シナリオとそのシナリオの生起確率
それでは、シナリオとそのシナリオの生起確率を考慮してみましょう。
例として、以下の3つのシナリオを考えます。
- 経済が上向く場合のリターンとその確率
- 現状維持の場合のリターンとその確率
- 悪化した場合のリターンとその確率
これらのシナリオをもとに、期待リターンを計算することができます。
- 経済が上向く場合のリターンとその確率
経済が上向く場合、企業業績や投資環境が向上し、株価も上昇する傾向があります。
このシナリオでは、好景気を背景にした利益拡大や新規投資により、リターンが高くなることが期待されます。
ただし、上向く確率は、経済指標や市場の状況によって変動するため、適切な予測が求められます。
- 現状維持の場合のリターンとその確率
現状維持のシナリオでは、経済状況が大きく変わらず、企業業績も概ね横ばいが続くことが想定されます。
この場合、リターンは比較的安定し、大きな変動は少ないと考えられます。
現状維持の確率は、経済の安定性や政治的要因など、多くの要素に影響を受けるため、注意深く見極める必要があります。
- 悪化した場合のリターンとその確率
悪化したシナリオでは、経済の停滞や不況により、企業業績が悪化し、株価も下落することが予想されます。
このような状況下では、リターンが低下するリスクが高まります。
悪化する確率を評価する際は、国内外の経済指標や政策変動、市場の心理状況など、幅広い要因を考慮することが重要です。
しかし、現実に使用する場合、各数値をどのように求めるのか、シナリオのパターンが3つで十分かどうか、など、さまざまな問題が生じます。
そのため、予測の限界を理解し、センスを磨くことが重要です。
平均の計算方法を誤解している
また、多くの人が「データの合計÷データの数」という平均の計算方法を誤解しています。
これは記述統計における平均であり、あくまで入手したデータそのものの平均に過ぎません。
統計学の最も重要な役割は推論であり、これを支えるのが推測統計学です。
推測統計学では、得られたデータをもとに全体にどのようなことが言えるのかを考えます。
しかし、実際には真の平均を算出することはできず、どこまでいっても推定値に過ぎません。
そのため、誤差の範囲を抑えることが重要です。
記述統計と推測統計における平均は異なる概念ではありませんが、その定義が異なります。
推測統計学における平均と期待値は同一の概念であり、言葉が違うだけです。
「違う言葉で同じ概念を語る」ことが事象を複雑化させる一因です。
特に投資の世界では、統計学的な知識が重要であるため、用語の誤解や混乱が投資判断に影響を与える可能性があります。
これに関する具体的なエビデンスは、様々な文献や研究で確認できます。
例えば、金融や投資に関する教育や啓発活動が行われている理由の一つとして、投資家が統計的知識やリスク管理に関する正確な理解を持つことが挙げられます。
また、金融リテラシーに関する研究も参考になります。
これらの研究では、金融リテラシーが低い人ほど、投資判断やリスク管理に誤りが生じやすいことが指摘されています(例: Lusardi & Mitchell, 2014; Van Rooij, Lusardi, & Alessie, 2011)。
これらの研究から、統計学の概念や用語の誤解が投資の世界において問題となる可能性があることが示唆されています。
そのため、正確な理解と用語の使い分けが重要であることが分かります。
参考文献
- Lusardi, A., & Mitchell, O. S. (2014). 金融リテラシーの経済的重要性: 理論と証拠. 経済文献ジャーナル, 52(1), 5-44. この研究では、金融リテラシーが経済的な意義を持つ理由とその証拠を検討しています。著者らは、金融リテラシーが高い人々がより賢明な金融決定を下し、リスク管理に成功する傾向があることを示しています。
- Van Rooij, M., Lusardi, A., & Alessie, R. (2011). 金融リテラシーと株式市場への参加. 金融経済ジャーナル, 101(2), 449-472. 本研究では、金融リテラシーが株式市場への参加にどのように影響するかを調査しています。結果として、金融リテラシーが高い人びとは株式市場に参加しやすく、その結果、より良い投資成果を達成する可能性が高いことが明らかにされています。