
前回は、ダン・ケネディや世界的に有名なマーケッターたちから教わったことを、少しだけかいつまんでお話しました。今ではマーケティングの「常識」として語られていることも、十数年前はまだ新しく、実践している人はごく一部だったように思います。
同時に、私は彼らから「ビジネスプロセスを別の領域に翻訳して使う」という発想も学びました。これは、単なる集客ノウハウではなく、ものの見方そのものを拡張していくための思考法と言ってもよいかもしれません。
ジョイントベンチャーを「フュージョン」として捉え直す
例えば、ジョイントベンチャー(JV)の概念です。一般的には、「お互いの商品を紹介し合って、双方の売り上げを伸ばす」ための仕組みとして語られることが多いでしょう。
けれども、この発想はもっと広く使えます。
仮に、今の自分の現状が、理想とする状態から大きくかけ離れているとします。そのとき、多くの人は「もっと自分一人でがんばる」方向に力を入れがちです。しかし、マーケティングの視点から見ると、別の打ち手が見えてきます。
それは、「自分に欠けている要素(エレメント)を持っている相手と組む」という発想です。
- 商品開発は得意だが、セールスが苦手な人は、セールスが強い相手と組んで売ってもらう
- 自社の販売権を相手に渡す代わりに、相手の商品を自社ラインナップに加える
- お互いの「強み」と「弱み」を見える化し、足りない部分を補い合う前提で関係を組み立てる
これは、単なる「連携(ジョイント)」というより、「融合(フュージョン)」と呼んだ方がしっくりきます。欠けているピースを無理に自分一人で埋めるのではなく、構造そのものを組み替えてしまうイメージです。
こうした考え方は、今でも十分通用するにもかかわらず、意外なほど実践する人が少ない。しかも、この発想は「商品を売ること」に限らず、さまざまな場面で応用できます。
戦略は「アレンジして使ってはじめて身につく」
ダン・ケネディをはじめとする優れたマーケッターたちは、ひとつひとつの戦略そのものよりも、それを別の文脈にアレンジして使うことに長けています。
その中で、私が特に強く影響を受けたのは、次のような考え方です。
- 顧客こそが最大の財産である。
- だからこそ、「売る前」以上に「売った後」のフォローを重視しなければならない。
- 「どうすればもっと売れるか?」ではなく、「どうすればもっと喜んでもらえるか?」という問いを、ビジネス全体の中心に置く。
この視点は、ビジネスに限った話ではありません。
- 何かに行き詰まっている人を支援するとき
- 子どもに「自分で工夫して生きる力」を早い段階から身につけてもらいたいとき
- よいパートナーシップを築きたいのに、なかなか巡り合えないと感じているとき
こうしたテーマにも、そのまま応用できます。「どうすれば相手から何かを得られるか?」ではなく、「どうすればこの関係で、相手がよりよく生きられるか?」という問いに置き換えてみる。すると、選ぶ言葉も、取る行動も変わってきます。
1つのコンセプトを、別の事象に当てはめてみる
別な言い方をすれば、「ひとつのコンセプトを、別の事象に応用していく力」こそが重要だということです。
多くの人は、「このノウハウは、この場面でしか使えない」と無意識に枠を決めてしまいます。すると、学んだことはその文脈の中でしか動かず、自分の人生全体には広がっていきません。
しかし、同じコンセプトを繰り返し別の場面に当てはめていくと、だんだんと「これは自分の能力の一部だ」という実感が伴ってきます。つまり、「戦略」ではなく「視点」として身についてくるのです。
マーケティングの世界を通じて私が学んだのは、まさにこの部分でした。
成功者の「修羅」と、自分の「遊び」
かつてお供をしていたカリスマ経営者は、「修羅のごとく仕事する」という言葉を、そのまま体現しているような人でした。成功者の多くは、自分の仕事を愛し、自分のことを忘れてしまうほど夢中で働いています。
一方、私は仕事と同じくらい、「遊び」や「楽しいこと」を大切にしています。仕事とは関係のない企画を立てて、友人たちを誘い、一緒に何かをやるのも好きです。
一見すると、この二つは矛盾しているように見えるかもしれません。しかし、マーケティングのコンセプトをライフスタイルにも応用してみると、別の見え方が生まれます。
仕事の中に「遊び」の要素を取り入れる。遊びの中にも「価値の循環」という視点を持ち込む。そうすることで、自分の時間の使い方全体が、少しずつ整っていきます。
大事なことは、テキストではなく「行間」にある
ここまで書いてきたことの中で、実は私がいちばん強く教えられたことは、彼らの書籍やコンテンツに直接書いてあるわけではありません。
それは、彼らのコンセプトを別の分野に適用するという考え方です。
- 学んだマーケティング戦略を、ビジネス以外のテーマに応用してみる
- 逆に、他の分野で気づいたことを、ダン・ケネディやY氏のコンセプトに寄せて考えてみる
- 「この問題を解決するには、この戦略を使うしかない」と仮定して、あえて当てはめてみる
こうした試みを続けていると、あらゆる物事から「必要な本質だけを抜き出す」選択眼が養われていきます。
いつの間にか、直面していた問題が片づいている。
それは、特別なテクニックを身につけたからではなく、「考え方の枠組み」が変わったからだと感じることが多くなりました。
テクニックより、「応用していく態度」
もちろん、特定の状況で役立つテクニックは存在します。けれども、現実には、どれほど優れたテクニックがあっても、それだけではうまくいきません。
一般的な技術であっても、多くの領域に応用できる「つなぎ方」が身についていれば、仕事も、人間関係も、驚くほど変わっていきます。
マーケティングで学んだ戦略を、そのままライフデザインやコーチングに当てはめてみる。
ライフデザインの視点で見えたことを、再びビジネスの場に持ち帰ってみる。
この往復運動そのものが、私にとっての「成長プロセス」になっています。
さらにその先には、Y氏から学んだ、認知科学や記号論理学といった最高視点から導き出されたマインドセットがあります。その話は、また別の機会にお伝えできればと思います。
ではまた。



