
遺族の生活保障
①必要保障額の考え方
世帯主に万が一のことがあった場合、残された家族の生活を守るためには、どれくらいの保障がいつまで必要だろうか?
世帯主の必要保障額は、残された家族の「今後の生活費(支出)」累計から「今後の生活資金(収入)」累計を差し引いた金額として考えられる。
今後の生活費(支出)には、子どもが独立するまでの日常生活費と、子どもが独立してから妻の平均余命までの日常生活費、子どもの教育費、子どもへの結婚援助費用などが考えられるだろう。
例えば、
サラリーマン世帯の平均の月間日常生活費は約32万円だ。(平成27(2015)年、総務省家計調査年報)
この日常生活費は、
- 固定費と考えられる住居費・水道光熱費
- 家族の数に合わせて増加する食費・教育費
- 収入に合わせて増加する教養娯楽費、交通費、衣料費
などに区分できる。
このように生活費は、固定的な費用と、変動的な費用に分けられる。
しかし、変動的な費用とはいえ、いったん生活水準が上がるとその水準を落とすは難しいというのが実情だ。
今後の生活資金としては、妻の就業や貯畜や生命保険金などの自助努力、公的年金、企業の福利厚生制度などが考えられる。
また、必要保障額は、末子の誕生で最大になり、年を追うごとに減少していくのが一般的だ。
②ライフイベントと必要保障額
a)子どもの誕生
子どもが誕生すると、必要保障額は増加する。
この必要保障額は、子どもの誕生の時点で最高になり、成長につれて減っていき、子どもが独立したときゼロになる。
子どもに関する必要保障額には、日常生活費や教育費、結婚援助費用などが含まれる。
子どもの日常生活費は、子どもが経済的に自立するまで続くが、実際には大学卒業時点までとすることが多い。
また、子どもの教育費などを考える場合、親の教育に関する考え方が重要になる。
例えば、
幼稚園から大学まですべて私立の場合には、約2,561万円、すべて公立の場合には、約1,092万円の教育費が必用だ。
特に大学の場合、国公立か私立か、進学学部や下宿か自宅通学かによって大きく差がでる
文部科学省「平成26年度子供の学習費調査」、日本学生支援機構「平成26年度学生生活調査」。
また、学校教育費だけでなく、学習塾などの学校外教育費も考慮する必要があるだろう。
子どもの結婚援助費用をみると、結婚費用が約352.7万円、親・親族の援助総額の平均は162.4万円(ゼクシィ結婚トレンド調査2015)となっている。
そして、子ども誕生の場合、この時点でこれらの必要保障額が発生することに留意しておく必要がある。
b)住宅の購入
住宅の購入は、一般のサラリーマン家庭にとって生涯最大の買い物だといえる。
したがって、必要保障額を考える場合、「持ち家」か「賃貸」かによって、固定費の代表である住居費が大きく異なってくる。
一般的に、住宅を購入し住宅ローン契約を金融機関と結んだ場合、団体信用生命保険に加入する。
このため、住宅ローン契約者に万が一のことがあった場合には、住宅ローン債務が消滅するので、住宅ローン返済額を必要保障額から除くことができる。
c)妻の就業
女性の就業人口が2,800万人に近づいた現在では、結婚・出産を機に退職した女性も、子育てが終わってから再就職したり、結婚・出産を経ても仕事を続ける女性が増加している。
配偶者が就業した場合、配偶者の収入だけでなく、厚生年金に加入した場合には老齢厚生年金の支給や、配偶者の就職先の福利厚生制度からの填補が考えられるため、世帯主の必要保障額は一般的に減少する。
③遺族の収入と必要保障額
今後の生活資金や遺族の収入の基礎は、老齢厚生年金や遺族年金などの社会保障制度だ。
サラリーマンの場合、これに退職金や弔慰金、グループ保険など企業の福利厚生制度が上乗せされる場合もある。
さらなる上乗せ部分として、生命保険や貯蓄、就労などの自助努力が考えられる。
a)遺族年金
万が一のことがあった場合、故人に生計を維持されていた遺族には、遺族基礎年金や遺族厚生年金が支払われる。
これらの遺族年金には、所得税などは課税されない。
b)企業の福利厚生制度
企業の福利厚生制度として、死亡退職金と弔慰金がある。
これらはともに死亡した人の配偶者に支払われる(配偶者がいない場合は子どもが受取人となる)。
死亡退職金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となり、500万円×法定相続人の数の非課税枠がある。
弔慰金については、月例給与の6カ月分相当額(業務上死亡の場合は36カ月)まで非課税だが、それ以上の金額は死亡退職金として相続税の課税対象となる。
c)自助努力
自助努力には、これまでの貯蓄や生命保険、遺族の就労による収入が挙げられる。
キャッシュフロー表では、1年間の収入から支出を差し引いたものの累計が貯蓄残高となる。
収入が支出を上回っていれば、貯蓄残高は増え続け、定年退職後に支出が収入を上回った場合には、貯蓄残高は減っていく。
この貯蓄残高の推移は、リスクマネジメントを考えるうえで非常に重要なポイントになる。
遺族の就労については、小さい子どもがある場合には特に、安易に収入としない方が賢明だ。
必要保障額を算出する場合には、現実的に就労が可能か、就労した場合にはどのくらいの収入が得られそうなのかの検討が必要だ。
生命保険は、これまで検討してきた諸要素を基に算出した必要保障額に見合う額を設計する必用がある。
だが、必要保障額全額を生命保険で保障することは必ずしも合理的ではない。
なぜなら、現在の条件に完全に対応した生命保険を設計するのは不可能であり、また算出した必要保障額自体も、家族構成の変化や家計の変化または経済の諸要因(インフレ率など)により変化するからだ。
また、平均的な教育費などを前提にしているので、こうした見込みが将来変わってくるなどのおそれもある。
したがって、数年ごとに保険料負担能力や必要保障額の推移を検討し、生命保険の見直しをしていくことが必要になる。
医療保障
医療保障の分野でも、遺族の生活保障を考える場合と同様に、まず健康保険などの社会保障制度、特に自己負担の大きさ、高額療養費制度などについてよく理解した上で、自助努力としての医療保険などを検討するといいだろう。
サラリーマンが加入する健康保険には、全国健康保険協会管掌健康保険(通称「協会けんぽ」、旧政府管掌健康保険)と組合管掌健康保険がある。
全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)では、保険料や給付は一定だが、組合管掌健康保険の場合には、組合ごとに保険料や給付が異なるので、あらかじめ確認しておく必要がある。
特に、退職後のライフプランを考える場合には、健康保険から高齢者医療制度に移行するまでにいくつかの選択肢があり、その選択肢によって保険料や給付が異なる。
例えば、国民健康保険の保険料は前年の収入などに比例するため、退職後すぐに国民健康保険に移行するのは避けて、健康保険の任意継続などを選択した方が有利な場合が多い。
医療保障のための保険には、医療保険や医療特約、生前給付保険、介護保険などがある。
医療保険を選ぶ場合には、給付内容や保険期間、保険料などをよく検討し、医療費だけでなく入院中の家族の生活費なども考えておく必要があるだろう。
老後資金準備
サラリーマンの老後資金準備としては、社会保障制度の老齢厚生年金、企業の福利厚生制度である企業年金、自助努力の財形年金や個人年金や預金などが挙げられる。
生命保険文化センター・老後の生活費に関する調査によると、ゆとりある老後生活費は月額で35.4万円、最低日常生活費は22.0万円となっている。
老齢厚生年金の支給額は、現在のところ老齢基礎年金と合わせ、年金年額150万~250万円程度の人が多い。
昭和36(1961)年4月2日以降生まれの男性は、65歳から老齢厚生年金と老齢基礎年金を受け取る。
平成25(2013)年4月1日施行の改正高年齢雇用安定法により、65歳までの継続雇用制度がより柔軟的に運用されるようになった。
とはいえ、公的年金の制度は、急速な少子化・高齢化の進行や経済情勢の変化などから、保険料と給付額について見直しが今後も検討される可能性がある。
今まで以上に自助努力へのウエイトが高まってくることは間違いないだろう。
プランを考える場合には、厚生年金制度の内容をおさえつつ、老後生活への希望を明確にし、実現可能なプランを考える必要がある。
自分の希望に合わせて、65歳になるまでのつなぎ年金や、終身年金などの年金種類を検討するだけでなく、老後資金準備として、定年前までの資産準備および運用、退職後の資産運用なども包括的に検討しておくとよい。
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ではまた。CFP® Masao Saiki
※この投稿はNPO法人日本FP協会CFP®カリキュラムに即して作成しています。