ライフプランという幻想を超えて──お金の計算から「生き方の物語」へ組み直す視点

 

ライフコーチングとライフプラン──「素地」が整っていないと何が起こるか

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ライフコーチングは、今やアメリカだけでなく日本でも注目されるようになりました。海外の有名アーティストや俳優がコーチをつけている、という話題を耳にしたことがある方も多いでしょう。

ただし、彼らはコーチングによって「メジャーになった」わけではありません。もともと圧倒的なパッションとエネルギーを持ち、すでに高いレベルで活躍している人たちが、コンディションを整え、次のステージに踏み出すためにコーチを活用している、というほうが実態に近いはずです。

一方で、まだ「実行できる素地」が整っていない人が、いきなり高額なプログラムに参加したとしても、期待したほどの変化が起こらないことが少なくありません。むしろ、やる気だけを刺激されて現実とのギャップに疲弊してしまうケースさえ見てきました。

この「素地」が整っていない状態で、ライフコーチングやライフプランに手を出すと何が起こるのか。その一つの入口が、この記事のテーマである「ライフプラン」というアプローチそのものの再検討です。

ライフプランという「安心」の物語が生み出す錯覚

ファイナンシャルプランナーや保険セールスが「ライフプランを作りましょう」と提案するとき、多くの場合それは、ライフイベントに基づく収支計画を指します。

典型的なライフイベントは、次のようなものです。

  • 就職・転職(雇用形態の変化を含む)
  • 結婚・離婚
  • 出産・子育て・教育
  • マイホーム取得・住み替え
  • 老後の生活・介護
  • 相続・事業承継 など

これらをタイムラインに並べ、それぞれの時点で必要になるお金を仮定し、年収・貯蓄・運用を組み合わせて「キャッシュフロー表」に落とし込む。こうした作業は、長期的な見通しを持つうえで、一定の意味はあります。

ただし、ここで一度立ち止まってみたいのは、次の問いです。

  • ライフプランを作成しなかったがために、人生が立ち行かなくなった人を、身近でどれだけ知っているか?
  • 逆に、「ライフプランを作ったからこそ、苦しくなった」人はいないか?

多くの方は、おそらく前者にはほとんど心当たりがなく、後者には何人か思い浮かぶかもしれません。つまり、「ライフプランさえ作れば不安が消える」という物語そのものが、ひとつの錯覚だということです。

「将来必要なお金がわかれば安心できる」と考えがちですが、必要額を算出しただけで収入が増えるわけではありません。むしろ、今まで気にも留めていなかった不安をわざわざ掘り起こし、余計な問題を増やしてしまうこともあります。

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低次元のライフプランが生む「余計な問題」

一般的なライフプランの検討事項は、次のようなものです。

  1. どんな職業に就くのか。
  2. 結婚するのか、しないのか。
  3. 離婚するのか、しないのか。
  4. 子どもを持つのか、持つとしたら何人か。
  5. 賃貸か持ち家か、どの程度の住環境を確保するのか。
  6. 老後にどの程度の暮らしを望むのか。
  7. 資産を残すのか、残さないのか。

これらは確かに「考えるべきテーマ」です。ただ、多くのライフプランが問題なのは、これらを「お金の問題」としてのみ扱いがちな点です。

「どのくらい必要か」「どうやって貯めるか」「どの金融商品を選ぶか」というレベルでしか語られないとき、ライフプランは、人生の奥行きを照らすものではなく、資本主義のルールをきれいに並べ直しただけの「低次元の設計図」になってしまいます。

ここから先は、それぞれのテーマを少し違った角度から見直していきます。

1.「どんな職業に就くか」は、乗り物を選ぶ行為

あるとき、「収支を改善してマンション投資をしたい」という相談を受けました。その方は当時42歳、年収は約480万円。よくある提案なら、「支出を見直しましょう」「少しずつ投資信託を…」という流れになったかもしれません。

しかし、収支を改善する方向性は、大きく分けて3つしかありません。

  • 収入を増やす
  • 支出を減らす
  • 手元資金を運用して増やす

このうち、もっともインパクトが大きいのは言うまでもなく収入を増やすことです。収入が2倍になれば、多くの節約や小さな運用は必要なくなりますし、その分の時間とエネルギーをさらに収入を増やす方向に再投資することもできます。

実際に彼は、職場と働き方を見直し、「乗り物そのものを変える」という選択をしました。その結果、1年後には年収が1,200万円を超えるところまで伸びていきました。

「乗り物そのものを変える」という発想

ここでお伝えしたいのは、「誰でも年収1,200万円になれる」という話ではありません。大切なのは、次のような視点です。

  • 自分の能力だけでなく、「どの乗り物(会社・業界・職種)に乗っているか」で粗収入は大きく変わる。
  • 会社のトップの年収が1,000万円であれば、それ以上を目指すのは構造的に難しい。
  • 設備投資ではなく貯蓄に走り、毎年じわじわと利益率が低下している会社の中で、所得だけを増やすのは至難の業。

にもかかわらず、「今の乗り物はそのままに、節約と運用だけで何とかしようとする」人は少なくありません。これは、抜本的な解決策から目を背けたまま、細部だけをいじり続ける行為に近いと言えます。

2.節約・投資に走る前に見ておきたい「損失を呼ぶプロセス」

もちろん、一定の節度ある節約や、よく理解したうえでの投資は意味があります。ただ、

  • 中途半端な節約は、日常を貧しくし、自己肯定感を削る
  • よく理解しないまま始めた投資は、積み上げた資産を痛めるリスクが高い

という側面も見逃せません。

「無料でライフプランを作ります」というオファーの先に、特定の商品(投資信託・一時払い年金・確定拠出年金・NISAなど)が待っている構造も珍しくありません。それ自体が悪いわけではありませんが、「最初から商品ありき」の設計になっていないかは、一度立ち止まって確認しておく価値があります。

本来は、

  • 今、どんな環境で仕事をしているのか
  • そこに居続けて、自分の望む収入や働き方は実現できるのか

といった「乗り物」「市場」「役割」の見直しを行った上で、初めて節約や運用の話が意味を持ちます。最大限の効果が見込めるところから検討していく――ライフプランとは、本来そうした順番で組み立てるべきものです。

3.結婚する/しないは、「お金」以前に問うべきテーマがある

ライフプランを描くとき、「結婚するのか、しないのか」は大きなテーマです。ただし、この問いが成り立つのは、「いつでも結婚できる状態」にある人だけです。現実には、結婚したくても縁に恵まれない人も、たくさんいます。

経済的な事情は、私の見てきた範囲では決定的な要因ではありません。むしろ、

  • 「自分の生活が楽になるから」という発想が透けて見える
  • 相手の願いよりも、自分の条件や不安のほうが前面に出ている

といった、関係の「質」を決める内側の前提が、出会いや関係性に影響している場合が多いと感じます。

「誰かと生きる」とは、何を分かち合うことなのか

結婚と起業を同時に叶えたい、といった相談も何度も受けてきました。実現可能性だけでいえば、両立は十分に可能です。しかし、その前提にあるのが、

  • 「自分の願いを叶えてくれるパートナーが欲しい」
  • 「起業も結婚も、自分の理想通りにコントロールしたい」

といった考え方のままだと、どちらも長続きしない可能性が高いでしょう。

結婚は、お金のプラスマイナスの計算だけでなく、「誰と、どんな物語を分かち合うのか」に深く関わる選択です。その意味では、「結婚する/しない」をライフプランに組み込む前に、

  • 誰と一緒に時間を過ごしたいのか
  • 誰と一緒には居ないほうがいいのか

という、もっと根っこの問いに触れておく必要があります。

4.離婚もまた、ライフデザインのテーマのひとつ

離婚というテーマは、かつては「不謹慎」とされることもありましたが、今ではライフデザインの一部として考えざるを得ない時代になっています。

統計上の離婚件数や離婚率をめぐる数字はさまざまですが、それ以上に重要なのは、「なぜ同じパターンを繰り返してしまうのか」という視点です。

例えば、物やお金の豊かさを最優先する相手と結婚し続けてしまう人、DVを経験したあとに、似たような相手と再び関係を築いてしまう人。表面的な条件が変わっても、内側のコンフォートゾーン(安心領域)が同じであれば、選ぶパターンも似通ってしまう、という現象を何度も見てきました。

5.子どもとお金を一度切り離して考えてみる

ライフプラン相談の場で、「子どもとお金」がセットで語られることは非常に多くあります。

  • 子育てには、いくら必要ですか?
  • 教育費は、どの程度見込んでおけばいいですか?

もちろん、大まかな目安を知っておくことは必要です。しかし私は、こうした質問を受けたとき、先に次の問いを投げかけるようにしています。

  • 「いくら必要か」ではなく、「いくらかける気があるのか?」
  • その前に、「どんな人になってもらいたいのか?」

お金の分量と、子どもの未来は必ずしも比例しない

お金のかけ方と、子どもの将来の行き先には、思われているほど直接的な相関はありません。高額な教育を受けたからといって必ずしも社会に貢献する人材になるわけではないし、経済的に恵まれない環境から大きな影響力を持つ人が生まれてくることもあります。

子どもは、親にとって「あらゆる経験をもたらしてくれる存在」です。その経験を通じて、親自身もまた成長していきます。子どもの有無や人数を考えるとき、まずはお金から少し距離をとり、

  • どんな物語を子どもと一緒に紡ぎたいのか
  • その経験を通して、親として・ひとりの人間としてどう成長していきたいのか

という問いから始めることをおすすめしています。

「親を選んで生まれてくる」という物語について

子どもが親を選んで生まれてくる、という考え方があります。科学的な証明はさておき、現場でクライアントの話を聞いていると、そうとしか思えないような出来事に何度も出会ってきました。

長い不妊の期間を経て子どもを授かった方、最初は「子どもは持たない」と強く決めていたけれど、その前提がほどけた途端に人生が大きく変わった方。そこには、「子ども」というテーマを通して、自分自身の深い不安や決めつけと向き合うプロセスが見えてきます。

子どもの有無・人数・教育費の多寡。これらの問いのほとんどが、出発点として「今の自分の経済状況」を置いてしまいがちですが、そこから一歩外に出たとき、まったく違う景色が見え始めることがあります。

資本主義のルールから一歩離れて、ライフプランを再構築する

ここまで見てきたように、「どんな職業か」「結婚するか」「離婚するか」「子どもを持つか」といったテーマは、どれもライフプランの根幹に関わるものです。

しかし、多くのライフプランは、これらを「いくら必要か」「どうやって貯めるか」という資本主義のルールのうえにばかり乗せて考えようとします。その結果、

  • 本当に問うべきことに触れる前に、数字の不安だけが膨らんでしまう
  • 「必要なお金が明確になる」という固定点にしがみつくあまり、かえって自由度を失う

という矛盾が生じます。

ライフプランの再構築とは、こうした矛盾に気づき、

  • まず「どう生きたいのか」「誰と生きたいのか」という物語のレベルから問い直す
  • そのうえで、お金や制度の知識を「手段」として配置し直す

というプロセスを指します。

もし今のライフプランやコーチングが、あなたの人生を窮屈にしていると感じるなら、一度「資本主義のルールから半歩だけ離れてみる」ことから始めてみてください。その視点のズレこそが、次のステージへの入り口になるかもしれません。

なお、この記事で触れた事例は、いずれも特定の方の体験を一部加工・統合したものであり、同じ結果を保証するものではありません。ひとりひとりの背景や前提が異なるからこそ、あなた自身の物語としてのライフプランを描いていただけたなら幸いです。

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