みなし相続財産
相続税は、相続または遺贈により取得した財産について課されるもので、民法上は相続または遺贈により取得した財産と解釈されています。
この相続財産は「金銭に見積もることのできる経済価値のあるものすべて」であると解釈できます。
なぜなら、物権、債権、無体財産権に限らず借地権、借家権、営業権のような法律の根拠を有しないものまで、経済的価値があると認められるものにはすべて課税されるからです。
例えば具体的な例として、、、、
土地、家屋、株式、預貯金、現金、貴金属、宝石、書画、骨董、自動車、立木、金銭債権、営業権、著作権などがあります。
また、民法に規定する本来の相続や遺贈により取得した財産でなくても、経済的にみて相続や遺贈で財産を取得したものと同じ効果がある場合には、相続や遺贈により取得したものとみなして相続税が課税されます。
相続や遺贈により取得したものとみなされる財産
相続または遺贈により取得したとみなされる財産には例えば以下のようなものが考えられます。
- 生命保険金など(相法3①一)
- 退職手当金、功労金など(相法3①二)
- 生命保険契約に関する権利(相法3①三)
- 定期金に関する権利(相法3①四)
- 保証期間付定期金に関する権利(相法3①五)
- 契約に基づかない定期金に関する権利(相法3①六)
- 相続または遺贈により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者の受贈財産(相法21の16①)
- 贈与税の納税猶予の適用を受けている農地などの贈与者が死亡した場合の農地など(措法70の5)
- 非上場株式などの贈与税の納税猶予の適用を受けている経営承継受贈者の贈与者が死亡した場合の非上場株式など(措法70の7の3)
また、遺贈により取得したとみなされる財産には、以下のようなものが考えられます。
- 特別縁故者への財産分与(相法4)
- 低額譲受(相法7)
- 債務免除など(相法8)
- その他の利益の享受など(相法9)
- 信託に関する権利(相法9の2、9の4)
- 特別の法人から受ける利益(相法65)
1,生命保険金など(相法3①―)
被相続人の死亡により取得した生命保険金などのうち被相続人が負担した保険料に対応する部分は、相続財産とみなされます。
それ以外の部分については、保険料の負担者によって所得税・住民税や贈与税が課されることになります。
また、損害保険契約についても、保険料負担者の死亡に伴い受け取った損害保険金は、相続財産とみなされます。
その他
会社などが保険料を負担している場合
保険料を従業員が負担したものとみなされ、従業員の死亡により保険金をその相続人が受け取った場合には、相続財産とみなされます。
受取人が会社で、その保険金を退職金にあてた場合は、退職手当金などとして、みなし相続財産になります。
固有の財産か?遺産か?
相続人などが取得する生命保険金については、保険金受取人固有の財産と解されます。
一般的には、被相続人の遺産に含まれて相続の対象となるのではなく、当初から保険金請求権として受取人である相続人などが契約の効果として直接取得するものだからです。
ただし、被相続人が生命保険契約上の受取人を「相続人」としている場合などは、その意思解釈によっては、被相続人の遺産になることもあり得ます。
被相続人自体が保険金受取人になっている場合
「保険契約の性質上、保険金請求権は相続財産にならず、保険金受取人である被相続人の相続人または保険金契約者が原始的に取得するものと解釈するべきだ」という意見もあります。
しかし、一般的には、被相続人の死亡を保険事故とする生命保険金の請求権は、法律上の相続の効果として取得するものではありません。
ですから、被相続人を被保険者とする保険事故の発生に基因して、保険金受取人が直接取得するというのが一般的な解釈になります。
つまり、相続税の課税対象となる相続財産を構成しないことになります。
しかしながら、このような生命保険金請求権の取得は、経済的な観点からすれば相続または遺贈による財産の取得と同様に取り扱うのが妥当だとされています。
したがって、相続税法では、これを相続または遺贈による財産取得とみなす(「みなし相続財産」)こととしています。
2,退職手当金など(相法3①二)
被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの。
上記の当該給与の支給を受けた者について、その給与の額を相続または遺贈により取得したものとみなされます。
- 相続財産とみなされる退職手当金などは「死亡後3年以内に支給が確定したもの」に限られる。
つまり、「支給が確定したもの」なので、実際に支給される時期が死亡後3年以内であるかどうかは関係ありません。
ですから、支給されることが確定していても額が確定していないものについては、「支給が確定したもの」には該当しません。(相基通3-30)。
被相続人が退職後に死亡した場合
その支給されるべき額が被相続人の死亡前に確定しなかったもので、死亡後3年以内に確定したものについては、相続財産とみなされます(相基通3-31)。
被相続人の死亡により受け取った弔慰金などが、社会通念上相当の金額であれば相続税の課税財産とはなりません。
しかし、一定の基準をこえる部分は退職手当金などに該当するものとして課税されます。
生前退職により生前確定した退職手当金
被相続人に所得税・住民税(退職所得)が課せられ、死亡時までに費消されなかった額は相続税の課税対象となります。
被相続人の死亡後3年以内に支給の確定した退職手当金
相続財産とみなされ相続税の課税対象となります。
なお、所得税・住民税は課されません(所得税法9①十六)。
被相続人の死亡後3年を経過した後に支給の確定した退職手当金
受け取る者に対して所得税・住民税(一時所得)が課せられます(所得税基本通達34-2)。
その他
- 死亡後に確定した(被相続人が受けるべきであった)賞与は、本来の相続財産(相基通3-32)。
- 死亡時に支給期の到来していない俸給、給料などは、本来の相続財産(相基通3-33)。
一般に、退職手当金などは、退職給与規定などに基づいて支給され、通常の場合は本人に、死亡による退職の場合にはその遺族に支給する旨を定めているのが通例です。
ですから、死亡退職者の退職手当金などを死亡した者(被相続人)の財産とみるか、退職手当金請求権とみるのか、相続人固有の財産と視るかという問題が発生します。
前者は退職手当金は本来退職者自身が受給すべきもので、たとえ退職給与規定などで受給者を特定しているとしても、それは単に受給者代表を定めただけだとする解釈です。
つまり、たまたま受給者となるべき退職者が死亡したため相続人が受給するにすぎないという考え方です。
後者の場合は、死亡による退職の場合は、死亡後の株主総会などで初めて退職手当金の支給が決まることになり、退職者の死亡の時点では何らの権利も発生していないことを指摘しています。
課税の公平を図る観点から、こうした見解の相違にあえて立ち入ることを避け、死亡による退職金は経済実質的には相続または遺贈による財産の取得と同視すべきだとしています。
3,生命保険契約に関する権利(相法3①三)
まだ保険事故が発生していない生命保険契約
掛捨ての保険契約は除きますが、被相続人が保険料の全部または一部を負担し、かつ、契約者が被相続人以外である生命保険契約がある場合、その権利のうち被相続人が負担した保険料に対応する部分の生命保険契約に関する権利は、契約者が相続または遺贈により取得したものとみなされます。
なお、契約者が被相続人である場合は、本来の財産になります。
4,定期金に関する権利(相法3①四)
まだ定期金給付事由が発生していない定期金給付契約(生命保険契約を除く)
相続開始の時において、
- 被相続人が掛金または保険料の全部または一部を負担
- かつ、被相続人以外の者が当該定期金給付契約の契約者である場合
その契約に関する権利のうち、被相続人が負担した掛金または保険料で当該相続開始の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分の権利については、被相続人から相続または遺贈により取得したものとみなされます。
5,保証期間付定期金に関する権利(相法3①五)
定期金給付契約で、
- 定期金受取人に対してその生存中または一定期間にわたり定期金を給付。
- かつ、その者が死亡したとき。
その死亡後、遺族その他の者に対して定期金または一時金を給付するものに基づいて、相続人その他の者が、定期金(継続)受取人または一時金(継続)受取人となった場合。
その(継続}受取人となった者は、その取得した受ける権利のうち、被相続人が負担した掛全または保険料の全額に対応する部分に相当する部分を、相続または遺贈により取得したものとみなされます。
6,契約に基づかない定期金に関する権利(相法3①六)
被相続人の死亡により、相続人その他の者が定期金に関する権利で契約に基づく以外のものを取得した場合には、その定期金に関する権利を取得した者は、相続または遺贈により取得したものとみなされます。
7,信託に関する権利(相法9の2)
委託者や受益者などの死亡により、適正な対価を負担せずに信託の受益者などとなった場合や新たに利益を受けることとなる場合は、その信託に関する権利や新たな利益を遺贈により取得したものとみなされます。
次回は納税義務者と非納税義務者についてです。
ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。