企業が従業員に提供する福利厚生の一環として、企業保険は重要な役割を果たします。特に、死亡退職金、弔慰金、生存退職金の支給は、従業員やその家族にとって大きなサポートとなり得ます。この記事では、これらの保険金の役割と、企業の経理処理方法について解説します。
死亡退職金、弔慰金支給を目的とする企業保険
企業において死亡退職金や弔慰金を準備する方法の一つとして、企業保険の保険金を利用する方法があります。これにより、従業員や役員の死亡保障を充実させることができるだけでなく、企業の財務負担を軽減することも可能になります。また、従業員や役員個人が利用できる企業保険も存在し、これらの保険は従業員の福利厚生の一環として提供されることがあります。ここでは、そのような企業保険の例として、総合福祉団体定期保険や団体定期保険(Bグループ保険)について解説します。
総合福祉団体定期保険
総合福祉団体定期保険は、従業員やその家族の福祉を目的として企業が加入する保険です。この保険は、従業員が死亡した場合に遺族に保険金が支払われるほか、高度障害状態になった場合の保障も含まれていることが多いです。また、特定の疾病診断時や入院時の給付金を設定できるオプションも存在し、従業員の生活を幅広くサポートすることが可能です。
団体定期保険(Bグループ保険)
団体定期保険(Bグループ保険)は、従業員や役員が個人的に利用できる保険で、企業が契約者となり従業員が被保険者となる形式をとります。この保険は、死亡保障を主な目的としており、保険期間中に被保険者が死亡した場合に保険金が支払われます。グループ契約であるため、個人で保険に加入する場合と比較して保険料が低廉に設定されることが特徴です。
総合福祉団体定期保険とBグループ保険の比較
契約形態 | 総合福祉団体定期保険 | Bグループ保険 |
契約目的 | 死亡退職金・弔慰金の支給 | 自助努力による死亡保障の充実の支援 |
契約者 | 企業 | 企業 |
保険料負担者 | 企業 | 従業員・役員 |
被保険者 | 従業員・役員 | 従業員・役員 |
保険金受取人 | 従業員・役員の遺族また企業 (被保険者の同意が必要) |
従業員・役員の遺族 |
保険料の税務について
上記のように契約形態が異なるため主契約の保険料および特約保険料の税務上の扱いが違ってくる。
Bグループ保険の場合、契約者は企業で、保険料負担者は従業員・役員になる。
そのため企業の損益には一切関係ない。
課税関係 | 総合福祉団体定期保険 | Bグールプ保険 |
企業の損益 | 保険料は支払保険料または福利厚生費として損金計上 | 課税関係は生じない(従業員・役員が保険料負担者であるため) |
従業員・役員の所得 | 課税関係は生じない。ただし役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者とする契約のばあいは給与として課税 | 従業員・役員の支払った保険料は生命保険料控除の対象となる |
受取契約者配当の税務
総合福祉団体定期保険の場合、もしも契約者配当が発生した場合には企業が受け取る。
Bグループ保険の場合は、保険料負担者である従業員・役員が受け取る。
課税関係 | 総合福祉団体定期保険 | Bグールプ保険 |
企業の損益 | 受取契約者配当は雑収入として益金に計上 | 課税関係は生じない |
従業員・役員の所得 | 課税関係は生じない。 | 課税関係は生じない |
死亡保険金の税務
課税関係 | 総合福祉団体定期保険 | Bグールプ保険 | |
企業の損益 | 保険金が保険会社から直接遺族に支払われる場合 | 課税関係は生じない | 課税関係は生じない |
保険金が企業経由で遺族に支払われる場合 | 保険金は益金になるが、遺族に支払った死亡退職金や弔慰金は原則として損金計上(役員の死亡退職金などが適正額からみて課題であれば、課題部分は損金に算入できない | ||
従業員・役員の所得 | 死亡退職金として受け取る時 | みなし相続財産として相続税の課税対象「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある | 死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある |
弔慰金として受け取る場合 | 報酬月額の6カ月(業務上では36カ月分)までは相続税の非課税。それをこえる部分は死亡退職金として取り扱われる |
生存退職金の支給を目的とする企業保険
生存退職金の支給を目的とする企業保険は、従業員が退職する際に安定した収入源を提供することで、退職後の生活をサポートします。これには厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金などがあり、それぞれ異なるメカニズムと税務処理が特徴です。以下では、これらの企業年金の概要と税務処理について解説します。
厚生年金基金
厚生年金基金は、企業が従業員に対して提供する厚生年金の一形態で、公的年金(厚生年金保険)の上乗せとして設計されています。企業や従業員が拠出金を支払い、退職後の年金として受け取ります。
税務処理
- 企業の拠出金:企業が基金に支払う拠出金は経費として認められ、税務上の損金扱いになります。
- 従業員の受取年金:受け取る年金は、所得税法上の雑所得として課税対象となります。
確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金は、退職時の給付額があらかじめ確定している年金制度です。企業が責任を持って必要な資金を運用し、従業員が退職する際に約束された金額を支払います。
税務処理
- 企業の拠出金:拠出金は企業の経費として扱われ、税務上損金になります。
- 従業員の受取年金:退職金として受け取った場合、退職所得として一定の控除を受けた後に所得税が課されます。
確定拠出年金(DC)
確定拠出年金は、従業員個人のアカウントに企業や従業員自身が定期的に拠出金を積み立て、その資金を運用して得た収益を基に退職後の年金が支給される制度です。運用リスクは従業員が負担します。
税務処理
- 企業の拠出金:拠出金は経費処理され、税務上の損金となります。
- 従業員の受取年金:受け取る年金は雑所得として課税されますが、確定拠出年金の場合、特定口座での運用益は非課税です。
保険料の税務
保険料(以下「掛け金」という)は、企業が負担するが、従業員がその一部を負担することもできる。
課税関係 | 厚生年金基金 | 確定給付企業年金・確定拠出年金(企業型) |
企業の損益 | 法定福利費として、損金算入 | 退職金掛け金または福利厚生費として損金算入 |
従業員の所得 | 企業が負担した掛け金に対しては、課税関係は生じない。従業員が負担した掛け金は、社会保険料控除の対象となる | 企業が負担した掛け金に対しては、課税関係は生じない。従業員が負担した掛け金は確定給付企業年金であれば生命保険料控除、確定拠出年金であれば小規模企業共済など掛け金控除の対象となる |
受取配当金の税務
課税関係 | 確定給付企業年金 |
企業の損益 | 契約者配当として益金算入 |
従業員の所得 | 課税関係は生じない |
特別法人税などの税務
確定給付企業年金、厚生年金基金、確定拠出年金の年金積立金の残高に対して1.173%が特別法人税などとして課税される。
しかし、特別法人税などは、積立金の運用収益から直接控除されるため、企業には経理処理や課税関係は発生しない。
注意!特別法人税などは平成29(2017)年3月末日まで課税が凍結。
年金や一時金の給付の税務
年金や一時金は、年金積立金を預かる受託機関があり、そこから従業員やその遺族に支払われる。
そのため、企業に経理処理や課税は発生しない。
なお、従業員が掛け金を負担した場合は、受け取った年金や一時金から従業員負担分を控除した金額が、従業員の所得税の課税対象になる。
①年金受給の税務
- 受給権を取得した時点では、従業員には課税されない。
- 実際に年金を受給する場合、厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金はともに公的年金と同様に雑所得として課税される。
②一時金の税務
- 厚生年金基金の加算部分の年金は、年金に代えて一時金での受給を選択することができる。
- 確定給付企業年金、確定拠出年金も一時金での受給を選択できる。
- この場合の一時金は退職所得として課税され、退職所得控除を受けることができる。
- 確定給付企業年金、確定拠出年金を企業が解約する場合、年金積立金は従業員に返還される。
- 従業員が受け取った年金積立金の分配金は、原則として一時所得として課税される。
特定退職金共済制度の税務
特定退職金共済は、所得税法施行令に規定された退職金制度だ。
掛け金の税務
企業が負担し、掛け金は損金算入。従業員に課税関係は発生しない。
年金の税務
雑所得として、公的年金などと同様に控除を受けることができる。
一時金の税務
退職所得として、退職所得控除を受けることができる。
まとめ
企業保険を通じた死亡退職金・弔慰金、生存退職金の支給は、従業員及びその家族に対する大切なサポートとなります。これらの支給は、企業の経理処理においても適切に管理される必要があり、企業の責任として適正に処理することが求められます。企業にとって、従業員への保険の提供とその経理処理は、従業員の福利厚生の向上と企業の信頼性の確保に直結する重要な業務です。
次回は、「生命保険の機能をうまく生かしてタイプに即して保障設計を行う」です。