「資産も実績もあるのに、不安なんです」──著名教授がリタイア後に見失っていたもの
私のもとを訪ねてこられたのは、某分野で著名な大学教授。資産は十分以上、一般的な基準から見れば、「何ひとつ心配する必要がない」ように思える条件がそろっています。それにもかかわらず、彼はこう言いました。

「リタイアした後の人生をどう設計すればいいのか、分からないんです。」

正直なところ、最初の印象は「余計な悩みを自分で作り上げているだけではないか」というものでした。しかし、話を聞き進めるうちに、そこには単なる贅沢な悩みとは違う「ズレ」が存在していることが見えてきました。

人並み以上の実績と資産、なのにセルフイメージが低い

彼は、研究の世界で十分な実績を残してきた人でした。それなのに、自分自身の評価となると、妙に控えめで、自分の価値を低く見積もる傾向がありました。

このタイプは、実は著名な方ほど少なくありません。セルフイメージが低い、というよりも、物事をネガティブに解釈しやすい。成果や評価を「たまたま」「まだ足りない」と片づけてしまいがちで、自身の強みを素直に引き受けることができないのです。

彼の場合も、

  • 「自分にできたことは、誰にでもできることだ」
  • 「たまたま環境に恵まれていただけだ」
  • 「リタイア後は、役に立たない人間になるのではないか」

といった言葉が、しばしば口をついて出てきました。外から見れば十分すぎるほどの資産と実績があるのに、内側の物語が追いついていない状態だったのです。

「2、3アドバイスすれば、自力で何とかしていけるだろう」と感じた私は、当初、長期的なコンサルとして引き受ける予定はありませんでした。

「コンサルタントになりたい」──魂を揺さぶった一言

ところが、セッションを重ねていくなかで、彼の口からこんな言葉が出てきました。

「コンサルタントを目指してみたいんです。」
「マーケティングも、きちんと学び直したいと思っています。」

その瞬間、私の中で何かが反応しました。単に資産運用やリタイアメントプランを整えるのではなく、自身の経験と知恵を、次のステージで「他者のために」活かしたいという意思が垣間見えたからです。

その一言に、私は触発されました。「この人となら、コンサルの本質やマーケティングの骨格について、かなり深いところまで共有できるかもしれない」と感じ、そこから本格的にアドバイスをしていくことにしました。

第1回セッション──課金方法とマーケティングの本質、コンサルの「肝」

1カ月後に行ったセッションでは、主に次のようなテーマを扱いました。

  • コンサルティングの課金方法(時間単価ではなく、価値ベースで設計する考え方)
  • マーケティングの本質(「売り込む」ではなく、「適切な相手と適切な価値でつながる」こと)
  • コンサルの「肝」(情報やノウハウではなく、「視点」と「問い」を提供する仕事であること)

彼は、もともと視点の高い方でしたから、話の理解は驚くほど早く、こちらの説明に対してすぐに自分の領域に置き換えながら考えている様子が印象的でした。

第2回セッション──「年間350万円のコンサルフィー獲得」と、さらりと書かれた報告

さらに1カ月後、第2回目のセッションで、事前に送られてきた行動報告書に私は目を疑いました。

報告書の一行に、何気なくこう書かれていたのです。

「年間350万円のコンサルフィー獲得。」

あまりにもさらりと書かれていたので、一瞬見落としそうになりましたが、改めて確認すると、すでにコンサル契約を取り付けている。こちらとしては、「さすが」としか言いようがありませんでした。

もともと、めちゃくちゃ視点の高い方ですから、やってみれば結果が出るのは当然とも言えるのですが、最初のあの控えめな印象からは想像できないスピード感でした。

そこで、彼の目標をいったん5億に上方修正することにしました。「現実離れした夢」ではなく、「この人なら十分に射程に入る数字」としての5億です。

終了間際の一言──「これから20%歩合でコンサル決めてきます」

第2回目のセッションを終え、まとめに入ろうとしたタイミングで、彼がさらりと言いました。

「今日は、これから建築会社に行って、20%歩合でコンサル決めてきます。」

こちらが何かを指示したわけでもなく、自らのネットワークと専門性を活かして、次のチャレンジに踏み出している。その姿は、もはや「リタイア後の不安に悩む教授」というより、「次のステージへ進み始めた実務家コンサルタント」の表情でした。

※上記はあくまでも一つの事例であり、絶対的な成果や効果を保証するものではありません。

あなたへの問いかけ──「実績」と「自分の物語」は、同じ高さにそろっていますか

このケースは、一人の著名教授のエピソードにすぎませんが、その裏には、次のような問いが隠れています。

  • 客観的な実績や資産の水準と、自分自身をどう評価しているかのあいだに、ギャップはないか。
  • 「もう十分やってきたはずなのに、なぜか満たされない」という感覚の正体は何か。
  • リタイアや節目を「終わり」と捉えるのか、「次の役割に移るタイミング」と捉えるのか。

もし今、あなた自身が

  • 数字や肩書きだけ見れば恵まれているはずなのに、どこか落ち着かない
  • リタイア後の時間をどう使えばいいのか、ぼんやりとした不安がある
  • 自分の経験や知恵を、次の世代や社会にどう活かせばよいか迷っている

そんな思いを抱えているとしたら、一度立ち止まって、

「自分の実績」と「自分について語っている物語」の高さは、同じだろうか。

と問いかけてみてもいいかもしれません。

資産やキャリアの話だけでなく、「これからどんな役割を生きたいのか」という物語のレベルを含めて、丁寧に言葉にしてみましょう。

もし、リタイア前後の時間を「次のステージ」へつなげたいと感じたときは、どうぞ一度ご相談ください。

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