パフォーマンスという言葉はあらゆる分野で使われていて、その言葉が示す概念は実に曖昧です。
一般的には、動作に出して何かを表現するということになるでしょうか。
例えば、、、、
音楽であれば、演奏することがパフォーマンスに該当します。
それが、演劇であれば舞台の上で演じることでしょう。
また、パフォーマンスと言う言葉は、あらゆる分野でさまざまな「かたち」で使われています。
例えば、それが組織や産業に関連する心理学の中では、成績や業績のような意味で用いられています。
どちらかというと、人間の能力を機械的に表現した感じがします。
知能検査では、積木を組み上げていって模様をつくるような動作を意味します。
これが学力検査の場合だと体育や音楽の実技試験ということになるでしょう。
これが一般的な心理学ですと、すでに類似性のある行動、もしくは既に計画されている行動を実行に移して、表現することを意味し、これを遂行行動といいます。
思考や記憶することもパフォーマンス?
いずれにせよパフォーマンスとは外に現れた行動、あるいは行為という意味で共通しているようです。
したがって、思考や記憶における内的な操作をパフォーマンスと言わない、というのが一般的な考え方でしょう。
しかし、内省結果を言語で表現したり、反応するまで要した時間などが、何らかの指標とされた場合はどうでしょうか?
この場合、内的操作が外的な指標として表されたわけですから、これもパフォーマンスと言えるはずです。
というよりも、内的な操作と関連のないパフォーマンスなどありえないはずです。
まったく自動的に起こったように見えも、そこには何らかの意志が働いているはずだからです。
仮にそれが、自意識による行動ではなかったとしても、誰かのプランによって、あるいは他者の意識によってコントロールされた結果、行動したのであれば、、、、
パフォーマンスが意識から独立したものではないということがいえそうです。
つまり、意識はパフォーマンスの一部として構成されているものだということです。
ですから、単に外的に現れた動きだけをパフォーマンスと言うわけではないということです。
また、パフォーマンスが心理学で言うところの遂行行動だと仮定すると、色々な角度から分類することができます。
遂行行動というからには、断片的な行動ではなく、ひとつのカテゴリーとして存在してなければなりません。
例えば、それが長さというカテゴリーだとすれば、、
スイッチやボタンを押すといった短いものから、演説をする、手紙を書くと言った長いものまで存在します。
そして、ただ単純に短い行動が集積されたものが、長いパフォーマンスということではありません。
つまり、その行動目的によって統合され、ひとつのカテゴリーとなっているということです。
そしてその行動は起承転結という物語を持っています。
ですから、時間という概念でその進捗状況を区別することが可能です。
また、発達的な視点からパフォーマンスを分類するなら、
- 幼児期に習得されるもの
- 児童期に習得されるもの
- 青年期に習得されるもの
という分類ができます。
逆の味方をすれば、この基準がそれぞれの時期の発達課題を生み出しているということが言えます。
- もう何歳になったのだからこれくらいはできるだろうという社会的証明の原理からの圧力
- それが然るべき年齢になっても習得できなければ、失敗という感覚が残り続ける。
- 退行して完成させたいという欲求がいつまでもつきまとうことになる。
退行:一般的にはより原初的な型や段階に戻ることをいう。心理学では (1) 個体および集団が原型的な形に立戻る傾向,(2) 精神分析ではリビドーの発達が逆行して,結果的に初期の小児的行動様式を一時的あるいは永続的にとること,(3) K.レビンらによると,生活空間における分化した領域間の境界が欲求不満によってこわされ,行動の分化した状態から未分化の状態になることをいう。
(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)より抜粋
パフォーマンスの4つの分類
パフォーマンスを分類するには、その作業課題に応じたカテゴリーにわけなければなりません。
それに関しては既に色々なモデルが提供されています。
- 行動記述による分類
- 作業の遂行に必要な行動による分類
- その能力による分類
- パフォーマンスを起こすための一連の条件として作業を分類
という4つの分類にまとめたものがあります。
1、行動記述による分類
行動記述による分類には、
- ウイリス(1961年)の入力-出力階層的モデル
- ファイン(1974年)の機能的ジョブ分析
などがあります。
ウイリスの階層的モデルを簡単に説明すると、
- パフォーマンスを過程、活動、特定という3階層に分ける
- 過程を知覚、媒介、コミュニケーション、運動の4つに分ける
- 知覚過程を情報の探索と受容、および対象・行為・事象の同定という2つの活動にわける
前者には発見、視察、観察、読解、受信、走査、調査を含め、後者には弁別、同定、場所確認という特定の行動を含めました。
媒介過程には情報処理、問題解決および意志決定という活動をあげ、
コミュニケーション過程には、、、
直接にアドバイス、返答、通信、命令、指示、告知、表示、要請、伝達という個々の行動をあげています。
ファインの機能的ジョブ分析は、
- 運動過程を複雑で連続的な活動と、単純で単発的な活動にわける。
前者にはさらに調整、照準、統制、同期、追跡。
後者には活性化、閉鎖、結合、分離、接合、移動、加圧、固定などをあげています。
これらの分類の基礎となっている行動は軍隊の中では日常的に行われているようです。
また、ベネット(1973年)は、、
- 作業を記述できる25の動詞を選定
- 10種類の作業についてそれらの動詞が適用できるかどうかを4点尺度で大学生に評定させる
それを因子分析した結果、認知的、社会的、手続き的、身体的の4因子を見出しました。
各因子の代表的な因子をあげると、
- 認知的因子が、決める・判断する・分析する・計画する・考える。
- 社会的因子は、話す・交わる・答える・尋ねる・聞くなど。
- 手続き的因子が、操作する・手順を追う・使う・扱うなど。
- 身体的因子は、運ぶ・歩く・扱う・書くなど
※因子分析とは複数の変数のうち相関が強いものに共通する基準を探し出す分析手法のことをいう
以上が、行動記述による分類の代表的なものです。
2、作業の遂行に必要な行動
行動記述による分類と大差ない結果になっています。
3、作業遂行に必要な能力
作業の遂行に必要な能力という視点から分類したものには、
- ギルフィード(1967年)の操作、所産(作り出したもの)、内容の3次元よりなるリッポ対モデル
- ハーマン(1975年)の認知と気質の因子
なども挙げられますが、もっと動作と結びついた具体的で詳細な分析は、フライシュマン(1972年)によるものだとされています。
見出された因子は心理的な動作に関しては、
- コントロール過程、手足協調、反応定位、反応時間、腕の運動速度、速度調整、手の巧緻性(こうちせい)、指の巧緻性。
因みに巧緻性とは、器用さや、その度合いなどのことです。
そして、腕と手の保持手首と指の速度、照準の11因子、また身体的動作に関しても、手を届かせる柔軟性、瞬発的ちから、握力、スタミナなどの9因子に分類されています。
4、パフォーマンスの条件としての作業の性格
パフォーマンスの条件としての作業の性格による分類も結果的にこれまで紹介してきた分類と大差ありません。
例えば、フィッシツは身体の関与の程度とペーシングの程度、
つまり、動作パターンや調整する度合いの基準により、
- 体も環境も動かない条件下での作業
- 環境は動かないけど体を動かしてやる作業
- 両方との動かしてやる作業
の3つにわけました。
もう一つの分類としては、
- 刺激反応継起
- 刺激符号化
- 反応符号化
- 符号変換
- 入力の質と量
- 外的フィードバックの種類と量
- 内的フィードバックの種類
- システムの力学
- 作業の複雑性
などにより分類しています。
これらパフォーマンスの分類には、
行動記述や作業の遂行に必要な行動の分類のように心理学的な意味と結びつけたものから、パフォーマンスの条件としての作業の性格のように単なる動作の水準のものまで含まれます。
これらは、個人の必要に応じてそれなりに学習され、各々のレパートリーとなっているでしょう。
それらは習慣の階層を形成し、必要に応じて発動されるものです。
また、固定した動作の系列というよりもっと融通のきくものであることは明確です。
なぜなら、お辞儀や挨拶の仕方が同じ人間でもその時の状況によってパフォーマンスが変化するからです。
そのことからしても容易に推察できます。
次回は。認知とパフォーマンスとの関係に焦点をあて、どのパフォーマンスがどういう意味で認知と関係が深いのかという視点から、これまでご紹介したパフォーマンスの分類を検討していきます。
次回は「求心的に取り込む活動と遠心的に拡散して環境世界の中にその意図を実現する活動」です。
この投稿は、認知とパフォーマンス (認知科学選書)梅本 尭夫著から内容を抜粋し、部分的にわかりやすく解説したものです。