
韓国から考える「夢」と世界の変化
私は今、韓国にいます。メディカル・ツアーを停止して以来ですから、およそ3年ぶりです。
24歳(1987年)のときに始めた貿易がきっかけで、これまでに韓国を訪れた回数は、おそらく70回を超えたでしょう。
グローバリズムが加速する中で、韓国の実質GDPは、かつて318,971(単位10億ウォン)だったものが、2017年には1,554,789(単位10億ウォン)と、およそ4.87倍にまで増えました。
しかし、その内側では、グローバル投資家たちに強く支配された経済構造が進行している国だとも言えます。
日本も同じ傾向が目に見えて強まりつつあり、同様の構造に取り込まれていく可能性は決して低くないと感じています。
だからこそ、「もしそうなったとしても慌てないために」――私は韓国に度々足を運び、その変化を自分の目で確かめてきました。
先ほどまで東大門を3時間ほど歩き回り、ホテルに戻ってきたところです。ロビーでiPadを使っている人の姿を見ていたら、なぜか無性に書きたくなって、この文章を書き始めました。
今回は、そこから派生して浮かんできた2つのテーマについて書いてみたいと思います。
大きな価値を生み出す「夢」とコミットメント
最初のテーマは、昨日クライアントから届いたフィードバックがきっかけです。
彼女はある課題を抱えていました。その相談内容は、他のクライアントの悩みとも重なっており、私自身にとっても長年のテーマでもあります。
それは、「大きな夢を実現する」ということについてです。
世の中には、大きな夢を口にしながら、行動はまったく別方向に向かっている人も少なくありません。
別の言い方をすれば、口先だけで夢を語る「妄想家」と言ってもいいかもしれません。
実際、夢を現実に変えることは、簡単なことではありません。
「実現できるようなことは、夢ではない」などと言う人もいます。つまり、「どうせ無理だ」と心のどこかで思っている理想を、夢と呼んでいる状態です。
ただし、どのような形であれ、本気で夢の実現に取り組む試みは、大きな価値を生み出すプロセスにつながります。
大きな夢を叶えた人たちの共通点
夢を実現させた人たちの話を丁寧に聞いていくと、ある共通点が浮かび上がります。
それは、自分のこと以上に「他者」のことを気にかけているという姿勢です。
利己的な態度をとらないこと――これが、大きな夢の実現に深く関わっているように見えます。
夢を追いかけるプロセスは、自分のためだけでなく、友人や知人、家族、さらには社会に対しても良い刺激をもたらします。
健全な夢は、その人に活力を与えるだけでなく、周囲の人間関係や環境にも、静かな変化を起こしていきます。
夢は「誓約(コミットメント)」を生み出す
夢を言葉にして宣言することには、ひとつ重要な効用があります。
それは、自他ともに強い誓約(コミットメント)を生み出すということです。
たとえば、起業家が困窮に陥るとき、その多くは外部環境よりも「自己発生的な要因」によるものです。
だからこそ、コミットメントは意思決定の際の、極めて重要な要素(ファクター)になります。
もし「自分自身のためだけ」に仕事をしているとしたらどうでしょうか。
コミットメントは弱く、困難に直面したときに、簡単に逃げ出してしまうかもしれません。
一方で、大きな夢の実現に本気で取り組んでいる場合はどうでしょうか。
今まで不可能だと思っていたことに、もう一度チャレンジする力が湧いてきます。
夢を実現させるためには、そのようなコミットメントが重要なエレメントになるからです。
そのとき、最大の障壁になるのは「外部の状況」ではなく、自分自身を疑う心です。
自分の能力を疑い、経験を疑い、最後には自分そのものを疑ってしまう。
「夢」がすり替わっていくプロセス
子どもの頃、私たちはもっと大きな夢を見ていたはずです。
そして、本気で叶えようとしていたはずです。
ところが、年齢を重ねるうちに、夢を少しずつ下方修正するようになり、
やがて「夢」という言葉そのものを口にしなくなっていきます。
気づけば、
- 夢が「体のいい目的」にすり替わり
- それがやがて「目標」という言葉に置き換えられ
- 最終的には「自分を変えることにすら自信が持てない」状態に陥る
ということが起きてきます。
もし、この流れにどこか心当たりがあるとしたら、
あなたは今、自分でも気づかないうちに間違った方向に歩かされているのかもしれません。
なぜなら、本来もっとも難しいのは「自分を変えること」だからです。
「自分を変える」と「世界を変える」をめぐる誤解
よく聞かれる考え方に、
「自分を変えれば世界が変わる」
というフレーズがあります。
これは、本来はごく限られた高い視点――いわゆるメシア的な存在の思想を、自己啓発レベルに引き下ろして語ってしまった現象とも言えます。
「世界を変える > 自分を変える」
「世界を変える < 自分を変える」
という単純な図式レベルで語られがちですが、さらに俯瞰すれば、
「自分を変える = 世界を変える」
という脱構築(デコンストラクション)に行き着きます。
ただし、現代人がいきなり「自分を変える」という入り口から入ってしまうと、
いつまでたっても最終地点に到達できない危険があります。
情報過多の時代に生きる私たちは、あらゆる方面からインプットされる価値観や正しさにさらされており、
その状態で「悟りのプロセス」のような道をトレースしても、かえって心の収まりがつかなくなってしまうことがよくあります。
たとえば禅寺の修行カリキュラムに参加して、
その場ではすっきりしたように感じたのに、しばらくすると余計に落ち着かなくなってしまった――
そんな話は決して珍しくありません。
もっとも不確定な存在である「自分」、さらに縁によって刻一刻と変化していく「心」と真正面から向き合おうとするのは、
地図も標識もない未開の地に、いきなり一人で放り出されるようなものです。
もちろん、それでもあえてそうした旅に出てみたいという人を無理に止めることはありません。
ただ、本来いるべき環境に戻ってこられなくなるリスクもあるため、個人的にはあまりお勧めはしていません。
大きな夢を「確実に」実現するための視点
では、どうしたら大きな夢を実現することができるのでしょうか。
そのためのひとつのヒントは、
子どもの頃の感覚に近づく努力をすること
です。
自分=世界、という感覚
ハーバード大学の発達心理学者ハワード・ガードナー氏は、幼児の自我について次のように述べています。
「幼児は全面的に自我中心的(エゴセントリック)であるというのは、自分のことだけを利己的に考えていることではなく、逆に、自分自身のことを考えられないという意味である。自我中心的な子供は自分以外の世界と自分自身を差異化できない。他人または客体から自分自身を分離していないのである。そこで、他人は自分の苦痛や快楽をともにしている、自分のもぐもぐ言うことは必ず理解されるだろう、自分の展望はすべての人と共有されている、動物や植物さえ自分と意識を共有していると感じるのである。(中略)人間の発達の全コースは、自我中心性の連続的な減少と見なされる。」
つまり、子どもは「自分=世界」に近い状態にあるということです。
その感覚に少しでも近づいていくことができれば、
- 大きな夢に向かって全力で取り組むことが自然になり
- その姿に触れた周囲の人もまた、応援したくなり
- 結果として、自分自身が変わったかのように感じられる
という循環が生まれてきます。
逆に、「世界を変えること」から意識を離し、「自分を変えること」ばかりに目を向けてしまうと、
あらゆることが不可能に思えてきて、「どうせ変われない」という感情に絡め取られてしまいます。
それは偶然ではなく、起こるべくして起こる現象です。
子どものように「問い」を投げかける
子どもは、世界に対してよく質問を投げかけます。
ときに、大人でも答えに困るような質問を平気でしてきますが、そこには本質を突いたものも少なくありません。
一方、経験を重ねた大人は、浮かんだ問いを自分の中だけで処理しがちです。
それが思考を磨く方向に働くこともありますが、多くの場合は、自分を納得させるための材料集めに使われてしまいます。
「億万長者メーカー」とも呼ばれるダン・ケネディ氏は、こんな質問を挙げています。
子どもはいろいろなことに興味を持ち、たくさんの質問を大人たちに投げかけてきます。しかし、成長していくうちに、慢心や怠け心、忙しさにかまけて質問することをやめてしまいます。とても残念なことです。
今回は一般的に使える質問をいくつかお教えしておきましょう。これから挙げるものは、特に私が気に入っているものです。
- 自分自身のモチベーションをどのように創り出していますか? または、どのようにモチベーションを持続させていますか?
- もしあなたが今の知識を持ったまま最初から始めるとしたら、どこをやり直したいですか?
- 昨年1年間で、ビジネスもしくは経済の分野でした一番の発見は何でしたか?
- 私は「X」をビジネスにしています。もしあなたが同じ分野にいたら、どうやって他社と競争し、マーケットを独占しますか?
- あなたがビジネスをする上で最も恐れている3つのこと、そしてあなたの成功を脅かすかもしれない3つのことを教えてください。また、それが起こったときはどのように対処していますか?
- 人生で一番がっかりしたことは何ですか? また、同じことが起きないように気をつけていることは何ですか?
- あなたと同じビジネスの分野で、あなたが他の人よりも抜きん出ていると思うことは何ですか?
これらの質問を自分自身に向けてみるだけでも、
これまでとは違う行動や選択が見えてくるはずです。
さらに、もしこうした質問を「すでに成果を出している人」に投げかけ、
その回答を直接聞くことができたとしたら――。
あなたの行動は確実に変わり、未来の輪郭も変わっていくでしょう。
自分と、成功者への適切な質問は、大きな夢を実現するための重要なエレメントのひとつです。
自分が生きた証を、この世界に残すということ
少し大げさな言い方に聞こえるかもしれませんが、
「自分が生きた証を、この世界に残す」という視点は、突破口を開く思考にもつながります。
通常よりもはるかに高い目標を設定すると、
「今まで通りのやり方」ではどうにもならないことがはっきりします。
そのとき、自然と新しいやり方、新しい関わり方を探さざるを得なくなります。
それが、結果的にあなたの世界を少しずつ変えていきます。
では、どうすれば自分が生きた証をこの世界に残すことができるのか。
そのことについては、続きとして、あらためて整理してみたいと思います。
ではまた。



