
株式投資は「上がれば嬉しい、下がればつらい」という単純な構造に見えますが、実際の悩みはもっと複雑です。
上がっても「まだ上がるかもしれない」と思って売れず、下がれば「戻るかもしれない」と思って切れない。
つまり、価格そのものよりも、判断の揺れがリターンを削る場面が多い。
カバード・コール(Covered Call Writing)は、そうした揺れに対して「自分の取り分の上限」を先に決めてしまい、その代わりに確定収益(プレミアム)を受け取る戦略です。
株を保有したままコールを売ることで、上昇余地の一部を手放し、横ばい〜小幅上昇局面での収益性を高める構造をつくります。
カバード・コールとは?
カバード・コールは、株式(現物)を保有しながら、同じ銘柄のコールオプションを売る(ライティングする)戦略です。
- 株(現物):上がれば利益が伸びる/下がれば損失が増える
- コール(売り):プレミアムを受け取れる/大きく上がると上昇分を渡す形になりやすい
この組み合わせにより、プレミアムが“先にもらえる収益”となり、結果として下落時の損失の一部を緩和しつつ、横ばい局面での総収益を改善しやすくなります。
戦略の本質:何を「もらって」、何を「渡す」のか
カバード・コールを理解するうえで大切なのは、メリット・デメリットを箇条書きで覚えることではなく、設計として何を交換しているのかを掴むことです。
- もらうもの:コールを売ることで得られるプレミアム(確定収益)
- 渡すもの:株価が大きく上がったときの上昇余地(利益の一部)
つまりこの戦略は、「上昇の上限」と引き換えに、「目先の確定収益」を得る設計です。これが納得できる局面で使えば、迷いが減ります。逆に、納得できない局面で使えば、後悔が増えます。
特徴1:収益性の向上(横ばい〜小幅上昇に強い)
メリット:プレミアムが収益に上乗せされる
株価が大きく動かない局面では、株のリターンが伸びにくくなります。そこでカバード・コールは、株価が横ばいでも、プレミアム分だけ収益が積み上がる可能性がある点が魅力です。
「値上がり益が取りにくい相場で、収益の入口を別に作る」──そういう発想です。
デメリット:大きな上昇局面の利益が削られる
株価がストライク(権利行使価格)を大きく超えて上昇すると、コールの買い手が権利を行使し、株を決められた価格で渡す形になりやすくなります。結果として、ストライクを超える上昇分の利益は取りにくくなります。
つまり、上昇局面で「取り切れなかった」という形の不満が生じやすい戦略でもあります。
特徴2:ダウンサイドの緩和(ただし“守る”ではなく“薄める”)
メリット:プレミアムが下落時のクッションになる
株価が下落したとき、受け取ったプレミアムは損失の一部を相殺する働きをします。ここで重要なのは、これは“保険”ではなく、損失のクッションだという点です。
- 株価が少し下がった:プレミアムが損失を相殺しやすい
- 株価が大きく下がった:プレミアムでは足りず、損失が普通に残る
デメリット:大きな下落には無力
株価が急落すれば、株の損失がプレミアムを容易に上回ります。カバード・コールは「下落を止める」のではなく、「軽くする」戦略です。ここを誤解すると、想定外に傷が深くなります。
特徴3:柔軟性(選べるが、迷いの原因にもなる)
カバード・コールは、ストライク価格と期限によって「上限をどこに置くか」「プレミアムをどれだけ取りにいくか」を調整できます。これは強みでもあり、同時に迷いの発生源にもなります。
ストライクの考え方
- 高いストライク:上昇余地を残しやすいが、プレミアムは小さくなりやすい
- 低いストライク:プレミアムは増えやすいが、上昇局面で早く上限に当たりやすい
期限の考え方
- 短期:回転は速いが、判断回数が増えやすい
- 長期:管理は楽になりやすいが、相場環境の変化に対して硬直しやすい
選べることは自由ですが、「自由」はしばしば判断疲れを生みます。だからこそ、先に設計思想(どの局面で、何と引き換えに何を得るか)を決めておくことが重要です。
具体例:100株保有+コール売りのイメージ
説明を分かりやすくするため、ある銘柄を100株保有しているケースを想定します(多くのオプションが100株単位で設計されるため)。
- 現物:100株保有
- 行動:一定のストライクのコールを1枚売る
- 結果:プレミアムを受け取る
結果のパターンは3つだけ
① 株価が横ばい(または小幅上昇)
コールは行使されずに終了しやすく、プレミアムがそのまま収益として残りやすい。カバード・コールが最も“気持ちよく機能する”局面です。
② 株価が大きく上昇
株の利益は出るが、ストライクを超えた上昇分は取りにくくなる。結果として「利益は出たのに、取り切れていない」という形になりやすい。
③ 株価が下落
株の損失が出るが、プレミアムが一部を相殺する。小さな下落なら軽くできるが、大きな下落では普通に負ける。
この戦略で一番大事な問い:上昇の上限を、納得して手放せるか
カバード・コールは、理屈で理解しても、感情で破綻しやすい戦略です。理由は単純で、上昇局面で「もっと取れたのに」という後悔が生まれやすいからです。
だからこそ、最初に確認すべきはここです。
- この銘柄は、上昇を最後まで取り切りたい銘柄なのか?
- それとも、上昇の一部を捨ててでも、収益の平準化を優先したい銘柄なのか?
この問いに答えが出ていないまま使うと、上がれば後悔し、下がれば「結局守れない」と感じ、どちらでも不満が残ります。逆に、答えが出ているなら、相場がどう動いても「設計通り」として扱いやすくなります。
まとめ:カバード・コールは「相場観」より「交換条件」の戦略
- 株を保有しながらコールを売り、プレミアムを受け取る戦略
- 横ばい〜小幅上昇局面で収益性が上がりやすい
- 下落は“薄める”が、“守る”わけではない
- 大きな上昇局面の利益は取りにくくなる(上昇の上限)
- 重要なのは「何と引き換えに何を得るか」を先に決めること
カバード・コールは、未来を当てるための道具ではありません。自分の取り分をあらかじめ定義し、判断の揺れを減らすための設計です。上昇の上限を受け入れられるとき、この戦略は静かに機能します。



