物納できる財産とできない財産を把握して不適格財産を無くしておこう

相続税の物納について

税金は金銭で一括納付することを原則としていることは何度も申し上げました。

しかし、相続税は一時に多額の納税資金を必要とする場合もあるので、期限までに金銭納付することが困難なケースもあるでしょう。

そのため一定の要件を備えた場合に限り、相続税の物納が認められています。

なお、物納の一定要件は次の通りです。

物納の一定要件

  1. 延納によっても金銭で納付することが困難で、金銭で納付することを困難とする金額が限度。
  2. 申告期限までに物納申請書および物納手続関係書類を提出し、税務署長の許可を得ること。
  3. その財産が物納適格財産であること。

なお、限度額については、貸付金の返還、退職金の受給確定、資産の購入など、概ね1年以内に確実と認められる金銭収入および臨時的支出も考慮されます。

具体的には「金銭納付を困難とする理由書」に基づき計算します。

では、次に物納の手続き関連についてです。

物納の手続きについて

  1. 相続税の納付期限までに金銭納付が困難な金額
  2. 困難とする事由
  3. 物納を求めようとする税額
  4. 物納財産など

上記を記載した物納申請書に物納手続関係書類を添付した上で、所轄税務署長に提出することになっています。

その後、一定の調査を経た後に全部または一部の物納許可、または却下が書面により通知されるという手順になります。

なお、物納申請書の提出期限までに、物納手続関係書類の全部または一部を提出することができない場合には、「物納手続関係書類提出期限延長届出書」を提出することにより提出期限を延長することができます。

この提出期限延長届出書には提出回数の制限がなく、3カ月の範囲で期限の延長を順次行っていくと、最長で1年間提出期限の延長ができます。

物納が許可された場合

物納財産の引き渡し、所有権の移転登記など第二者への対抗要件を満たしたときに納付があったものとされます。

また、相続税の納付期限から第三者への対抗要件を満たすまでには一定の期間を要します。

もし、物納許可後7日以内に所有権の移転登記を完了できない場合は、7日を経過した日から所有権移転手続きを完了した日までの利子税が必要になるので注意してください。

利子税について

物納申請をした場合には、物納許可により納付があったものとみなされる日までの期間のうち、物納必要書類の訂正などまたは物納申請財産の収納にあたり措置を行う期間、却下などが行われた日までの期間について利子税がかかります。

参考▼

利子税の割合は「年7.3%」、もしくは「前々年の10月から前年の9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利を12で除して得た割合として各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に、年1%を加算した割合」のいずれか低い割合。

物納申請書の提出があった場合には、物納申告書の提出期限の翌日から3カ月以内に申請に係る税額の全部または一部について物納財産ごとに、物納の許可または却下が判定されます。

なお、税務署長が物納申請事項などの調査を行う場合において、物納申請財産が多数であることなどにより調査に3カ月をこえると認めるときは6カ月。

積雪などで財産が確認できない場合は、最長で9カ月認められるケースもあります。

また、物納できる財産には、その順位があらかじめ決められています。

物納できる財産の順位など

物納できる財産

  • 物納申請者の相続税の課税対象となった財産(相続時精算課税の適用を受けるものを除く)。
  • 課税対象となった財産を処分などして取得した財産。
  • 相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産で、相続税の課税価格に加算された財産。

物納できる財産の範囲

  • 国債および地方債
  • 不動産および船舶
  • 社債、株式、証券投資信託・貸付信託の受益証券
  • 動産

物納に充てることのできる順位

第1順位

  1. 国債および地方債と不動産および船舶
  2. 不動産のうち物納劣後財産

第2順位

  1. 社債、株式、証券投資信託・貸付信託の受益証券
  2. 「株式のうち物納劣後財産」

第3順位

  1. 動産

※特定登録美術品は、上記順位にかかわらず物納に充てることができる。

物納できない財産

物納できない財産は、物納管理処分不適格財産ということになります。

例えば、それが不動産の場合だと、次のものが物納に不適格な財産と判断されます。

  1. 担保権が設定されていることその他これに準ずる事情がある不動産。
  2. 権利の帰属について争いの有る不動産。
  3. 境界が明らかでない土地。
  4. 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産。
  5. 他の土地に囲まれていて公道に通じない土地で民法第210条による規定による通行権の内容が明確でないもの。
  6. 借地権の目的となっている土地で、当該借地権を有する者が不明であること、その他これに類する事情があるもの。
  7. 他の不動産(地上権も含む)と社会通念上一体として利用されている不動産若しくは利用されるべき不動産または二以上の者の共有に属する不動産 。
  8. 所得税法の規定に基づいて定められている耐用年数を経過している建物(通常の使用ができるものを除く。)
  9. 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産(申請者において清算することを確認できる場合を除く。)
  10. その管理または処分を行うために要する費用の額がその収納価観と比較して過大となると見込まれる不動産。
  11. 公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある目的に使用されている不動産その他社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産。
  12. 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
  13. 地上権、永小作権、貸借権、その他の使用および収益を目的とする権利が設定されてる不動産で暴力団員などが権利を有している不動産など一定のもの。

また、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り物納が認められているものもあります。

これを物納劣後財産と呼んでいます。

物納劣後財産

  1. 地上権、永小作権若しくは耕作を目的とする賃借権、地役権または入会権が設定されている土地。
  2. 法令の規定に違反して建築された建物およびその敷地。
  3. 土地区画整理法による土地区画整理事業などの施行に係る土地などにつき仮換地または一時利用地の指定がされていない土地(当該指定後において使用または収益をすることができない土地を含む。)
  4. 現に納税義務者の居住の用または事業の用に供されている建物およびその敷地(当該納税義務者が当該建物およびその敷地について物納の許可を申請する場合を除く。)
  5. 劇場、工場、浴場その他の維持または管理に特殊技能を要する建物およびこれなどの敷地。
  6. 建築基準法第43条第1項に規定する道路に2メートル以上接していない土地。
  7. 都市計画法の規定による都道府県知事の許可を受けなければならない開発行為をする場合において、当該開発行為が開発許可の基準に適合しないときにおける当該開発行為に係る土地。
  8. 都市計画法に規定する市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成することができるものを除きます。)
  9. 農業振興地域の整備に関する法律の農業振興地域整備計画において農用地区域として定められた区域内の土地
  10. 森林法の規定により保安林として指定された区域内の土地
  11. 法令の規定により建物の建築をすることができない土地(建物の建築をすることができる面積が著しく狭くなる土地を含みます。)
  12. 過去に生じた事件または事故その他の事情により、正常な取引が行われないおそれがある不動産およびこれに隣接する不動産
  13. 事業の休止(一時的な休止を除きます。)をしている法人に係る株式。

以上国税庁サイトから抜粋

物納不適格財産の対策について

現状物納財産として不適格なものを物納対象としたいという場合は、前述した要件などを整備して「物納できる」財産に変えるという試みが必要でしょう。

例えば、隣接地との境界が明確でない土地があったなら、測量してそれを明確にする作業を行うといったことです。

また、これらの作業を存命中に行っておけば、その費用分が相続財産から減少し、相続税の軽減にもつながるでしょう。

遺産分割についても、物納適格財産を相続人が相続できれば、より円滑な承継・納税が可能になってきます。

したがって、上記要検討を勘案していただいて、実際に行動していただくことがもっとも重要です。

物納財産の収納価額

物納財産の収納価額は、原則として課税価格計算の基礎となった財産の価額です。

例えば、小規模宅地などの課税価格の特例を受けている土地などは減額後の価額が収納価額になります。

ですから、特例を適用する宅地の選択について慎重に検討する必要があるでしょう。

また、収納時までに土地の地目変換があったなど著しい状況変化のあったときは、収納時の現況により収納価額が改訂される。

なお、地目変換とは登記簿上の地目変換ではなく、現況の地目変換を意味します。

物納の再申請

物納申請で却下をされた場合、その却下の日の翌日から20日以内に、却下された財産ごとに一度に限り物納の再申請をすることができます。

また、延納により金銭で納付することを困難とする事由がない、物納申請税額が延納により納付を困難とする金額より多い場合は、却下された翌日から20日以内に延納申請書を提出できます。

延納条件の変更をしても延納が困難となった場合

申告期限から10年以内に限り、延納税額から納付期限の到来した分納税額を控除した残額のうち、納付を困難とする金額を限度として、物納を選択することができます。

これを特定物納制度と呼んでいます。

なお、小規模宅地などや特定事業用財産について、相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けている財産は、特定物納制度による物納はできません。

また、特定物納対象税額などを記載した申請書に物納手続関係書類を添付し、納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

その期間は相続税の申告期限の翌日から10年以内です。

この場合の収納価額は、物納申請時の価額です。

また、特定物納の場合は、物納手続関係書類の提出期限の延長はできません。

管理処分不適格財産の範囲

地上権、賃借権その他の権利が設定されている不動産で、その権利を有する者が次に掲げる者であるもの

  1. 暴力団員その他一定の者(以下「暴力団員など」という)
  2. 暴力団員などが役員となっている法人
  3. 暴力団員などが事業活動を支配する者

暴力団員などが役員となっている法人または暴力団員などが事業活動を支配する法人が発行した株式

物納の撒回制度

賃借権その他の不動産を使用する権利の目的となっている不動産がある場合

その物納の許可を受けた者が、その後物納にかかる相続税を金銭で一時に納付し、または延納の許可を受けて納付することができるようになったとき、物納の許可を受けた日から1年以内の申請により、その物納の撤回の承認を受けることができます。

この場合、物納の撤回を求めようとする理由などを記載した物納撤回承認申請書を納税地の税務署長に提出する必要があります。

税務署長は、その申請が要件に該当するか否かを調査し、撤回を承認し、または却下します。

物納の撤回により、物納税額分の相続税は一時納付または延納により金銭納付することになります。

なお、延納の許可を申請する場合は、物納撤回申請書と同時に担保の提供に関する書類を添付した延納申請書を所轄税務署長に提出する必要があります。

次回は相続後の資産売却による納税資金手当などについてです。

ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。

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