
治療や経営の現場では「正しい解」が一つに収束しません。なぜなら、結果は
内面と外面、個人と集団の相互作用で生まれるから。統合モデルはこの四つの視点を
一度に扱い、施策を抜け漏れなく設計するための“現実的な作図法”です。
統合モデルの骨格:4つの視点を同時に扱う
個人×内面(I)
痛みの意味づけ、感情、動機、価値観、信念。患者・従業員それぞれの「内的風景」。
個人×外面(It)
検査値、行動、スキル、KPI、日々の習慣。目で見える成果やバイタル。
集団×内面(We)
文化、規範、心理的安全性、共通言語。治療同盟やチームの空気感。
集団×外面(Its)
制度、プロセス、インフラ、報酬設計、法規制、サプライチェーン。
どの領域も四分の一に過ぎません。四象限のうち一つだけを最適化すると、
残りがボトルネックとなり、成果は頭打ちになります。
医療における統合モデル
1) 個人×外面:標準治療の質を底上げ
- エビデンスに基づく薬物・手術・リハビリ。
- アウトカム:症状スコア、再入院率、服薬アドヒアランス、活動量。
2) 個人×内面:治療に“意味”を与える
- 痛み日誌・感情ラベリング・イメージ介入(自己催眠や可視化は適応範囲で)。
- アウトカム:自己効力感、痛みの破局化の低減、主観QOLの改善。
3) 集団×内面:治療同盟と社会的支援
- 家族教育、ピア・サポート、医療者のコミュニケーション訓練。
- アウトカム:治療同盟スコア、孤立感の軽減、受療行動の継続。
4) 集団×外面:制度・環境の整備
- 支払い・保険枠組、アクセス(交通/時間)、院内フロー、デジタル記録。
- アウトカム:待ち時間、取りこぼし率、コスト/症例、地域連携の密度。
医療ミニケース:慢性疼痛
- I:痛みの意味づけ再構成、3分呼吸、行動活性化の動機づけ。
- It:段階的運動処方、服薬アプリでアドヒアランス可視化。
- We:家族向け勉強会、看護師主導のペイン教育グループ。
- Its:多職種カンファ、紹介基準統一、地域リハ施設とデータ連携。
※本記事は一般的なフレーム提示であり、個別の医療判断を置き換えるものではありません。治療は必ず担当医とご相談ください。
ビジネスにおける統合モデル
1) 個人×外面:業務スキルと成果
- 営業成約率、製造歩留まり、CS応対指標、プロダクト出荷速度。
2) 個人×内面:動機・価値観・レジリエンス
- 「なぜやるか」を3行に要約、感情の言語化、短時間で回復する習慣設計。
3) 集団×内面:文化と共通言語
- 心理的安全性、合意形成の原則、フィードバック文化、称賛の設計。
4) 集団×外面:制度・プロセス・市場適合
- 採用/評価/報酬、意思決定の経路、法規対応、顧客調査と供給網の整備。
ビジネスミニケース:新製品の市場投入
- I:PMの意思決定原則をカード化、1on1でリフレクション。
- It:実験設計(MVT)→学習マイルストーン→KPIツリー。
- We:顧客物語の共有会、否定から始めない会議ルール。
- Its:承認フロー短縮、価格/流通ルール整備、法規レビュー日程化。
実装ガイド:四象限ロードマップ
- 課題を一文化(例:再入院/離職/解約の何が起きているか)。
- 四象限に事実を配置(I/It/We/Itsに“今起きていること”を冷徹に書く)。
- 各象限に1つずつ介入案(4つでワンセット、どれも小さく始める)。
- 指標を二階建てに(行動指標=先行、結果指標=遅行)。
- 週次レビュー30分(仮説→実行→学習→次の手の一巡を固定化)。
チェックリスト:抜け漏れ防止
- 内面(I/We)への手当ては十分か?(意味づけ/文化/同盟)
- 外面(It/Its)の整備は回っているか?(スキル/プロセス/制度)
- 短期の楽観と長期の現実主義、両立できているか?
- 小さく試し、早く学び、すぐ修正の循環が生きているか?
まとめ──「四分の一」ではなく「全体」を動かす
医療もビジネスも、人が関わる以上、内面と外面、個人と集団の四象限が絡み合います。
統合モデルはそれらを一枚の設計図にまとめ、介入を“4点セット”で実行させるための道具です。
今日の課題を四象限に書き分け、各象限に最小の一手を置くことから始めましょう。
あなたの現場課題を「四象限×一枚」に落とし込み、最初の4手を一緒に設計します。



