年金の額面で安心しない──税引き後の「手取り」から組み立てる老後設計

公的年金にかかる税金──「老後の手取り」を曖昧にしないための設計

老後の収入基盤である公的年金にも税金がかかります。年金は「毎月入ってくるもの」だからこそ、受給額をそのまま生活設計に置いてしまいがちです。けれど実際には、所得税・住民税の仕組みや源泉徴収、控除の考え方によって、手元に残る金額は変わります。

リタイアメントプランを“安心の気分”で組み立てないためには、税の仕組みを知り、実質手取りを見える形にしておくことが重要です。ここでは制度の全体像を整理しつつ、生活設計にどう織り込むべきかまで踏み込みます。

最初の問い:あなたの「老後の収入」は、税引後で把握できていますか?

税金の話は複雑に見えますが、押さえるべき要点は限られています。

  • 年金は原則として課税対象(雑所得)になる
  • ただし、非課税となる給付もある
  • 支給時に源泉徴収される場合がある
  • 年金以外の所得や控除の状況で、確定申告が必要になることがある

この4点を土台に、順に整理していきます。

支払った年金保険料はどう扱われるか

支払い保険料:社会保険料控除の対象になる

現役期に支払った年金保険料は、全額が社会保険料控除の対象になります。これは所得税・住民税の計算上、「所得から差し引ける控除」です。

  • 支払った年金保険料は、所得税・住民税の計算で所得控除の対象になる
  • (法人が負担した場合)公的年金の保険料は損金として計上できる

ここで大切なのは、保険料の負担は現役期の税負担を軽くする一方で、老後の受給は原則として課税対象になる、という「往復構造」です。

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公的年金は「雑所得」として課税される

公的年金など:所得税法上は雑所得

所得税法上、公的年金は「公的年金など」として雑所得に区分されます。公的年金のほか、企業年金や共済年金なども含まれます。

なお、遺族給付・障害給付は非課税です。老後設計の中で年金をひとまとめにすると、この違いを見落としやすいので注意が必要です。

公的年金などに含まれる主なもの

  • 国民年金、厚生年金
  • 国家公務員・地方公務員・私立学校教職員などの共済年金
  • 農業者年金基金法に基づく年金
  • 厚生年金基金
  • 適格退職年金(自己負担部分を除く)
  • 企業年金基金、規約型企業年金の年金
  • 恩給(一時恩給を除く)
  • 過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金
  • 特定退職金共済団体の年金
  • 中小企業退職金共済法による分割共済金
  • 小規模企業共済法に基づく分割共済金
  • 確定拠出年金の年金など

公的年金などの雑所得はどう計算するか

基本:年金収入-公的年金等控除=雑所得

公的年金などに係る雑所得は、他の雑所得と区分して計算されます。基本式は以下の通りです。

  • 公的年金などの収入金額 - 公的年金等控除額 = 雑所得

本人負担がある年金の場合

適格退職年金や自社年金などで本人負担の掛金がある場合、一定の計算により収入から差し引ける額があります。

  • 差し引ける額 = 支払年金額 × 本人負担総額 / 年金支給総額(見込み額)

なお、厚生年金保険料の本人負担分は、現役期の給与所得計算の段階で社会保険料控除として扱われているため、重複して控除する考え方にはなりません。

公的年金等控除額(考え方)

公的年金等控除は、年齢(65歳未満/65歳以上)と年金収入額に応じて控除額が決まる仕組みです。年金を手取りで把握するには、この控除がどれくらいになるかの概算が出発点になります。

重要なのは、ここで計算される「雑所得」が、その後の所得控除(基礎控除、社会保険料控除、医療費控除など)や税率計算と結びついて、最終的な税負担が決まるという点です。

年金は支給時に源泉徴収されることがある

源泉徴収制度:税引後の金額を受給する

公的年金などは支給の際に源泉徴収が行われる場合があり、受給者は税引後の金額を受け取ります。

源泉徴収の対象となる年金額(目安)

  • 65歳未満:年金額が108万円以上
  • 65歳以上:年金額が158万円以上(厚生年金基金など一部は80万円以上)

源泉徴収税額の考え方

源泉徴収税額は、おおまかに言えば「年金支給額から一定の控除額を差し引いた部分」に一定税率を掛けて算出されます。提出書類(扶養親族など申告書)の有無で税率が変わる点が特徴です。

  • (扶養親族など申告書を提出)[公的年金などの支給額-控除額]× 5%
  • (未提出の場合)税率が10%となる

ここでのポイントは、源泉徴収は「仮の精算」であり、最終的な税額は確定申告(または申告不要制度の判定)で決まるということです。

確定申告が必要になるのはどんなときか

年金は年末調整がない

年金は給与のような年末調整制度がありません。そのため、控除の適用を受ける場合や年金以外の所得がある場合には、確定申告が必要になることがあります。

たとえば次のようなケースです。

  • 社会保険料、生命保険料、地震保険料、医療費などの所得控除を適用したい
  • 年金以外に収入(不動産、配当、事業、給与等)がある
  • 源泉徴収だけでは税額が過不足になる可能性がある

雑所得の合算:年金以外の雑所得も合算される

  • 雑所得の金額 = (A) 公的年金などに係る雑所得 + (B) 公的年金など以外の雑所得

なお、雑所得で損失が出ても、原則として他の所得と損益通算できない点には注意が必要です。

年金所得者の申告不要制度──「申告しなくていい」と「申告しないほうがいい」は別

申告不要の要件

一定の要件を満たす場合、その年分の所得税について確定申告が不要となる制度があります。要件は次の1・2の両方です。

  1. 公的年金などの収入が400万円以下
  2. 公的年金などに係る雑所得以外の所得金額が20万円以下

ただし「還付を受けるなら申告が必要」

申告不要制度が使える場合でも、所得税の還付を受けるためには確定申告が必要です。ここは誤解されやすいポイントです。

住民税には同様の申告不要制度がない

住民税にはこの申告不要制度がありません。申告していないと、課税(所得)証明書などの発行を受けられないこともあります。暮らしの手続きに影響が出る領域なので、実務上の注意点として押さえておく価値があります。

年金担保貸付制度──「制度がある」ことと「使うべき」ことは別

年金を受ける権利を担保にして資金を借りる制度(年金担保貸付制度)があります。対象者や貸付条件が定められています。

取扱機関

独立行政法人 社会福祉医療機構(窓口は銀行などの金融機関)

対象者・条件の概略

  • 国民年金・厚生年金保険・船員保険の年金を受給している人
  • 年金証書を保有し、現に年金の支払いを受けていること
  • 老齢福祉年金の受給者は利用できない

貸付額・返済の概略

  • 貸付額:支払年金額の1.2倍以内、10万円〜250万円(1万円単位)
  • 返済方法:年金支給額から定額控除(満額返済は廃止)

ただし、年金を担保に資金調達をするのは、よほどの事情がない限り避けた方がよいという点は、制度説明と同じくらい重要です。リタイアメントの設計とは、将来の自由度を守ることでもあるからです。

まとめ:年金課税は「税の知識」ではなく、「手取りを曖昧にしない姿勢」

公的年金は、老後の収入の柱でありながら、税や控除、申告の仕組みによって手取りが変わります。だからこそ、リタイアメントプランでは次の順序で整理することが有効です。

  • 年金収入を「額面」ではなく「税引後」で把握する
  • 公的年金等控除と所得控除を踏まえ、課税所得のイメージを持つ
  • 源泉徴収は仮精算であり、確定申告の要否を毎年点検する
  • 申告不要制度は便利だが、還付や住民税手続きとの関係も見る

最後の問い:あなたのプランには「税引後の年金手取り」が、どの前提で置かれていますか?

税は、暮らしの輪郭に静かに影響します。知らないまま放置すると、後から調整が苦しくなる。逆に、最初に把握しておけば、老後の意思決定はずっと穏やかになります。

暮らしの輪郭を、内側から描きなおす

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