(1)死亡者の範囲
①故人が、死亡当時、下記のいずれかに該当すること。
a)厚生年金の被保険者(すなわち、在職中)
b)厚生年金被保険者期間中に初診日のある傷病で、初診日から5年以内の者
c)1級、2級の障害厚生年金受給権者
d)老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たした者
②上記a)、b)の場合は、死亡当時、保険料納付要件を満たしていることが必要。
③上記a)、 b)、 c)を「短期の遺族厚生年金」(短期要件)、 d)を「長期の遺族厚生年金」(長期要件)という。
短期と長期では、遺族厚生年金の計算方法が異なる部分がある。
(2)受給できる遺族(死亡当時、故人と生計維持関係があることが前提)
- 子のある妻、または子(すなわち、遺族基礎年金の支給対象となる遺族)
- 子のない妻
- 孫
- 死亡当時55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から)
受給順位は(1)配偶者または子、(2)父母、(3)孫、(4)祖父母の順。
※いったん上位者が受給したら、次順位以下の者は失権。労災における「転給」の制度はない。ただし、共済の遺族給付には転給がある。
(3)年金額(平成25(2013)年度価格)
遺族厚生年金の額は、報酬比例の年金額の4分の3に相当する額。
- 報酬比例の年金額×3/4
報酬比例の年金額 =(①+②)×1.031×0.978
①平均標準報酬月額×1000分の7.5×平成15(2003)年3月までの被保険者期間の月数
②平均標準報酬額×1000分の5769×平成15年4月以後の被保険者期間の月数
※年金額の算出にマクロ経済スライドが導入されるが、従前額(物価スライド特例年金額)の方が上回る間は従前方式による年金額が支給される。
遺族厚生年金は、受ける遺族に応じてそれぞれ次の額が支給される。
子のある妻が受ける場合(遺族基礎年金が同時に支給される)は、
- 遺族厚生年金+遺族基礎年金+子の加算額。
子が受ける場合は、
- 遺族厚生年金+遺族基礎年金+2人目以降の子の加算額。
子のない40歳以上の妻が受ける場合は、
- 遺族厚生年金+中高齢寡婦加算額。
その他の人が受ける場合は、
- 遺族厚生年金のみ。
※短期の遺族厚生年金で被保険者期間が300月(25年)に満たない場合は、300月として計算する。
総報酬制前後の被保険者期間がある場合で被保険者期間が300月に満たない場合。
- 300を実際の被保険者期間の月数で除して得た数を乗じて300月分に引き上げる。
長期の遺族厚生年金の場合、実際の被保険者期間で計算される。
- 給付乗率は生年月日に応じて1000分の7.5は1000分の10~1000分の7.61、1000分の5.769は、1000分の7.692~1000分の5.854となる。
※短期の遺族厚生年金の場合は、生年月日による給付乗率の読み替えはない。
(4)中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算
①中高齢寡婦加算(「中高齢の加算」ともいう)
遺族厚生年金の受給権者が一定の要件に該当する寡婦の場合は、遺族厚生年金に、中高齢寡婦加算として589,900円(平成25(2013)年度価額)が、40歳から65歳に達するまで、加算される。
a)死亡した夫が短期要件に該当すること。
b)長期要件の場合は、亡夫の被保険者期間が20年以上(中高齢の加入特例適用可)であること。
c)子のない寡婦の場合は、夫の死亡当時、40歳以上65歳未満であること。
d)子のある寡婦の場合、夫の死亡当時40歳未満であってもよいが、遺族基礎年金を失権したときに40歳以上であること。
※遺族基礎年金を受給している間は、中高齢寡婦加算は支給停止となる(併給できない)。
②経過的寡婦加算
中高齢寡婦加算は、妻が65歳に達すると妻自身の老齢基礎年金が受給できるため失権する。
ただし、昭和31(1956)年4月1日以前生まれの妻には、中高齢寡婦加算に代えて65歳から経過的寡婦加算が支給される。
※カラ期間などの制度により、老齢基礎年金が少ないのを補うため。
経過的寡婦加算の金額は、妻の生年月日により異なる。
(5)遺族厚生年金の失権
次のいずれかに該当すると、遺族厚生年金は失権する。
- 死亡
- 婚姻(事実婚を含む)
- 直系血(姻)族以外の養子になったとき(事実上の養子縁組も含む)
- 故人との離縁
この離縁は養子縁組の解消のこと。
故人の妻の復籍は離縁ではなく、失権事由にあたらない。
- 子または孫が年金法上の子または孫でなくなったとき
- 若齢期の妻については、後記7.(2)を参照。
(6)労災の遺族(補償)年金との調整
労災の遺族(補償)年金と公的年金の遺族年金とは併給される。
しかし、公的年金が全額支給された場合には、労災の給付が一部調整(減額)される。
労災給付と障害年金の調整のケースと同じだ。
例えば、遺族基礎年金がなく遺族厚生年金のみを受給すると、労災の遺族(補償)年金は、給付額の0.84が支給される。
社会保険\労災保険 | 遺族(補償)年金 |
遺族基礎年金または寡婦年金 | 0.88 |
遺族厚生年金 | 0.84 |
遺族基礎年金または寡婦年金および遺族厚生年金 | 0.80 |
寡婦年金について
寡婦年金は、第1号被保険者であった夫の老齢基礎年金の一部を妻に支給しようというもの。
- 死亡一時金と並んで第1号の独自給付。
(1)受給要件
以下の要件をすべて満たす必要がある。
- 亡夫が第1号被保険者として、「保険料の納付済期間+免除期間」が25年以上あること。
- 夫の死亡当時、生計維持関係があること。
- 亡夫との婚姻期間(内縁も可)10年以上。
- 夫の死亡当時、妻が65歳未満であること。
- 亡夫が障害基礎年金の受給権者だったり老齢基礎年金を受給していないこと。
寡婦年金の受給権は夫が死亡したときに発生する。
※60歳時点ではない。ただし、60歳に達するまでは支給停止となる。
(2)年金の額
亡夫が65歳から受給できるはずだった第1号被保険者期間に係る老齢基礎年金の4分の3。
(3)受給期間
- 60歳から65歳に達するまで。
- 60歳を過ぎて65歳に達するまでの間に受給権が発生したら、その時点から65歳に達するまで。
- 65歳からは、妻自身の老齢基礎年金を受給する。
(4)寡婦年金の失権
- 65歳に達したとき
- 死亡
- 婚姻(事実上も含む)
- 直系血(姻)族以外との養子縁組(事実上も含む)
※妻が老齢基礎年金を繰上げ受給すれば、寡婦年金の受給権は消滅する。
また、遺族基礎年金と寡婦年金を同時には受給できない。
しかし、遺族基礎年金を受給した後、寡婦年金も受給できる。
※要件に該当すれば、遺族基礎年金の裁定請求時に、寡婦年金の裁定請求を行うとよい。
死亡一時金について
(1)受給要件
①第1号被保険者としての保険料納付済期間などが36カ月(3年)以上ある者の死亡(保険料全額免除期間は対象外)
保険料納付済期間などとは、
- 保険料納付済期間の月数
- 保険料4分の1免除期間の月数の4分の3に相当する月数
- 保険料半額免除期間の月数の2分の1に相当する月数
- 保険料4分の3免除期間の月数の4分の1に相当する月数
以上の4つを合算した月数のことをいう。
②故人が過去に老齢あるいは障害基礎年金の受給実績がないこと。
(2)受給できる遺族
故人と生計同一(生計維持ではない)関係にある次の遺族。
①配偶者 ②子 ③父母 ④孫 ⑤祖父母 ⑥兄弟姉妹
順位は上記の通り、①⇒⑥ということになる。
(3)―時金の額の表
保険料納付済み期間+保険料半額免除期間×1/2 | 一時金の額 |
36カ月以上 180カ月未満 | 120,000円 |
180カ月以上 240カ月未満 | 145,000円 |
240カ月以上 300カ月未満 | 170,000円 |
300カ月以上 360カ月未満 | 220,000円 |
360カ月以上 420カ月未満 | 270,000円 |
420カ月以上 | 320,000円 |
※付加保険料を3年以上納付している場合は、一律8,500円が加算される。
(4)寡婦年金と死亡…時金はどちらか選択
例えば、
50歳のときに夫が死亡し、寡婦年金の受給権が発生しても、60歳になる(10年後)まで支給停止となる。
しかし、死亡一時金はすぐ受給できる。
「どちらがよいか」はケースバイケースだ。
遺族厚生年金と老齢厚生年金の併給調整
遺族厚生年金受給中の人が、新たに特別支給の老齢厚生年金の受給権を取得した場合、つぎのような手順になる。
(1)65歳に達するまで
遺族厚生年金か特別支給の老齢厚生年金のどちらかを選択。
(2)65歳から
①老齢厚生年金+老齢基礎年金
②遺族厚生年金+老齢基礎年金
③遺族厚生年金×2/3+老齢厚生年金×1/2+老齢基礎年金
という3つの選択肢の中から選ぶことになる。
遺族年金制度の見直しについて
(1)高齢期の遺族厚生年金と老齢厚生年金の調整
※高齢期とは65歳以上のこと。
納めた保険料をできるだけ年金額に反映させるため、自らの老齢厚生年金を全額受給した上で、従前の水準との差額を遺族厚生年金として受給できる仕組みとなった。
①自分自身の老齢厚生年金は全額支給される。したがって、課税対象になる。
②従前の制度で支給される額、つまり上記併合調整の②と③を比較して、いずれか高い方の額を自身の額と比較して、後者の方が少額の場合は、その差額が遺族厚生年金として支給される。
※遺族厚生年金のうち、老齢厚生年金に相当する額の支給が停止される。
(2)若齢期の妻に対する遺族厚生年金の見直し
就労可能性などを考慮し、夫の死亡時に30歳未満で子のない妻に対する遺族厚生年金は、5年間の有期年金とされた。
他制度の死亡給付
(1)医療保険
健康保険制度の死亡給付。
- 被保険者が死亡したときに埋葬料(埋葬費)が支給される。
被扶養者になっている家族が死亡した場合。
- 家族埋葬料が支給される。
国民健康保険制度の死亡給付。
- 葬祭費または葬祭の給付がある。
※これらの支給は市区町村の任意となっている
(2)労災保険
労災保険制度の死亡給付。
労働者が業務上または通勤途上のけが・病気で死亡した場合に支給される遺族(補償)年金、遺族(補償)一時金がある。
また、労働者が業務上または通勤途上の災害により死亡したとき、葬祭を行った人に葬祭料(葬祭給付)が支給される。
次回は、中小企業の経営者なら知っておいた方がいい企業保険の税務知識についてです。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。