
今回は、企業保険の役割やその経理処理方法などについて解説しよう。
- 死亡退職金・弔慰金支給
- 生存退職金の支給
死亡退職金、弔慰金支給を目的とする企業保険
死亡退職金、弔慰金を準備する方法の一つに、企業保険の保険金を利用する方法がある。
また、従業員・役員が死亡保障を充実させるための個人的に利用できる企業保険もある。
例えば、総合福祉団体定期保険や団体定期保険(Bグループ保険)などがある。
この2つの違いを以下のようにまとめてみた。
総合福祉団体定期保険とBグループ保険の比較
契約形態 | 総合福祉団体定期保険 | Bグループ保険 |
契約目的 | 死亡退職金・弔慰金の支給 | 自助努力による死亡保障の充実の支援 |
契約者 | 企業 | 企業 |
保険料負担者 | 企業 | 従業員・役員 |
被保険者 | 従業員・役員 | 従業員・役員 |
保険金受取人 | 従業員・役員の遺族また企業 (被保険者の同意が必要) | 従業員・役員の遺族 |
保険料の税務について
上記のように契約形態が異なるため主契約の保険料および特約保険料の税務上の扱いが違ってくる。
Bグループ保険の場合、契約者は企業で、保険料負担者は従業員・役員になる。
そのため企業の損益には一切関係ない。
課税関係 | 総合福祉団体定期保険 | Bグールプ保険 |
企業の損益 | 保険料は支払保険料または福利厚生費として損金計上 | 課税関係は生じない(従業員・役員が保険料負担者であるため) |
従業員・役員の所得 | 課税関係は生じない。ただし役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者とする契約のばあいは給与として課税 | 従業員・役員の支払った保険料は生命保険料控除の対象となる |
受取契約者配当の税務
総合福祉団体定期保険の場合、もしも契約者配当が発生した場合には企業が受け取る。
Bグループ保険の場合は、保険料負担者である従業員・役員が受け取る。
課税関係 | 総合福祉団体定期保険 | Bグールプ保険 |
企業の損益 | 受取契約者配当は雑収入として益金に計上 | 課税関係は生じない |
従業員・役員の所得 | 課税関係は生じない。 | 課税関係は生じない |
死亡保険金の税務
課税関係 | 総合福祉団体定期保険 | Bグールプ保険 | |
企業の損益 | 保険金が保険会社から直接遺族に支払われる場合 | 課税関係は生じない | 課税関係は生じない |
保険金が企業経由で遺族に支払われる場合 | 保険金は益金になるが、遺族に支払った死亡退職金や弔慰金は原則として損金計上(役員の死亡退職金などが適正額からみて課題であれば、課題部分は損金に算入できない | ||
従業員・役員の所得 | 死亡退職金として受け取る時 | みなし相続財産として相続税の課税対象「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある | 死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある |
弔慰金として受け取る場合 | 報酬月額の6カ月(業務上では36カ月分)までは相続税の非課税。それをこえる部分は死亡退職金として取り扱われる |
生存退職金の支給を目的とする企業保険
今度は、生存退職金の支給を目的とする企業保険の税務処理についてだ。
例えば、厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金などが該当する。
保険料の税務
保険料(以下「掛け金」という)は、企業が負担するが、従業員がその一部を負担することもできる。
課税関係 | 厚生年金基金 | 確定給付企業年金・確定拠出年金(企業型) |
企業の損益 | 法定福利費として、損金算入 | 退職金掛け金または福利厚生費として損金算入 |
従業員の所得 | 企業が負担した掛け金に対しては、課税関係は生じない。従業員が負担した掛け金は、社会保険料控除の対象となる | 企業が負担した掛け金に対しては、課税関係は生じない。従業員が負担した掛け金は確定給付企業年金であれば生命保険料控除、確定拠出年金であれば小規模企業共済など掛け金控除の対象となる |
受取配当金の税務
課税関係 | 確定給付企業年金 |
企業の損益 | 契約者配当として益金算入 |
従業員の所得 | 課税関係は生じない |
特別法人税などの税務
確定給付企業年金、厚生年金基金、確定拠出年金の年金積立金の残高に対して1.173%が特別法人税などとして課税される。
しかし、特別法人税などは、積立金の運用収益から直接控除されるため、企業には経理処理や課税関係は発生しない。
注意!特別法人税などは平成29(2017)年3月末日まで課税が凍結。
年金や一時金の給付の税務
年金や一時金は、年金積立金を預かる受託機関があり、そこから従業員やその遺族に支払われる。
そのため、企業に経理処理や課税は発生しない。
なお、従業員が掛け金を負担した場合は、受け取った年金や一時金から従業員負担分を控除した金額が、従業員の所得税の課税対象になる。
①年金受給の税務
- 受給権を取得した時点では、従業員には課税されない。
- 実際に年金を受給する場合、厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金はともに公的年金と同様に雑所得として課税される。
②一時金の税務
- 厚生年金基金の加算部分の年金は、年金に代えて一時金での受給を選択することができる。
- 確定給付企業年金、確定拠出年金も一時金での受給を選択できる。
- この場合の一時金は退職所得として課税され、退職所得控除を受けることができる。
- 確定給付企業年金、確定拠出年金を企業が解約する場合、年金積立金は従業員に返還される。
- 従業員が受け取った年金積立金の分配金は、原則として一時所得として課税される。
特定退職金共済制度の税務
特定退職金共済は、所得税法施行令に規定された退職金制度だ。
掛け金の税務
企業が負担し、掛け金は損金算入。従業員に課税関係は発生しない。
年金の税務
雑所得として、公的年金などと同様に控除を受けることができる。
一時金の税務
退職所得として、退職所得控除を受けることができる。
次回は、「生命保険の機能をうまく生かしてタイプに即して保障設計を行う」です。
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。