不動産の証券化は一つのプロジェクトとして捉えることができます。
多くの異なる役割を果たす人々が一緒に協力して、そのプロジェクトを成功に導くことが求められます。
そして、そのプロジェクトがうまく進行するためには、各役割の理解と信託制度の活用が不可欠です。
不動産証券化のキープレイヤー
証券化プロジェクトには、オリジネーター(原資産所有者)以外にも様々な役割があります。
主な役割としては以下のものがあります。
- アレンジャー: 証券化のための構造を設計し、プロジェクトのメンバーを選定し、専門家に業務を委託し、証券化に必要な全ての事項をアドバイスおよびフォローします。
- アセットマネージャー: ファンドの運用方針に従い、投資物件の選定、投資効率の分析を行い、また、プロパティーマネージャーに対する監督と指示を通じて、投資価値を最大化します。
- プロパティーマネージャー: 投資物件のテナント営業、管理、および建物そのものの維持管理を行い、収益の向上と費用の削減を目指します。
- レンダー: 証券化対象となる不動産を取得するための資金を融資します。
- 信託銀行: オリジネーターから証券化対象不動産の信託を受け、所有名義人となり、その管理と運営を行うことで、投資家とレンダーの信用補完を行います。
これらの役割は全て一緒になって、証券化プロジェクトの成功に向けて動いていきます。
信託制度と証券化
証券化プロジェクトは、多くの場合、信託受益権として証券化された不動産を取得します。
信託制度を用いる主な理由としては、税制上の利点が挙げられます。
さらに、信託制度による運用の透明性と独立性の確保、宅地建物取引業法による規制が適用されないという利点もあります。
信託とは、他人に財産の管理や処分をさせるために、財産権を移転することを言います。
つまり、所有権が受託者に移転し、受託者の名義で財産の管理や処分がなされるということです。
信託法では、財産を信託する者を委託者、管理・処分を実行する者を受託者、信託の利益を享受するものを受益者という言い方をします。
また、受益者が信託行為に基づいて信託利益の給付を受ける権利やその権利を確保するために受託者に請求する権利を受益権と言います。
この受益権には、給付請求権の他、信託財産に対する物的権利も有するとされています。
これにより、信託財産に対する権利の変動は、そのまま受益権の内容に反映され、実質的に信託財産は受益者が有しているものと考えられます。
そして、不動産の信託受益権は、信託の登記によって第三者に対抗することもできます。
信託の税制
通常の不動産信託では、課税対象となるべき受益者の範囲を受益者としての権利を現に有するものとし、その信託財産に帰せられる収益および費用はその受益者の収益および費用とみなされます。
つまり、信託行為や受託者に対しては課税せず、受益者が信託財産を所有しているものとみなして所得税、法人税などが課税されます。
また、通常、不動産を取得した場合には、所有権移転登記にかかる登録免許税や不動産取得税といった流通税が課されます。
しかし、信託受益権で取得した場合は、大幅に税負担が軽減されます。
具体的には以下のようになります:
- 登録免許税:信託による財産権の移転登記は非課税となります。第三者に対抗するためには信託の登記をしなければならないが、この税率は0.4%です。また、信託受益権を売買した場合には、受益者変更登記を行いますが、この費用は1件あたり1,000円です。
- 不動産取得税:信託によって委託者から受託者に信託財産を移した場合には非課税となります。また、信託受益権は不動産ではないので、何度売買を繰り返しても非課税扱いです。ただし、信託の終了または解除によって現物不動産に戻した時に、不動産取得税が課されます。
これらの税制優遇措置は、不動産の証券化を促進し、資本市場の発展を支えるために設けられています。
不動産証券化は、多様な投資家の需要を満たし、不動産市場の流動性を高め、不動産オーナーにとっても新たな資金調達手段となります。
しかし、その過程では法的・税制上の複雑さを伴うため、各関係者の専門知識と協力が必要となります。
次回は、不動産価格の特徴と決定要因を把握して不動産投資のロスを軽減させることについてです。