
効率的な資産バランスと不動産運用
アセットアロケーションの資産クラスを組み合わせたものをポートフォリオと言いう。
聞き慣れない言葉が多いと思うが、慣れてほしい。
言葉の意味がわからないと理論を理解することができないからだ。
例えば、金融経済学では、個人の富はその効用によって表現される。
その効用は、資産ポートフォリオから期待される収益率が高いほど、またリスクが小さくなるほど高くなる。
アセットアロケーションの目的
しかし、アセットアロケーションの目的は収益率の最大化ではない。
それを誤って解釈すると、とんでもない目に遭う。
なぜなら、金融経済学においては、リスクとリターンは負の相関関係にあるからだ。
どういうことかというと、収益性が高ければ高いほどリスクが大きくなり、リスクが大きければ大きいほど収益性は小さくなる。
このようにポートフォリオのリスクとリターンはトレードオフの関係にあるというわけだ。
つまり、一方を生かすためには、もう一方を犠牲にしなければならないことになる。
それ故に個人が選択する組み合わせは無数に存在するとも言える。
その中から個々に適したポートフォリオを選択するとなると、初心者には難しい。
それぞれ個人のリスク許容度(精神的なものも含む)、保有資産や負債状況などの要素を加味して考える必要もあるからだ。
さらに、それらを客観的に捉える力量も必要になる。
例えば、資産も所得も十分で、かつ投資に関して損失が生じてもあまり動じないような人であれば、よりリスクの高い資産への投資が可能だ。
その真逆の人であれば、投資を避けた方が無難だろう。
その時間を他に回した方が効率的だし、余計な不安を抱えなくても済むからだ。
しかし、トレードオフの例外もないわけではない。
トレードオフの例外
例えば、REITを組み込むとリスクが軽減されリターンも一定になる。
あるいはリスクが一定でリターンが増加する傾向もある。
なぜか?
REITは株式や債券とは異なる特性を持っているからだ。
株式などのリスクを中和する効果が期待できる。
こうした効果を「リスク分散効果」と言っている。
そもそも不動産には、株式や債券などのリスクを分散する効果がある。
それは大昔から知られていることだ。
だから、REITがその役目を果たすことは当然といえば当然なのだ。
別に改めて伝える程のことでもないが、知らない人がいると損をするのであえて加筆した。
ということで、ここでまた再度不動産のキャッシュフローについて解説しておこう。
不動産のキャッシュフロー
不動産を資産クラスという視点から見た場合、そのキャッシュフローは実に特徴的であることは既に述べた。
経済学では、キャッシュフローを生みだすものを資産と定義している。
また、そのキャッシュフローには、将来性と不確実性の2つの性質がある。
将来性がリターンで、不確実性がリスクだ。
この2つがキャッシュフローを生み出す要素になる。
キャッシュフローには、インカムゲインとキャピタルゲインの2種類のリターンがある。
もちろんゲインばかりでなく、損失が生じることもある。
そうしたゲインとロスの振れ幅をリスクというわけだ。
これらについても既に述べた。
では、不動産キャッシュフローの特徴はなんだろう?
不動産のアセットは4つ
まずアセットが4つに分類されるという特徴がある。
アセットとは何だったか覚えているだろうか?
わからない人は前に戻って読み返してほしい。
それがわからないと、この先の話が意味不明に思えるだろう。
アセットは、「エクイティとデット」これに実物資産と証券という2分類の組み合わせになる。
具体的には、
- エクイティ×実物資産
- エクイティ×証券
- デット×実物資産
- デット×証券
ということになる。
では一つ一つ見ていくことにしよう。
エクイティ×実物資産
これは賃貸ビルや土地などの実物不動産の。
デット×実物資産
これは住宅ローンや商業不動産担保ローンなどの一般的なローン。
エクイティ×証券
これは、先程登場したREIT。
デット×証券
MBS(住宅ローン証券化債権)、CMBS(商業不動産担保ローン証券化債権)。
このように不動産の資産クラスは、エクイティの実物資産とREITだ。
なお、デットのうちローンは負債にあたる。
ただし、住宅投資はその時価から住宅ローンの残存元本を差し引いた残りの部分がある場合は、資産にカウントされる。
※時価ー住宅ローン残存元本=資産にカウント
富の最大化を目的とする場合、不動産の特徴を十分に把握しておく必要がある。
なぜか?
富の大きさは資産の組み合わで粗決定する!?
個人の資産運用の結末は、資産を組み合わせた段階でほぼ決まってしまう。
ところが、富の最大化のみを資産運用の唯一の目的とすることはできない。
どういうことか、簡単に解説しよう。
「資金調達」と「相続」
- 結婚、出産、子供の進学といったライフイベント。
- マイカー購入、マイホーム購入といった選択。
- 定年後の生活設計。
- 離婚、倒産、転勤、災害、事故、入院、訴訟などの予期せぬでき事。
これらの資金調達を考慮した上で、資産の組み合わせを決めていかなければならない。
例えば、老後の資金不足で、自宅を担保にして銀行から生活費を調達しなければならない人もいると思う。
そこまで考慮した場合、戸建てとマンションではどちらが有利だろう。
また、賃貸ビルを保有するよりも、証券化してREITにした方が収益性がいい場合もある。
しかし、そのままで相続させたいという個人の思いもあるだろう。
そのようなケースでは、賃貸マンションやロードサイド店舗にして経営した方が、土地のままで保有するよりも収益性が向上する。
ただし、これはあくまでも課税の観点から見た場合だ。
しかしながら、大局的に捉えれば、こうした資金調達や相続の問題もキャッシュフローの一部に過ぎないだろう。
そもそも、相続は、世代間をまたぐお金の流れであり、資金調達は、負債を考慮したお金の流れだ。
つまり、世代間をまたぐ資産や負債を考慮したうえで最大化する。
ということが、アセットアロケーションの課題になるだろう。
日本人の場合、資産に占める土地の割合が非情に大きい。
したがって、差し当たってこれが今の大きな課題だと思う。
過去に地下が暴落して売却のチャンスを逃した人は多い。
しかし、このままの状態でいいのだろうか?
相続する毎に目減りしていくような環境下にあって、果たして国民が本当の意味での豊かさを手にできる日は訪れるのだろうか。
まとめ
わずか3.8%の宅地に70%近くの人口が集中しているという環境とともに預貯金や有価証券とは異なり、独自の特性を持つ不動産。
まったく同じというものは存在しない市場構造において、さらに複雑な権利関係が存在する。
また、取得・保有・譲渡などのさまざまな局面で税金が課される。
また計算の基礎となる価格にもいくつかの種類がある不動産という資産。
こうした複雑な事情が絡みあった中で、不動産を効率的な資産の一部として保有し続けることが簡単ではないことは想像がつく。
しかし、積極的な資産形成を試みる場合、不動産というアセットを組み込んでいく必要があることも確かだ。
有意義な資産形成をサポートしていく立場にある私たちは、こうした複雑な事情をよく観察し、クライアントの資産最大化に貢献できるよう常に精進と経験を重ねていく必要があるだろう。
次回は、不動産の投資分析と税金や収益計画のポイントについて解説します。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。