評価する方法で、類似業種の株価が上昇すれば株価も上がる。
  • 純資産価額方式
    所有する土地、建物、有価証券などの資産を相続税評価額で評価替えし、自社株を評価する方法で、地価の高騰や会社所有株式の株価上昇があると評価額も上昇する。
  • 上記2方式の併用方式

b)特例的評価方式

  • 配当還元価額方式
    株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価する方法。

②株式取得者による区分

判定はまず、株式取得者で区分される。同族株主がいる会社の場合、株式取得者がその会社の経営に参画できるような同族株主の場合と単に経営とは関係なく配当を得るだけの株主の場合があるということです。

次に、会社の株式所有者の筆頭株主グループと判定対象の株主とその同族関係者が属するグループの場合の持ち株割合で判断しますが、一般的に中小企業の場合の社長は、同族株主にあたるケースが多いです。

同族株主の場合は一般的に原則的評価方式となり、そうでない場合は特例的評価方式としての配当還元価額方式となろます。

③会社規模による区分

次に、会社の規模による区分で行う。従業員数もしくは総資産額または取引額により「大会社」「中会社(大、中、小)」「小会社」に区分して評価します。

会社規模の区分

会社区分 評価方法
大会社 LとRの低い方
中会社 L×0.90+R×0.10とRの低い方
L×0.75+R×0.25とRの低い方
L×0.60+R×0.40とRの低い方
小会社 L×0.50+R×0.50とRの低い方

注:類似業種比準価額をL、純資産価額をRとする。

④特定の評価会社区分

会社を規模などにより区分するが、株式保有特定会社(株式の保有割合が高い)、土地保有特定会社(土地の保有割合が高い)、開業後3年未満の会社、類似業種比準方式の計算の2基準が0で計算できない会社などは純資産価額方式で行うこととされています。

⑤種類株式の評価

a)種類株式とは

株式は、保有する株数に応じて同一の権利内容を持つのが原則ですが、株主平など原則の例外として、一定の条件により法の定める権利内容の異なる株式、すなわち種類株式の発行を認めています(会社法第2条13)。

種類株式とは、利益・利息の配当、残余財産の分配、株式の買受け、利益による株式の消却、株主総会で議決権を行使できる事項、当該種類の株主総会での取締役・監査役の選任に関して株式の権利内容の異なる株式のことをいいます。

会社は数種の株式の内容および数を定款で定めて授権することにより、数種の株式を発行することができます(会社法第108条)。

  • 優先株式
    利益配当や残余財産の分配のすべてまたは一部につき、他の種類の株式に対して優先的内容を持つ株式。
  • 劣後株式
    利益配当や残余財産の分配につき、他の種類の株式に対して劣後的内容を持つ株式。「普通株式に対する配当が○円未満のときには配当しない」などと規定されている株式。
  • 混合株式
    ある権利については優先的内容を持つが、他の点では劣後的内容を持つ株式をいう。
  • 議決権制限株式
    株主総会での議決権の全部または一部を制限する事を規定されている株式。

b)種類株式の評価

  • 配当優先の株式の評価

(類似業種比準方式により評価する場合)財産評価基本通達183の(1)に定める「一株当たりの配当金額」については、株式の種類ごとに計算して評価します。(純資産価額方式により評価する場合)

配当優先の有無にかかわらず、財産評価基本通達185の定めにより評価します。

  • 無議決権株式の評価一定の条件を満たす場合に限り、上記「配当優先の株式の評価」または原則的評価方法により評価した価格から、その価格に5%を乗じて計算した金額を控除した金額により評価するとともに、当該控除した金額を当該相続または遺贈により同族株主が取得した当該会社の議決権のある株式の価格に加算して申告することを選択することができることとする。

無議決権株式の評価額=A×0.95

議決権のある株式への加算額=(A×無議決権株式の株式総数×0.05)=X

議決権のある株式の評価額=(B×C+X)÷C

  • A:調整計算前の無議決権株式の一株当たりの評価額
  • B:調整計算前の議決権のある株式の一株当たりの評価額
  • C:議決権のある株式の株式総数

自社株の買取り

①自社株の買取りとは

後継者が社長から自社株を相続することにより、自社株の評価額が高く相続税も高額となるが、自社株は売却できない上、納付する現金もなく、遺産分割資金は必要となるなどといった自社株相続のトラブルが発生することがあります。

そこで、会社が自社株を買い取る対策が考えられます。

②自社株買取りの留意点

会社が自社株を買い取る際には、いくつかの留意点があります。

a)売買の価格

商法上、買取り価格の規定はなく、相続人と会社との話し合いで決められる。目安としては相続税の評価時点の価格がある。

b)手続き要件

特定の者からの買取りについては、株主総会を開き特別決議(発行済株式総数の過半数以上の株式を有する株主の出席により株主総会を開催し、その3分の2以上の同意を得て決議すること)により決定する必要がある。

③生命保険を活用した自社株の買取り

自社株の買取り資金として生命保険を活用する。保険金額は、買取り予定額の約16倍の金額を用意します。

法人税の負担がある場合には、法人税の実効税率を36%とすると、1.6倍の準備が必要となります。

後継者は、相続財産の自社株評価額を計算し、死亡退職金・弔慰金並びに個人で加入していた生命保険などを加え相続税を計算し、相続税の納付金額や、後継者以外の法定相続人の代償分割資金を決定します。

そのための資金として自社株を会社に売却し資金準備を行います。

なお、非上場株式の譲渡時は、20.315%課税になっています。

次に生命保険のプラン例を見てみることにしましょう。

ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。

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