キャッシュバランスプランという“中間解”──年金を「約束」と「自己責任」のあいだで設計する

キャッシュバランスプラン──「確実さ」と「持続」を両立させる、退職後の輪郭の整え方

キャッシュバランスプランは、確定給付企業年金法の枠組みの中で認められた年金制度の一つです。制度の分類としては企業年金ですが、ここで大事なのは名称ではありません。

退職後の生活を考えるとき、多くの人が最初に「いくら必要か」を計算します。もちろん計算は必要です。ただ、計算だけでは輪郭が立ち上がらないことがあります。なぜなら、老後の安心とは、金額の多寡よりも、“見通しの持ち方”に強く左右されるからです。

キャッシュバランスは、確定給付と確定拠出の中間に位置づけられることが多い制度です。けれど本質は、制度の中間というより、「約束しすぎないことで、破綻しにくくする」という設計思想にあります。つまり、“確実さ”と“持続”を同時に扱う制度です。

キャッシュバランスの核:仮想個人口座という「輪郭の見える化」

仕組みは比較的シンプルです。従業員ごとに「仮想個人口座」を設定し、そこに拠出額を積み上げ、一定の再評価率(利息のようなもの)を付与しながら残高を形成します。最終的に積み上がった金額が給付額の基礎になります。

流れ

  1. 従業員ごとに仮想個人口座を設定する
  2. 各人別に定めた拠出額を仮想口座に累積する
  3. 一定の再評価率に基づく利息を付与して増やす
  4. 最終的に積み立てられた金額が支給額の基礎になる

この「仮想口座」は、実務的には管理のための仕組みですが、生活設計として見ると意味が変わります。確定給付のように“式で決まる”場合、受け取る側の手触りはどうしても薄くなりがちです。仮想口座は、制度がもつ抽象性を少しだけ下ろし、「自分の退職後資金のかたち」を見える位置に引き寄せます。

再評価率を固定しない──「約束のしかた」を調整する設計

キャッシュバランスの特徴は、再評価率を固定せず、あらかじめ定めた客観的な指標(国債の応募利回りなど)と連動させることで、運用のリスクを軽減する点にあります。

ここには重要な含意があります。退職給付制度において最も壊れやすいのは、現実(市場環境)が変わっているのに、約束の形式だけが変わらないという状態です。利回りを固定で保証するほど、低金利局面では制度が歪みやすくなります。一方で、指標連動は「環境の変化を制度側が引き受ける」形になります。

それは、受給者にとっては“増え方が変わり得る”ということでもあります。しかし同時に、企業側の無理な穴埋めが連鎖しにくく、制度が継続しやすい。つまり、キャッシュバランスは「絶対額の確実さ」ではなく、「制度が続く確実さ」に比重を移した設計とも言えます。

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運用と責任:運用は企業、輪郭は個人

キャッシュバランスは、制度全体として一括運用されます。運用リスクは企業が負う。一方で、従業員ごとの持分は仮想口座で個別に管理されます。ここが、確定給付とも確定拠出とも異なるポイントです。

  • 制度全体で一括運用(運用は企業責任)
  • 従業員持分は個別に整理(仮想個人口座あり)
  • 加入者は、運用指図を直接行うわけではない

確定拠出のように「選ぶ責任」を個人に渡し切らず、確定給付のように「結果の約束」を固定し切らない。キャッシュバランスは、その中間に“設計上の余白”を残しています。

比較の要点:どこに「責任」が置かれているか

確定給付年金キャッシュバランス確定拠出年金(企業型)
運用企業責任企業責任従業員
資産残高企業一括管理・個人別口座なし企業が従業員持分を個別に管理・個人口座あり従業員が個人の責任で個人口座を管理
掛金企業が拠出・加入者も拠出できる企業が拠出・加入者も拠出できる原則として企業が拠出(規約によりマッチング拠出可)
給付給付額を約束。不足すれば企業が穴埋め市場金利に応じて変動。指標利率分は企業が保証運用次第で変動

制度比較は「得か損か」で終えると、かえって見誤ります。重要なのは、自分がどの種類の確実さを求めているかです。金額の固定が安心になる人もいれば、制度が無理なく続くことが安心になる人もいます。

この制度を読むための問い

キャッシュバランスを「制度の名前」として理解しても、老後の輪郭は濃くなりません。輪郭が濃くなるのは、自分の側に問いが立ったときです。

  • 退職後の安心は、「受取額が固定されること」なのか、「制度が続くこと」なのか。
  • 自分は、変動を許容できる領域と、許容できない領域をどう切り分けているか。
  • 年金制度を、資産形成の道具としてだけ扱っていないか。それ以外に守りたい生活の軸は何か。

キャッシュバランスは、万能ではありません。ただ、制度の設計思想としては明確です。変化する環境の中で、約束を現実に合わせて調整し、破綻しにくい形で持続させる。その結果として、退職後の資金が「完全に固定」でも「完全に自己責任」でもない位置に落ち着きます。

まとめ

キャッシュバランスプランは、確定給付と確定拠出の“中間”という説明で片づけるより、「約束の仕方を変えることで、制度の持続と見通しを両立させる」仕組みとして捉えるほうが、老後設計に直結します。

退職後の生活は、数字だけで決まるものではありません。しかし、数字を曖昧にしたままでも、安心は形になりにくい。キャッシュバランスは、その間にある「輪郭」を整えるための制度の一つです。

次回は中小企業退職金共済制度と国民年金基金についてです。

暮らしの輪郭を、内側から描きなおす

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