
ケースの背景──「誰からも好かれる人」の内側にあったもの
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※ 医療的診断ではありません。セルフケアの参考情報としてご活用ください。
彼女と最初に出会ったのは、私が理事を務めていた一般社団法人のイベントでした。初対面の印象は、とても社交的で、誰に対しても朗らかに接することのできるタイプ。周囲の人からも好感を持たれる、場を明るくしてくれる存在でした。
しかし、対話を重ねていくうちに、その印象が「表の顔」にすぎないことが見えてきます。彼女自身が一番よく分かっていました。
「本当は、あまり社交的じゃないんです」「でも、そうしていないといけない環境で育ってきてしまって…」
彼女は、自分が“演じている”ことを百も承知のうえで、その役割を続けてきました。家庭環境や周囲の期待に応えるために、「無理にでもそう振る舞わなければならない」と感じながら。
「演じること」が生存戦略になっていた
人は誰しも、社会のルールから完全に外れて生きることはできません。特に、周囲との関係性を敏感に感じ取りやすい人ほど、「外されないようにすること」に多くのエネルギーを割くようになります。
彼女は、著名な実業家の家庭に生まれ育ちました。その家には、その家なりの「こうあるべき」という暗黙のルールがあり、それを守ることが「生きていくための条件」として染み込んでいたように思います。
やがて彼女は母親という立場になり、「ちゃんとしたお母さんでいなければ」「子どものために」という思いが、さらに彼女を「社交的で、きちんとした自分」を演じる方向へと駆り立てていきました。
私たちは多かれ少なかれ、社会のルールの中では「本当の自分」だけでは立っていられないことが多いものです。それでも、その事実に気づかないまま、それを当たり前として受け入れてしまうと、いつの間にか「どれが本来の自分だったのか」が分からなくなってしまいます。
「安定」を選んだはずが、離婚を機に「起業」へ惹かれていく
実業家の家に育った彼女が選んだのは、そのイメージとは逆方向の「安定」です。堅実な道を選び、専業主婦として家庭を守る生き方を歩んできました。
ところが、離婚をきっかけに状況が変わり始めます。経済的な自立の必要性もあり、同時に「自分の力で何かを始めたい」という思いが芽生え、「起業」という言葉に強く惹かれていきました。
そこから、彼女の新たな苦悩が始まります。
やりたいことを探して、資格取得も含めて五つもの習い事に通い始め、さらにネットワークビジネスにも手を伸ばしていきました。「何かを始めたい」「このままでは終われない」という焦りが、かえって余計な問題を生み出していたように見えました。
情報と選択肢があふれる時代に、「探すこと」にエネルギーのほとんどを使ってしまう典型的なパターン。その渦中に、彼女はすっぽりとはまり込んでいたのです。
時間の現実──「月10時間」のテーブルに、何を載せるのか
起業に限らず、新しいことを始めるときに避けて通れないのが、時間の問題です。彼女の現状を具体的に確認していく中で、タイムスケジュールを一緒に棚卸ししてみました。
その結果見えてきたのは、「起業準備に充てられる時間は月におよそ10時間程度しかない」という現実でした。小学生の男の子をひとりで育てている状況を考えれば、ある意味では当然とも言えますが、それにしてもぎりぎりのスケジュールです。
いくら本質的にマルチタスクに優れた「母親」という存在であっても、
- 家事・育児・学校行事
- 地域や学校との付き合い
- 自分のメンテナンスの時間
これらをすべてこなしながら、「習い事5つ+ネットワークビジネス+起業準備」を同時進行させるのは、さすがに無理があります。
当時の私は、「まずタイムスケジュールを再構築し、起業準備に充てる時間を意図的に確保する必要がある」と考えました。そして、それを日常の中に埋め込んで習慣化していくことが不可欠だと感じていました。一般的に、新しい行動が習慣として定着するには、およそ60〜70日程度の繰り返しが必要だと言われています。
「専業主婦」と「起業家」の間にある、思考のギャップ
当時の私は、専業主婦としての生活と、起業家としての思考モードとのあいだには、とてつもないギャップがあると感じていました。バリバリの現役でビジネスを回している人と話していても、価値観や時間感覚に大きな違いを感じることがあります。それが、専業主婦から起業を目指すとなると、「大きな隔たりがあるのは当然だ」と、どこか決めつけて見ていた部分があったのだと思います。
その決めつけが、セッション開始当初の私自身のイライラにもつながっていました。「なぜ伝わらないのか」「なぜ動けないのか」と、相手の中に理由を求めてしまいそうになる瞬間が、何度もありました。
今振り返ると、それは私自身の中にある前提──「専業主婦のままでは起業は難しい」「ビジネスの世界の思考に合わせてもらわなければならない」といった、無意識の物差しから来るものだったと分かります。
「断らなくてよかった」と思わせてくれた、予想外の学び
このケースをお引き受けすることになった背景には、「大変お世話になった方のご友人だから」という事情もありました。正直なところ、最初は「自分に務まるだろうか」と迷い、通常ならお断りしていたかもしれません。
それでも最終的に引き受ける決断をし、彼女と向き合い続けたことは、私自身にとって大きな転換点になりました。
「専業主婦の方を起業へと導く力は、自分にはない」と、どこかで決めつけていた私にとって、彼女との対話は、まさに「新しい師匠」との出会いのようなものだったからです。
彼女の迷い方や、選び方の癖、そして少しずつ自分の感覚を取り戻していく過程は、「人が社会的な役割から一度離れ、もう一度自分の足で立ち直ろうとするとき、内側で何が起きているのか」を教えてくれる、貴重な教材のようでもありました。
※上記はあくまでも一つの事例であり、絶対的な成果や効果を保証するものではありません。
あなたへの問いかけ──「演じている自分」と、そろそろ向き合ってもいい時期かもしれない
このケースは、一人の女性の物語であると同時に、私たち誰もが少なからず抱えているテーマでもあります。
もし今、あなた自身が
- 本当は社交的ではないのに、「そう振る舞うこと」が当たり前になっている
- 安定を選んできたはずなのに、どこか物足りなさや違和感を抱えている
- やりたいことを探し続けているうちに、かえって自分が見えなくなってきた
そう感じているなら、「演じている自分」の奥にある、本当の気持ちや欲求に、そっと光を当ててみるタイミングなのかもしれません。
それは、これまでの生き方を否定することではなく、
「この世界のルールの中で、これからどんな自分として立っていきたいか」を、あらためて選び直すプロセスです。
こうした「対話と気づき」を土台に、一人ひとりが自分の感性と現実のテーブルを結び直していきましょう。
もし、あなた自身のケースファイルを開いてみたいと感じたときは、どうぞ一度ご相談ください。



