言語行為を“作用”に変える:漏れ・ダブリ・ズレを潰す実装術
言語は事実を精密に写すには不十分ですが、無から作用を生み出す力を持ちます。逆に、漏れ・ダブリ・ズレが混ざると、提案は実行に至らず、混乱と障壁だけが残ります。本稿は、阻害因子を素早く検出し、行為に転じる言語へ仕上げる手順とテンプレを提示します。

1. 問題提起:なぜ“言い方”で成果が消えるのか

1-1. 言語行為の両義性

  • 創発:適切に設計された言語は意思決定を誘発し、行動を起こす。
  • 阻害:設計不良の言語は信頼を傷つけ、実行を止める。

1-2. 三大阻害因子

  • 漏れ:重要要素が欠落し、信憑性が下がる。
  • ダブリ:重複で冗長化、理解・記憶・採択率が落ちる。
  • ズレ:定義/粒度/前提の不一致で論がつながらない。

2. まず潰す:高速チェックリスト

2-1. MECEライト(漏れ/ダブリの一次検査)

  • 相互排他:各項目の定義を1行で書き、重複語を赤入れ(実務はコメントで可)。
  • 全体網羅:上位命題を「だから/つまり」で再記述し、下位項目で説明できない語が残れば漏れ。

2-2. ズレ検査

  • 粒度:同じ階層で、名詞化の抽象度を合わせる(概念×概念、施策×施策)。
  • 前提:期間・対象・KPIの単位を見出し直下に明記。

3. 訓練法①:共通項で束ねる(上級)

3-1. 目的

散在情報を共通属性で分類し、冗長と欠落を同時に見極める。

3-2. 手順

  1. 列挙:役立ちそうな情報をすべてリスト化。
  2. 仮グルーピング:2〜5群に分けて当て込み。
  3. 群内検査:各群で漏れ・ダブリ・ズレを修正。
  4. 群間検査:群同士で重複/欠落がないか再確認。

コツ

  • 各群名は動詞句OR名詞句のどちらかに統一。
  • 要素が3つ超なら、さらに一段「共通項」を発明して再束ね。

4. 訓練法②:上位概念を二股で立てる(初級〜中級)

4-1. 二股ブレークダウン

まず確実に二分できる上位軸を置き、見落としをあぶり出す。

例:原因追及の誤り

心理/方法/時間/環境 …だけでは「計画」が漏れる。

修正の起点

計画か、運用か。
その後に細分(心理・方法・時間・環境…)。

4-2. 構造化のルール

  • 上位は目的語、下位は手段/要因にそろえる。
  • 二股の片方に入らない要素が出たら、上位軸の見直しを最優先。

5. プレゼン適用:作用を生む“出し方”

5-1. 過多の抑制

受け手の許容に合わせ、要点は2〜3個に限定。残りは付録/Q&Aへ退避。

5-2. 優先順位の根拠

  • インパクト×実行難度の2軸でA/B/Cに色分け。
  • 前提の成り立ち(対象・期間・KPI)をスライド1枚で宣言。

5-3. 言語→行為の橋渡し

  • 各要点に対し、担当・期日・最小次アクションを1行で併記。
  • 意思決定テーブル(決定/相談/共有)を明示。

6. そのまま使えるテンプレ

6-1. 三大阻害因子チェック

対象:__(誰に/いつの結果を出すために)
上位命題:__(一文)
下位項目:
1)__/定義:__
2)__/定義:__
3)__/定義:__
漏れ検査:上位命題を下位で言い換え可能? □YES □NO → NO要素=漏れ候補
ダブリ検査:定義語が重複していないか? □OK
ズレ検査:期間/対象/KPIの単位は統一? □OK

6-2. 二股ブレークダウン

上位軸:A(__)/B(__)
Aの下位:a1__/a2__/a3__
Bの下位:b1__/b2__/b3__
“どちらにも入らない”項目:__ → 上位軸を再定義

6-3. 提案スライド要点カード

要点#1(最大インパクト)
根拠:__(一次情報/データ・期日)
阻害因子:漏れ__/ダブリ__/ズレ__(修正済)
次の一手:担当__/期日__/“KPI:__”

7. ミニ事例(適用のイメージ)

7-1. サービス不振の原因分析

  • 上位二股:計画(戦略不一致)/運用(実装遅延)。
  • 運用側の下位:人員配置/手順不整備/ツール制約。
  • 「価格」がどちらにも入らず→上位に“提供設計(価格/商品構成)”を追加。漏れ是正。

7-2. プレゼン化

  • 要点を「提供設計/運用」の2本に絞り、残りは付録。
  • 各要点に担当・期日・最小実験を1行で添付し採択率を上げる。

8. まとめ

漏れ・ダブリ・ズレを先に潰し、二股上位→下位展開で構造を整える。
そして、要点を2〜3に絞り、行為(担当・期日・最小手)へ橋渡しする。
これが、言語を作用へ変える最短ルートです。

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