
理論上の意思決定は本来合理的であるべきですが、その心理状態によっては、人はしばしば合理的とはいえない意思決定をします。
この非合理的な意思決定は、貯蓄、消費、借り入れ、保険加入など、生活のさまざまなシーンで起こり得ます。
個人の思考プロセスには、バイアスが大きく関与しているからです。
バイアスとは類似性、つまり、個人の体験や経験に基づいて形成された考え方の癖といったところでしょうか。
個人の意思決定におけるバイアスには、一定のパターンがあるとする仮設があります。
そう仮定して分析し研究した結果導き出された理論もあり、行動ファイナンス理論と呼んでいます。
この理論は、合理的な意思決定が行えるように導く1つの手段として用いられています。
損したくないという気持ちが勝っている?
代表的なバイアスは、なんといっても収益に比べて損失を過度に嫌う「損失回避性」でしょう。
「人はそれぞれが持つ相対的な評価基準である参照点を基準として利得に対してよりも損失に対してより多く価値が減るという判断をする」ープロスペクト理論ー
このプロスペクト理論が行動ファイナンス理論の中核となっています。
現状維持を好む
環境が変化し、望ましくないアセットアロケーション(複数の異なった資産に配分して運用する)にもかかわらずそれを変更しようとしない。
また、身近に感じる日本株には多く投資するが、新興国はじめ馴染みのない他国の株式や債券にはあまり投資しようとしない。
このようにカントリーバイアスなどを誘発するものが「現状維持バイアス」です。
未来の価値よりも目の前のことが大事
現在の小さな利益に目を奪われ、将来の中長期的な利益を逃してしまう。
現在の低いコストに目を奪われ、将来の高いコストを見逃す双曲割引的な考え方をしてしまう。
メリットがだんだん減少していき、メリットがなくなることがわかっているのに、思わず利用してしまう。
これが「現状志向バイアス」です。
将来金利が高くなる段階型金利ローンなどが代表的です。
今は割引率が高くても将来に向け確実に割引率が低下することがわかっていても、どうしても選択せずにはいられないわけです。
意味もなく中間的なものを選んでしまう
人は与えられたものの中で、さしたる理由もなく中間的なものを選んでしまう傾向があります。
これはある意味、「極端性を回避する行動」ともいえます。
例えば、ハイリスク、ミドルリスク、ローリスクの金融商品を提案された場合、ミドルリスクの商品を選択する傾向が強です。
本質的な違いを吟味して選択したわけではなく、あくまでこの三種類の金融商品を比較した中での相対的評価のみで決めてしまうわけです。
自分のリスク許容度、現在の環境(仕事や居住空間など)、商品そのものの特性に基づくものではありません。
したがって、結果的に誤った選択をしてしまう可能性が高いです。
代表的という言葉に弱く、近道(ショートカット)が好き
何かを選択するときに、十分な分析をせずに特定の特徴や記憶をよりどころとして簡単に判断してしまう傾向があります。
ものごとの一部分を見て全体を判断してしまう「代表性バイアス」です。
また特定の状況を判断するときに関連の記憶を元に判断してしまう「近道選び」というバイアスもあいます。
根拠のない動機を作りたがる
家計の収支を食費、娯楽費といったように分類するように、お金に独自のカテゴリーを作って、その中で相対的に判断してしまう傾向があります。
合理的ともいえる方法ですが、使い方を誤ると悲惨です。
例えば、ギャン ブルなどで得たお金を、あぶく銭というカテゴリーに分類する人は多いと思います。
ですから、パッと使ってしまうわけです。
ところが、ギャンブルを職業にしている人はそうした行動はしません。
それを職業で得たお金と認識しているので、むやみに浪費したりはしません。
このような独自分類性が「メンタル・アカウンティング」です。
フレーミング
また、特定のフレーム(枠組み)を作って、それで物事を判断する傾向もあります。
たとえば、消費者金融のCMだったでしょうか。
「10万円を1カ月借りて、利息はわずか500円玉三枚」というキャッチフレーズを聞いたことがあると思います。
一見すると、とても安い利息に感じます。
なぜなら、10万円と500円玉という「現金の価値」というフレームにとらわれてしまうからです。
これを実際に計算してみると「年利換算で18%」という非常に高い金利です。
こうしたバイアスが、自覚のないまま常に働いていることを認識しておいてください。
ではまた。