
アイアン・コンドルは「当てにいく取引」ではなく、「外さない設計」で組む
相場の話題は、どうしても「次は上か下か」という方向当てに寄りがちです。けれど、現実の多くの局面では、価格は大きく動かず、一定の範囲を行き来し続けます。ニュースや材料があっても、結果として“行って来い”になり、結局は元の水準に戻る。こういう時間帯は、想像以上に長く続きます。
アイアン・コンドルは、その「動かない時間」を前提に、利益が出やすい形に組み立てる戦略です。逆に言えば、大きく動く局面に乗るための戦略ではありません。相場の方向を当てる競技ではなく、相場が“外れ方をしにくい”枠を設計する。その発想が出発点になります。
まず全体像:4本のオプションで「安全な通路」をつくる
アイアン・コンドルは、コールとプットの“スプレッド”を左右に置き、価格がその間に留まるほど有利になる形をつくります。構成は次の4本です(満期・原資産は同一)。
- プットを1本売る(レンジ下側でプレミアムを受け取る)
- さらに低い権利行使価格のプットを1本買う(下落が想定以上のときの損失を限定)
- コールを1本売る(レンジ上側でプレミアムを受け取る)
- さらに高い権利行使価格のコールを1本買う(上昇が想定以上のときの損失を限定)
左右で「売り」を中心に置き、その外側に「買い」を置く。結果として、最大損失が限定された“両建ての売り戦略”になります。これがアイアン・コンドルの核です。
利益が出る条件はシンプル:満期に「真ん中にいる」こと
アイアン・コンドルの最大利益は、最初に受け取ったプレミアム(受取総額 − 支払総額)です。価格がレンジの内側に収まって満期を迎えれば、売ったオプションは価値を失い、受け取ったプレミアムが利益として残ります。
ここで重要なのは、利益の源泉が「値上がり」ではなく、時間の経過と、動かないことにある点です。価格が動かないほど、オプションの時間価値は削れ、売り手側が有利になります。
ただし「当たっても上限がある」ことを、最初に受け入れる
この戦略は、どれだけうまくいっても利益はプレミアム分で頭打ちです。これは欠点ではなく、設計上の条件です。「上限を受け入れる代わりに、勝ちやすい領域を取りにいく」。この交換条件を理解していないと、途中で欲が出て設計を壊します。
最大の誤解:「リスクとリターンが明確」=「安心」ではない
よく「最大損失が限定されているから安心」と言われますが、実務ではこの理解が危険です。確かに、裸の売り(ネイキッド)に比べれば損失は限定されます。しかし、それでも“短時間で最大損失に近づく”ことはあります。
アイアン・コンドルの怖さは、損失が無限ではないことではなく、損失が一定の形で“加速”することです。特に、次の局面で起こりやすくなります。
- 重要イベント前後(決算、要人発言、政策変更、地政学リスクなど)
- ボラティリティが上昇している局面(市場が不安を先に織り込みにいくとき)
- トレンドが発生しやすい相場(強い買い/売りが連続する)
つまり、アイアン・コンドルは「動かない相場が続く」という前提が崩れると、急に別の顔を見せます。勝ち方が“静的”なのに、負け方が“動的”になりやすい。ここを軽く見ないことです。
現場で迷いを減らすための見取り図:判断点は3つだけでいい
この戦略を「知識として」ではなく「運用として」扱うとき、判断ポイントを増やしすぎると必ず崩れます。最初に押さえるべきは3つです。
1)いまの相場は「動かない時間」なのか?
アイアン・コンドルは、方向性が出ている局面で使うほど苦しくなります。まずは相場がレンジに留まりやすい状況かどうかを確認します。ここで必要なのは予言ではなく、状況判断です。「材料が少ない」「イベントが遠い」「値幅が落ちている」など、動きにくい理由があるかを見ます。
2)レンジの幅は「あなたが耐えられる値幅」になっているか?
レンジを狭くすれば受け取りプレミアムが増えやすい一方、外れる確率も上がります。レンジを広くすれば勝ちやすいがプレミアムは薄くなる。このトレードオフは避けられません。ここで大切なのは、“プレミアムが魅力的に見える幅”ではなく、外れた時に自分の判断が崩れない幅を選ぶことです。
3)外れたときの「撤退基準」を事前に決めているか?
アイアン・コンドルは、外れたときに場当たり的に対応すると負けやすい戦略です。なぜなら、外れ始めた瞬間から、損失は“取り戻したい感情”を呼び込みやすいからです。だから、入る前に「どの水準で撤退するか」「どれ以上は粘らないか」を決めておく必要があります。
ここが曖昧だと、戦略ではなく願望になります。
具体例:価格が「一定の範囲にいるほど」利益が残る構造
イメージを掴むために、数字を単純化した例を置きます(実際の価格・プレミアムは市場で変動します)。
- 下側:プットを売る(権利行使価格 95)+ さらに下のプットを買う(権利行使価格 90)
- 上側:コールを売る(権利行使価格 105)+ さらに上のコールを買う(権利行使価格 110)
この場合、満期に価格が95〜105の範囲に収まっていれば、売ったオプションが価値を失いやすく、受け取ったプレミアムが利益として残りやすい。逆に、95を大きく割ったり、105を大きく超えたりすると、損失が出ます。ただし、外側の買いオプションがあるため、損失は一定で止まります。
ポイントはここです。
- 「当たったら大儲け」ではなく、「外れなければ積み上がる」
- 「外れたら即破綻」ではなく、「外れ方が一定以上になると損失が固定化」
この構造は、感情の扱い方と相性が出ます。日々の価格変動に揺さぶられやすい人ほど、実はこの戦略が難しくなる。見えているのは日々の揺れなのに、利益の源泉は“時間”だからです。
向いている場面・向いていない場面を、最初に切り分ける
アイアン・コンドルは、万能ではありません。むしろ、向かない場面ではきれいに負けます。だから、最初から切り分けてしまった方が運用が安定します。
向いている場面
- 重要イベントが近くにない(急変動の要因が薄い)
- 値動きが落ち着き、レンジが形成されている
- 「大きく動かないこと」に合理的な理由がある
向いていない場面
- 決算、政策、地政学など“跳ねる理由”が明確
- トレンドが発生している(高値・安値更新が続く)
- ボラティリティ上昇局面(市場が不安で振れやすい)
ここまで整理しておけば、戦略の成否を「腕」や「才能」に帰着させにくくなります。勝てない理由が“相場環境のミスマッチ”なら、修正すべきは自分の判断手順であって、自分の価値ではないからです。
まとめ:アイアン・コンドルは「相場を読む」より「相場に合わせる」戦略
アイアン・コンドルは、相場の方向を当てにいく戦略ではありません。相場が動かない時間を選び、その中で勝ちやすい形に整える戦略です。利益は限定される代わりに、条件が揃えば勝ちやすい。ただし、条件が崩れると損失が加速しやすい。
だからこそ、最初に必要なのはテクニックではなく、「この戦略が成立する場面かどうか」を見抜く視点です。数字を追うより先に、設計の前提を疑う。ここが揃うと、比較が「数字の勝負」ではなく「設計の勝負」に変わります。
次回は、実際の証券会社の画面や目論見書(契約条件)で、どの項目をどんな順番で確認すれば、迷いにくい導線になるのかを、具体的に整理していきます。



