

不動産を調査する側の動きを知ることは、不動産取引を円滑に進めるために必要な知識です。
そこで今回の不動産活用ガイダンスは、現地調査、登記記録調査、関連法規による制限の調査など不動産の調査方法と不動産登記制度の必要性などについてです。
物件調査と不動産取引
- まず相談者や依頼者との面談を行う。
- 活用の目的および要望などを十分に聴取する。
- 聴取した内容をもとに調査を行う。
現地での調査
①交通・接近状況
- 最寄り駅や、駅からのルート、駅からの距離。
- バス便であれば最寄り駅からの時間、バス停からの距離。
②市場性など
- 賃貸需要がどの程度見込めるのか、現地や周辺の状況を調査。
- 必要な場合は、宅地建物取引業者への間き込みを行う。
③現地の状況
- 現地は更地か、または建物が建っているかを確認。
- 新たに建物を建設する場合は、解体撤去に要する期間や費用を調査。
④地形、地勢
- 土地の形状や傾斜、高低差などのおおよそを目視で確認。
⑤境界
- 現地には、境界杭があるか、塀などに境界らしきペイントがあるかを確認。
- 越境物はないかどうかも目視で確認。
⑥道路
- 接道状況
※接道状況によっては共同住宅などの建設ができない場合があるので注意
- 隣地の通行の用に供されている部分はないか。
- 袋地通行権の対象となる囲続地ではないか。
権利関係調査の前に目視で状況を把握しておく必用がある。
登記記録などの調査
依頼者などとの面談および提示された資料に基づき権利関係を確認。
(1)所有者
対象となる不動産の所有者について、登記事項が記載された登記事項証明書の交付を受けるなどにより確認。
現地に居住していて、所有者であると思われる場合でも相続登記が未了で依頼者などの所有名義となっていないケースがある。
したがって、登記記録の調査は必要。
また、所有者確認のため固定資産評価証明書や固定資産税・都市計画税関係証明(公課証明)書を依頼者などに求めることが必要な場合もある。
(2)所有権以外の権利
借地権の場合は、土地の登記記録には登録されていないケースがほとんど。
借地権の対抗力は建物の登記により与えられるからだ。
- 対象となる土地に通行権を認めている場合でも、地役権の登記がされていないケースもある。
※地役権とは、引水や通行を目的として自己の土地のために他人の土地を利用する物権のこと。
- 土地が私道に面している場合は、私道の共有持分などを有するかについて登記記録を調査。
私道については、共有持分などはないが、私道協定に基づき負担金を支払うことによって、使用権を有している場合もある。
したがって、依頼者などからよく聴取する必要がある。
関連法規による制限の調査
「不動産関連法」に掲げられている法令による制限について調査する必要がある。
都市計画図の活用
都市計画図とは、市や東京の各特別区などの範囲で不動産に関する公法規制のこと。
具体的には、
- 市街化区域および市街化調整区域の別
- 用途地域その他の地域地区
- 容積率および建ぺい率並びに都市計画道路
などの内容を地図上に記載したもの。
都市計画図は各役所で作成しているものや市販のものがある。
都市計画図は役所調査の前にその概要を調査することができる有効な資料だ。
用途地域その他都市計画図に記載されている内容は、役所の担当課で詳細に調査、確認することができる。
- 用途地域
- 容積率、建ぺい率
- 防火、準防火地域
- 日影規制
- 特別用途地区
- 地区計画
- 高度地区
- 都市計画道路、公園
上記が都市計画図に記載されている主な内容だ。
不動産の調査先
不動産に関する権利関係および公法上の規制に関する調査先の主なものは以下の図のとおりだ。
図表5‐3
調査先 | 調査内容 | 調査資料など | 備考 | |
物的内容 権利関係 | 登記所(法務局、地方法務局またはその支所、出張所) | 所在 数量 種別 権利関係 (所有権、所有権以外の権利) | 登記事項証明書 登記事項要約書 公図・14条地図 地積浪1量図 建物図面 地役権図面 | |
市町村役場(23区内は都税事務所) | 固定資産課税台帳における所有者 数量 | 閲覧や証明書の交付のために、通常、本人の委任状を要する | ||
土地区画整理組合事務所、市町村役場(区画整理課)、その他 | 形状、数量 | 仮換地証明 仮換地図 合わせ図 換地確定図 | 所有者に仮換地通知、換地通知の提示を求めることも必要 | |
都市計画関係 | 市町村役場(都市計画課、23区内は区役所) | 用途地域 その他の地域地区 (制限の概要) | 市町村役場などの担当者から聴取 | 都市計画図は市販されており、それによる調査もできる |
道路関係 | 市町村役場(道路課、建築課など、23区内は区役所)、国道・県道管理事務所、土木事務所、その他 | 道路幅員 道路の種類 位置指定道路 42条2項道路 道路境界 | 市町村役場などの担当者から聴取 | 管理している部署の名称や、国道、県道の管理先は地域により名称や管理先が異なるので確認のこと |
供給処理施設 | ガス会社営業所 | 都市ガス供給状況 | ガス(都市ガス)会社の担当者より聴取 | |
水道局営業所など | 上水道 | 担当者より聴取 | ||
下水道局など | 下水道 | 担当者より聴取 | ||
その他 | 教育委員会 | 埋蔵文化財など | 担当者より聴取 | |
電力会社、法務局 | 高圧電線路下の制限 | 担当者より聴取 | ||
市町村役場(環境保全課など、23区内は区役所) | 土壌汚染 | 担当者より聴取 | 役所への届出の有無や土地の過去の用途などを確認する |
不動産登記制度の必要性
不動産登記とは、法務局(登記所)で管理された不動産登記記録に、登記官が不動産の物理的概要や所有権その他の権利の変動を登録し、公示することだ。
※物件的概要とは、所在地、面積、構造などのこと。
物権は、その性質として排他的効力がある強い権利だ。
そのため、物権の存在が公示されていないと第二者に不測の損害を与え、取引の安全が損なわれることになる。
だから、民法において不動産については登記を、動産については引渡し(占有移転)をもって、それぞれの公示方法としている。
不動産登記が可能な権利としては、
- 所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権。
- 採石権や不動産賃借権も登記可能な権利。
※注意:占有権や留置権、入会権などは不動産物権であるが登記することはできない。
不動産登記記録など
登記記録、表示に関する登記または権利に関する登記について、一筆の土地または一個の建物ごとに作成される電磁的記録(データ)。(不動産登記法による定義)
具体的には、
- 登記簿:登記記録が記載される帳簿(記録媒体)であって、磁気ディスクなどをもって調製するもの。
- 表題部:登記記録のうち、表示に関する登記が記載される部分。
- 権利部:登記記録のうち、権利に関する登記が記載される部分。
- 登記事項:不動産登記法の規定により登記記録として登記すべき事項。
- 表題登記:表示に関する登記のうち、当該不動産について表題部に最初にされる登記。
ということになる。
登記の種類
(1)表示に関する登記と権利に関する登記(同法2条他)
表示に関する登記は、土地や建物の物理的概要を記録するもの。
登記原因や登記の年月日など、土地については所在、地番、地日、地積など。
建物については所在、地番、家屋番号、建物の種類、構造、床面積などが表題部に記録される。
権利に関する登記は権利部に記録される。
権利部は、甲区および乙区に区分。
- 甲区には所有権に関する登記の登記事項を記録する。
- 乙区には所有権以外の権利(例:地上権、抵当権、賃借権など)に関する登記の登記事項を記録する。
(不動産登記規則4条4項など)
(2)仮登記
①仮登記が行われる場合(同法105条1号・2号)。
a)条件不具備(1号)
登記原因となる物権変動は、実体法上、すでに生じているが、登記申請に必要な手続き法上の条件が具備しないとき。
例えば、、、
農地の譲渡につき農業委員会などの許可が必要であり、許可は得ているが、許可書を提出できない場合など。
b)請求権の保全(2号)
物権変動がいまだ発生しておらず、物権変動を目的とする請求権を保全する場合。
例えば、売買契約に基づく所有権移転の請求権を保全する場合など。
c)条件または始期付権利(2号)
登記すべき権利変動が一定の条件または期限に関連付けられている場合に、条件成就または期限到来までの間、登記上の順位を保全する目的で行う仮登記。
売買契約後、売買代金の完済を条件として売買契約時の登記上の順位を保全するためなどに行われる。
②仮登記の順位
仮登記は、本登記に先立って行われる予備登記。
※予備登記とは、対抗力はないが間接的にこれを備えるための登記のこと。
従って対抗力はない。
仮登記の効力は、仮登記に基づいて本登記がなされると本登記の順位が仮登記をした時の順位となる。
仮登記に基づき本登記がなされると、その本登記と相容れない登記は効力を失う。
(3)本登記
権利に関する登記において登記本来の効力である対抗力を与え、または消滅させるなどの登記。
仮登記に対して本登記といわれている(同法106条)。
※同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがない限り登記の前後による(同法4条)。
4,不動産登記の効力
不動産登記には「推定力」「確定力」および「対抗力」が認められる。
※注意:「公信力」はない。
- 推定力:登記された事項は、実体的権利関係においても一応、真実とされるもの。
- 確定力:ある登記が存在する以上、その有効、無効にかかわらず、その登記を抹消するなどの手続きを行わない限りこれと矛盾する登記はできないとされるもの。
- 対抗力:不動産については登記がなければ、所有権の移転や抵当権の設定などの権利変動を第二者に対抗できないという効力。
例えば、土地売買契約をしたが、所有権移転登記をしないうちに、第二者にその土地を二重に譲渡された場合。
当初の買主は登記がなければ、その第二者に対し、自分に所有権があることを主張できない。
これが不動産登記の対抗力というものだ。
※この二重譲渡の場合、先に登記したほうが優先して所有権を取得する。
例えば、Aは売り主で、BとCはいずれも有効な売買契約に基づき買主の地位を有効に取得していると仮定する
つまり、所有権の移転および引き渡しを請求できる債権者としては同格である。
しかし、売買契約は後でも、Cが先に登記を備えた場合は、CのほうがBに優先して所有権を取得することができるということだ。
この場合、BはAに対して売買契約の債務不履行による損害賠償などは請求できるが、所有権は取得できない。
借地権については、その保護のため、借地上の建物の登記を行えば、借地権について対抗力が与えられる。
※借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権のこと。
賃借権には登記請求権がなく、また借地権といえばその多くが賃借権であるため、借地権は土地の登記記録にはほとんど登記されていないのが実情だ。
だから、借地借家法により借地上の建物の登記をもって借地権に対抗力を与えている。
調査によりその土地に土地所有者以外の者の所有する建物が建っている場合をよく見かける。
この多くは借地権が設定されている。
公信力とは、登記事項を信頼して、権利者として登記されている者と取引した者は、保護されるという効力だ。
日本の登記制度には、公信力は認められていない。
そのため、登記書類を偽造して登記された場合など、
真実の権利を反映しない登記事項を信頼して、登記上の権利者と取引した者は保護されない。
したがって、真実の権利者から、登記の返還を求められた場合、これに応じなければならない。
不動産の取引においては、
- 相手方が真実の権利者であるか
- その前の権利者も真実の者であったかどうか
それらを調査・確認しなければ、安心して取引することができない。
このように制度としては登記には公信力は与えられていない。
しかし、近年は判例において不実の登記がなされている事情を知らないで取引した第二者の保護が図られている例もある。
次回は不動産の登記申請についてです。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。