前回は特定同族会社事業用宅地などの相続税の課税価格の計算の特例についてでした。今回は山林の特例や債務控除などについてです。
山林についての相続税の課税価格の計算の特例(法69の5)
森林のなかでも一定の要件を満たせば、相続税の課税価格の一定割合を減額することができます。
これは特定森林経営計画対象山林を取得した個人に適応される制度です。
相続開始の時から相続税の申告期限まで引き続き当該選択特定計画山林のすべてを有している、あるいは一定の場合には、当該選択特定計画山林の価額に95%を乗じた額とすることができます。
小規模宅地などの相続税の評価減の特例との併用について
結論から云えば、いずれかを選択する必要があります。
ただし、小規模宅地などの特例を選択した場合で、適用面積が上限面積200㎡に満たない場合には、その満たない部分の割合を限度として特定計画山林について特例を適応することができます。
では、小規模宅地などの評価減と併用する場合の計算例を見てみましょう。
事 例
- 特定居住用宅地などの評価減適用可能宅地:165㎡、6,000万円
- 貸付用宅地などの評価減適用可能宅地:100㎡、1,500万円
- 特定計画山林の特例適用可能な特定計画山林:5億円
特定居住用および貸付用宅地などの評価減を適用した場合
①特定居住用部分:6,000万円×80%=4,800万円
②貸付用部分:1,500万円×50%=750万円
③特定計画山林部分 5億円×0%×5%=0円
※0%=200㎡ー200㎡/200㎡、200㎡=165㎡×200/300+100㎡
評価減合計額:5,550万円
貸付用宅地などの評価減を適用しない場合
①特定居住用部分:6.000万円×80%=4.800万円
②特定計画山林部分 :5億円×50%×5%=1,250万円
※50%=200㎡ー100㎡/200㎡、100㎡=165㎡×200/300
評価減合計額:6,050万円
小規模宅地などの評価減を適用しない場合
5億円×100%×5%=2.500万円
以上の結果から、このケースでは「特定居住用宅地などの評価減の特例と特定計画山林の特例を併用」した場合が最も有利になることがわかります。
ただし、この特例は、相続税の申告期限までに遺産分割が完了している特定計画山林というこが条件です。
したがって、未分割の特定計画山林については適用されません。
※申告期限後3年以内に分割された場合には、適用を受けることができますが、申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する必要があります。
債務控除について
相続税は、相続または遺贈により取得した財産に課税するものです。
したがって、相続人が引き継いだり負担した債務や葬式費用は課税対象にはなりません。
これらを債務控除と呼んでいます。
債務控除の対象となるもの
相続財産から控除されるものは、相続開始の際、現に存するもので確実なものに限られます。
また、相続を放棄した者または相続権を失った者については適用されません。
そもそも、債務控除は相続人および包括受遺者に適用されるものだからです。
ただし、葬式費用については現実に負担した金額は控除しても差し支えありません。
では、債務控除が適用できるものと、できないものをもう少し詳細に見てみましょう。
控除可能 | 控除不可 | |
債務など |
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葬式費用など |
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※相続開始時点で納付期限が到来している未納付のものだけでなく、納付期限が到来していないものも債務控除の対象になります。なぜなら、住民税や固定資産税などは賦課期日に納税義務が確定したものと解釈されるからです。 |
外国に住所を有する納税義務者における債務控除
課税時期に外国に住所を有する者が日本国籍を有していない場合
葬式費用を負担しても債務控除の対象にはなりません。
債務控除の対象となるのは次に掲げる債務のうち、その納税義務者が相続などをしたその課税対象財産にかかる債務で、その納税義務者が負担することとなる金額だけに限られます。
- その者が取得した財産にかかる公租公課
- その財産を目的とする抵当権などで担保される債務
- その財産の取得・維持・管理のために生じた債務
などです。
日本国籍を有する者が課税時期に外国に住所を有しており、かつ、その者・被相続人のいずれかが、相続など開始前5年以内に日本に居住している場合
課税時期に日本国内に住所を有する場合と同じ扱いです。
つまり、債務控除に制限はありません(平成25年4月1日以後は、日本国籍外無制限納税義務者も含まれている)。
次回は贈与財産の加算、未分割や代償分割などについてです。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。