
1. CBTとは(定義・目的・適用)
1-1. 定義
自動思考—感情—行動—身体のループを可視化し、検討(reappraisal)と行動実験で現実適合性と機能性を高める介入。
1-2. 目的
- 症状の軽減と再発予防(スキル獲得)
- 自己効力感の回復と生活機能の改善
1-3. 適用の射程
うつ病、不安障害(社交不安・パニック・強迫など)、PTSD、摂食障害、物質/行為嗜癖、慢性疼痛、睡眠障害、性格傾向に伴う対人困難 等。
2. エビデンス概観
2-1. 有効性
- うつ:薬物療法と同等水準の効果が報告され、再発予防に有利な所見も。
- 不安:多くの不安障害で薬物と同等〜上回る効果。暴露法を含むと中等度以上の改善が期待。
- PTSD:トラウマ焦点CBTは主要第一選択の一つ。
効果は重症度・併存疾患・治療忠実度・ホームワーク遵守で変動。
3. 作用機序(なぜ効くのか)
3-1. 認知の更新
自動思考の偏り(破局化・過度の一般化・心の読みすぎ等)を検討し、よりバランスの取れた仮説へ置換。
3-2. 行動の修正
回避や安全確保行動を小さく外し、現実検証の機会と成功体験を増やす。
3-3. 生理の調整
呼吸・睡眠・運動などのセルフケアで過覚醒を下げ、学習を通りやすくする。
4. 標準プロトコル(8〜16回)
前半:評価と地図づくり
- 目標設定(症状ではなく機能基準)
- 問題リストと優先順位
- ホットシチュエーションのABC記録
後半:実験と維持
- 認知再評価+行動実験(段階的)
- 暴露(不安系)、行動活性化(うつ系)
- 再発予防プラン(トリガー&対処)
5. 代表的技法(テンプレ付き)
5-1. ABC(出来事→信念→結果)
狙い
状況と解釈を分離して見立てを言語化。
記入テンプレ
B 思考:__(自動思考/0-100%確信度)
C 結果:感情__(0-100)/行動__/身体__
5-2. 認知再評価(ソクラテス式質問)
狙い
根拠と反証を並べ、代替思考を作る。
質問セット
1週間後にも同じ評価?友人に同じ状況なら何と言う?
代替思考:__(根拠つき) 確信度:__% → 感情強度:__
5-3. 行動実験
狙い
机上の再評価を現実で検証し、学習を固める。
計画テンプレ
実験:__(小ステップ・期限)
安全確保行動:__を“外す”
結果:__/意外だった点:__/次の一手:__
5-4. 行動活性化(うつ)
狙い
回避→無活動→気分低下のループを断つ。
1日の配分
“5分スタート”でOK。完了ごとに小報酬を設計。
5-5. 暴露と反応妨害(不安・強迫)
狙い
恐怖刺激に段階的に晒し、安全確認や回避をやめて新しい学習を形成。
階層表
レベル20:__/40:__/60:__/80:__
各段階で滞在時間:__分、反応妨害:__を実施
6. ホームワーク運用
6-1. 原則
- 短時間×高頻度(毎日5〜10分でも可)
- フォーマット固定(迷わない道具化)
- 次回までの障害を先読みして代替案を用意
6-2. 週次ダッシュボード
ABC記録:__件/行動実験:__件
主観苦痛ピーク__/10 → 週末__/10
7. よくある躓きと修正
7-1. 頭でっかち(再評価のみ)
→ 小さな実験で検証までセットに。
7-2. 完璧主義で未着手
→ “5分だけ/60%で提出”ルールを導入。
7-3. 回避と安全行動の温存
→ 階層表を細かく刻み、外す行動を先に決める。
8. 薬物療法との併用
8-1. 併用の利点
- 重症例の初期症状を緩め、学習効率を上げる
- 維持期はCBTスキルが再発予防を支える
8-2. 連携
主治医と目標・副作用・減薬方針を共有。無理な自己判断は避ける。
9. 適応・禁忌・注意
9-1. 適応
- 思考・行動パターンが症状を維持している
- 課題に取り組む意欲が一定ある/支援が得られる
9-2. 注意・禁忌相対
- 急性自殺リスク・極度の過覚醒:安全確保を最優先
- 重度の認知障害:課題の簡略化や他法の併用
- トラウマ暴露は準備と同意が整ってから段階的に
10. 他アプローチとの統合
10-1. マインドフルネス/メタ認知
気づきと距離(メタ認知)で再評価の土台をつくる:MBC
10-2. コンパッション
自己批判が強い場合はCFT要素を併用:CFT
11. よくある質問
Q1. どれくらいで効果が出ますか?
個人差はありますが、8〜16回で主要スキルを獲得し始めることが多いです。
Q2. 自分だけで始められますか?
セルフヘルプは可能ですが、うつ・不安が強い時は専門家と伴走を推奨。
あなたの文脈に合わせて、目標設定とホームワーク設計から着手します。
まとめ
CBTは、見立て→再評価→行動実験→振り返りの反復です。完璧を狙わず、5分の最小実験から回し続ける——ここに効果の核心があります。