課税財産の範囲と所在判定
相続税の納税義務者は、個人(自然人)、人格なき社団、人格なき財団(相法66①~②)、持分の定めのない法人(相法66④)です。
つまり、相続税の納税義務者は、相続または遺贈(死因贈与を含む)により財産を取得した個人(自然人)ということになります。
また、人格なき社団、人格なき財団、持分の定めのない法人は、「みなし個人」という解釈です。
個人とみなして課税する場合
人格のない社団など
財産の遺贈または設立するために財産の提供が合った場合に課税されます。
しかし、公益事業の用に供するなど相続税の非課税規定に該当する場合は課税されません。
特分の定めのない法人
遺贈などにより遺贈者の親族などの相続税の負担が不当に減少する場合課税されます。
上記以外の場合は課税されません。
相続税の納税義務者と課税財産の範囲
納税義務者の住所が日本国内にある場合は、全世界すべての財産が課税対象になります。
外国に住所がある場合は、納税義務者が日本国籍か、それ以外かで課税の範囲が異なります。
日本国籍で一定の場合は、全世界すべての財産が課税対象になります。
ただし、「相続税の納税義務者(相続人・受遺者)」と「被相続人」の両方がともに「課税時期の前5年をこえて日本国外に居住している」場合には、日本国内に所在する財産の相続についてだけ相続税がかかります。
つまり、国外財産の相続については相続税はかからない、相続などにより財産を取得した時点において、外国に住所がある納税義務者が日本国籍を有していない場合には、相続などにより取得した財産のうち日本国内に所在する財産だけが課税対象となる(制限納税義務者)ということです。
国外転出する場合の譲渡所得などの特例に係る納税猶予の適用を受ける
国外転出をする場合の譲渡所得などの特例に係る納税猶予の期限の延長(所得税法第137条の2①)を受ける個人が死亡した場合または財産の贈与をした場合(所得税法第137条の2②)における相続税または贈与税の納税義務の判定に際しては、その適用を受けていた個人である被相続人または贈与者の住所は、相続若しくは遺贈または贈与前5年以内のいずれかの時において国内に住所を有していたものとみなされます。
贈与などにより非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得などの特例に係る納税猶予の適用を受ける
贈与により財産を取得した受贈者(所得税法第137条の3①)または納税猶予の適用を受ける相続人(所得税法第137条の3②)が死亡した場合、または財産の贈与をした場合には、相続税または贈与税の納税義務の判定に際しては、当該受贈者または相続人は、相続若しくは遺贈または贈与前5年以内のいずれかの時において国内に住所を有していたものとみなされます。
ただし、受贈者または相続人が譲渡所得などの特例に係る贈与または相続若しくは遺贈前5年以内に国内に住所を所有していたことがない場合は、無制限納税義務者の判定から除かれます。
上記以外の場合は日本国内にある財産のみが課税対象になります。
また、平成25年4月1日以後は、日本国内に住所を有しない個人で日本国籍を有しない者(制限納税義務者)が、日本国内に住所を有する者から相続などにより取得した国外財産を相続税または贈与税の課税対象に加えることになりました。
つまり無制限納税義務者となるということです。
相続、遺贈以外で財産を取得した場合は、贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものになります。
日本国に住所があるかどうか
相続税の納税義務者が、相続などにより財産を取得した時点において日本国内に住所を有している場合、取得した財産のすべてが課税対象となります。
これは日本国籍を有しているか否かとは無関係に被相続人が日本国内に住所を有している場合には同じ扱いになります。
つまり、日本国内にある財産だけでなく、国外にある財産も課税対象になるということです。
これに対して、納税義務者が日本国内に住所を有していない場合には、その納税義務者が日本国籍を有するか否かによって課税対象となる財産の範囲は異なります。
日本国籍かそれ以外か
その納税義務者が日本国籍を有している場合には、相続により取得した財産の所在を問わず、原則としてすべての財産が相続税の課税対象となります。
すなわち、無制限納税義務者は、その取得財産の全部に対して相続税・贈与税が課税され、制限納税務者については、日本国内にある財産に対してのみ、相続・贈与税が課税されるということになります。
以下に財産の所在の判定について掲載しておきます。
財産の所在判定
号 | 財産の種類 | 所在の判定 |
1 | 動産 | その動産の所在による |
不動産または不動産の上に存する権利 | その不動産の所在による | |
船舶または航空機 | 船籍または航空機の登録をした機関の所在による | |
2 | 鉱業権、租鉱権、採石権 | 鉱区または採石場の所在による |
3 | 漁業権または入漁権 | 漁場に最も近い沿岸の属する市町村またはこれに相当する行政区画による |
4 | 預金、貯金、積金または寄託金で次に掲げるもの ①銀行などに対する預金、貯金または積金 ②農業協同組合、農業協同組合連合会、水産業協同組合、信用協同組合、信用金庫、労働金庫に対する預金、貯金または積金 |
その受け入れをした営業所またIま事業所の所在による |
5 | 生命保険契約または損害保険契約の保険金 | その保険の契約に係る保険会社などの本店または主たる事務所の所在による |
6 | 退職手当金など | 退職手当金などを支払った者の住所または本店もしくは主たる事務所の所在による |
7 | 貸付金債権 | その債務者の住所またIま本店もしくは主たる事務所の所在による |
8 | 社債、株式、法人に対する出資または外国預託証券 | その社債もしくは株式の発行法人、出資されている法人または外国預託証券にかかる株式の発行法人の本店また|ま主たる事務所の所在による |
9 | 集団投資信託または法人課税信託に関する権利 | これらの信託の引き受:キをした営業所または事業所の所在による |
10 | 特許権、実用新案権、意匠権、商標権など | その登録をした機関の所在による |
11 | 著作権、出版権、著作隣接権 | これを発行する営業所または事業所の所在による |
12 | 相法7条の規定により贈与または遺贈により取得したものとみなされる金銭 | そのみなされる基因となった財産の種類に応じ所在を判定 |
13 | 上記1~12までの財産以外の財産で、営業所または事業所を有する者の営業上または事業上の権利(売掛金などのほか営業権、電話加入権など) | その営業所また1ま事業所の所在による |
14 | 国債、地方債 | 国債および地方債は、法施行地(日本国内)に所在するものとする 外国または外国の地方公共団体、その他これに準ずるものの発行する公債は、その外国に所在するものとする |
15 | その他の財産 | その財産の権利者であった被相続人または贈与をした者の住所 |
次回は「金銭に見積もることのできる経済価値」です。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。